会計を済ませると、駿は皆を車に乗せ各々を自宅まで送り届ける。そして車内には運転する駿、助手席に座る梓、後部座席で横たわるつかさのみとなった。
「なんかごめんね駿・・聖奈があんなこと言ったから高級店なんて・・」梓は申し訳なさそうにうつむく。
「別に梓が謝る必要ないだろ?」駿は梓の頭を優しく撫でる。
「にしても美味かったな!さすがは高級焼肉店って感じだったよな!」
「うん❤︎ほんと美味しかった❤︎」
「なら、お母さん見つかったら、無事会えた記念でまた皆んなで行くか?」
「え?いいの?」梓はパッと明るくなる。
「ああ!約束だ!」「やったー❤︎」梓はバンザイで喜ぶ。
しばらく車を走らせ、つかさの自宅アパート前に辿り着く。
「雛形先生ー?家に着きましたよ?」
駿が呼びかけるが、つかさは依然として眠ったままで起きる気配がない。
「まいったなぁ・・どうしようか・・」駿が頭を悩ませる。
「なら泊めてあげたら?駿のウチに」梓の提案に駿は「え?泊める?」と目を見開いて驚く。
「だってしょうがなくない?雛形先生起きないじゃん!」
「うー・・ん」駿はしばらく考え込む。
「しょうがないか・・一旦ウチに連れてくか」
駿はつかさを家に泊める事を決め、車を走らせる。
駿と梓は2人協力して、つかさを部屋に入れ、寝室に敷いたベッドに寝かせ、リビングのソファに腰を下ろす。
「まったく雛形先生は・・」駿は自らの肩を手で揉みほぐしながらため息をつく。
「あ!肩凝ってるの?なら私が肩揉んであげるよ!」梓は立ち上がり、駿の肩を揉む。
「いや、いいよ!」駿は最初こそ断っていたが、 凝っている箇所をピンポイントで身ほぐす梓に「お?案外上手いな?」と驚く。
「でしょ?でしょ?お母さんの肩とかよく揉んでたんだ!だからね!ある程度なら何処が凝ってるとか分かるんだよ!」
「まじか!?凄いな!」
「こことか凝ってるでしょ?」梓は手の位置をずらして、肩甲骨を辺りを揉む。
「あ゛ー!そこ!ちょうど痛かったトコだよ!あ゛ーサイコー!」駿は極楽浄土と言わんばかりに、ご満悦な表情をしている。
しばらくそうやって時間を潰す駿と梓。
するとソファに座る梓が不安そうに「探偵さん・・大丈夫かな?」と呟く。
「大丈夫だって!安心してプロに任せよう!な?」駿は梓の肩にそっと手を添える。
「そうじゃなくて・・裏路地って結構危ない所だったよ?ヤクザみたいな人だって居たし・・そこを重点的に捜索するって・・探偵さん・・危なくない?」
探偵の身を案ずる梓に駿は「やっぱ梓は優しいな」と語りかけ、頭を優しく撫でる。
「え?優しい?」梓は突然投げかけられた言葉に首を傾げる。
「前に俺が言った事忘れたか?自分を後回しにして他人を心配できる人は優しいって!梓に前言ったろ?」
「駿・・・」梓は照れた様に微笑む。
「梓はずっと優しいままだな!人って良くも悪くも変わっちゃう生き物だから、そんな中でずっと優しく居続けれるって、すごい事だよ!」
駿は梓の頭を優しく撫でる。
「私ね・ ・駿の事が好き・・大好き」
突然の告白に駿は戸惑いを隠せない様で「こらこら!人をからかうもんじゃないぞ?」と平然を装いながら梓の頭をポンポンと叩く。
「嘘じゃないよ!私・・駿の事が大好き!これは私の素直な気持ちだよ?」
梓の真剣な眼差しに触発され駿も自分の気持ちを口にしようとするが、言葉が喉の奥につっかえて止まる。
このまま不用意に気持ちを伝えてしまったら、今の関係が跡形もなく崩れてしまうかもしれない。
そんな考えが駿の頭の中を駆け回り、結果沈黙してしまう。
しかしそんな駿の考えを察したのか、梓は背後に振り向き、こう呟いた。
「無理しなくていいよ・・だって駿は先生なんだもんね・・やっぱり教師と生徒なんてマズイもんね・・私も駿と付き合いたいとか、そんな贅沢言ったりしないから安心して?」
梓は駿に目を合わせない。
「梓・・俺は」場の空気に耐えれなくなった駿が口を開こうとすると、梓がそれを遮る様に「じゃあ、もう寝るね?おやすみ」と口にし、寝室へと消えて行った。
「梓・・・」駿にできる唯一の事は、寝室に通ずるドアを精一杯不安そうな顔をして見つめる事だけだった。
それからしばらくの間、駿が虚な表情でソファに座り、興味のない通販番組を見つめていると、不意に寝室のドアが開いた。
駿が何の気なしにそれを見ると、そこにはつかさの姿があった。
「あ!雛形先生!起きたんですね!」
「やっぱり・・皆川先生の家でしたか・・」
つかさの表情は見るからに疲れ果てていると言った感じだった。
「ご迷惑をおかけしました・・今日のところは失礼します」つかさはそう言って玄関へ向かって歩みを進めるが、足がもつれて倒れそうになってしまう。
「あ!雛形先生!」すかさず駿が駆け寄る。
「まだお酒が完全に抜けきれてないんですよ!迷惑なんて思いませんから、今日は泊まってってください!さぁ!さぁ!水持ってきますから座って!ね?」
駿はつかさを介抱するようにソファに座らせる。
「申し訳ないです・・ホント」 つかさはソファに倒れる様に座る。