水を飲んで落ち着きを取り戻したつかさが口を開く。
「私・・あまり覚えてないんですけど・・どれくらい飲んでましたか?」
「うー・・ん、そうですね・・瓶ビール4本くらいですかね?」駿が思い出す様に言った。
「はぁ〜・・そんなに・・もうホントすいません・・申し訳ないです」
つかさは何度も頭を下げる。
「いいですよ!まぁ、雛形先生の意外な本音も聞けましたし!あはは」
「え?私って酔った勢いよくで何か言っちゃいました?やだ・・全く記憶にない・・」
頭を抱えて嘆くつかさを見て、自分は余計な事を言ってしまったと焦る駿。
「あ、ま、まぁ、そんな変な事は言ってませんでしたし・・大丈夫だと・・思いますよ?あはは」駿は精一杯の笑顔で乗り切ろうとする。
「ちなみに・・私何って言ってました?」
「あ、ああ、ホラ!あれ!生徒には幸せになって欲しいって!結構胸にズシッと来るアツい事言ってましたよ!
あれは目頭が熱くなっちゃいましたよ!」
「もう恥ずかしいんでやめてくださいよ」
駿は気遣いで言った言葉だったが、つかさには更なる恥ずかしさを与えるだけだったようで、つかさは両手で赤くなった顔を覆う。
「ああ、すいません、別に馬鹿にした訳じゃ無いんですよ?まぁ、この話は辞めにしまょうか!ね?あはは!」
駿とつかさはしばらくの間、2人して無言のままテレビを見つめていた。
「あ!そう言えば探偵さんから連絡ってありました?」つかさが思い出した様に口を開く。
「いえ・・まだです・・」駿は落ち込んだ様に首を横に振る。
「そうですか・・でもプロに任せてるんだし・・すぐに見つかりますよ」
「本当に・・見つかるんでしょうか?」と声を震わせる。
「え!?」つかさは駿の意外な本音に目を見開く。
「梓にはプロに任せれば安心だ!なんて詭弁垂れてますけど、内心は本当に見つかるのか不安なんですよ・・
探偵だって魔法使いじゃ無い、見つからない可能性だってあります・・
もし見つからなかったら・・俺・・梓になんて言ってやれば良いんだろうって、気づくとそればかり考えちゃうんです・・・」
駿の目から涙が溢れ出る。そんな駿の話をつかさは黙って聞く。
「俺的に、17歳って言ったら、まぁ表現が合ってるか分かりませんけど、何というか、微妙な年齢だって思うんですよ」
「微妙?どう言う意味です?」
「17歳って大人か?って言われると違うし、なら逆に子供か?って言われるとそれも違うし、何というか、大人と子供の境界線の様な年齢だと俺は思ってて
来年成人だし、そのせいで、手放しで誰かに助けを求め辛いと思うんですよね
言わなかったら子供は黙って助けを求めろ!って言われるし、逆に言ったら言ったでもう大人なんだから!って言われるじゃないですか?
そういう葛藤が人生の中で一番大きい年齢が17歳だと思うんです」
「た、確かに・・そうですね・・」
駿の言葉につかさがうなずく。
「でも教師をやってて思うんですけど、やっぱ17歳ってまだまだ子供なんですよ
俺だって17歳の頃は両親に甘えっぱなして、迷惑ばかりかけてました
まだまだ未熟だし間違いも犯すし道も踏み外す・・そんな子たちを正しい方向に導いてやる為に親や教師がいるんです・・
けど梓にはそんな迷惑をかけれる親が居ないんです・・お父さんは癌で他界してお母さんは行方不明・・梓には心の拠り所が無いんです・・だから・・だから早く見つかって欲しいんですけど・・不安で・・・」
声を殺して啜り泣く駿の肩につかさがそっと手を添える。
「確かに金森さんには、心の拠り所であるはずの両親はいません。けど皆川先生は居ます!」
「え?」種は驚いたように目を見開く。
「何を驚いてるんです?皆川先生が今言ったんですよ?正しい方向に導いてやる為に親や教師がいるって!
正しい方向に導いてあげれる筈の親が居なくても、皆川先生が導いてあげればいいじゃないですか」
「雛形先生・・・」駿の目に涙が浮かぶ。
「皆川先生は間違いなく、金森さんの心の拠り所になってます!少なくとも私はそう思ってます!」つかさは真剣な眼差しで駿に語りかける。
「そうなんでしょうか・・・」
「皆川先生は分かってませんね!いいですか?人って四六時中自分の事を考えてくれる人が1人居るだけで、それだけで救われるんですよ?」
「雛形先生・・」つかさの優しい言葉に、さらに駿の目から涙が溢れ出る。
「ですから大丈夫です!皆川先生は金森さんの支えになってますから!」
「あ、ありがとうございます・・」
駿は微笑みながら、目から流れてくる涙を服の裾で拭う。
すると突然寝室に通ずるドアが開く。
そこに居たのは涙を流して啜り泣く梓だった。
「あ、梓!?」「金森さん?」
「もしかしてさっきの話聞いてたのか?」
駿は話を聞かれていたのでは無いかと、焦った様に立ち上がる。
「駿!ごめんなさい!」梓は泣きならが駿に抱きつく。
「ちょ!梓!やめろって!雛形先生の前で!」
「私・・駿がそんなに私の事考えてくれてるなんて、全然知らなかった・・・」
2人のやりとりをつかさは黙って見届ける。
「それなのに私ったら・・自分の事をばっか考えて・・駿の気持ちを無視して・・自分勝手な気持ち押し付けちゃった・・本当にごめんなさい!」
梓は大粒の涙をこぼしながら謝る。
「謝らないでくれよ梓・・梓が謝る事なんて何ひとつ無いだろ?」
駿は梓の目から流れる涙を指先で拭う。
「まぁ、こんな事言ったら教師失格かもしれないけど・・梓の気持ち・・すごく嬉しかったよ・・こんな俺にあんな事を言ってくれて・・すごい嬉しかったよ! だから謝る必要なんてない!」
駿は梓の頭を優しく撫でる。
「本当に?私・・駿の重荷になってない?」
梓は不安な眼差しで駿を見上げる。
「あはは!そんな心配してたのか?重荷なんて思った事なんて一度もないよ!」
「駿・・ぐすっ・・」梓は駿の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
「オホン!オホン!」つかさが大袈裟に咳払いをする。
一瞬ではあるものの、つかさの存在を忘れていた駿と梓が現実を思い出して咄嗟に離れる。
「い、いやぁ・・あはは!」駿は笑ってその場をやり過ごそうとするが到底無理な話だった。
「皆川先生?なんでも笑って誤魔化そうとするの、そろそろ辞めにしませんか?」
「あ、す、すいません・・・」駿は深々と頭を下げる。
「まぁ、いいですけどね・・なら私は先に休ませていただきます」つかさはそう言うと、寝室に入ろうとする。
「え?寝るんですか?でも」駿はつかさの行動が不思議だった。
つかさが先に寝てしまえば、駿と梓の2人きりになってしまう。そんな状況はつかさにとって一番避けたいシチュエーションなはず。
それなのに先に寝ると言うつかさに駿は首を傾げる。
「金森さんは・・皆川先生に任せれば安心だと、そう確信しましたから」つかさは微笑む。
「雛形先生❤︎」梓はやっと駿が信頼してもらえた事で安堵の表情をこぼす。
「でもいいですか?一線だけは超えちゃいけませんからね?分かりました?皆川先生!」
つかさの顔が一気に般若の如き形相になる。
「は、はい!!」駿は背筋をピンと伸ばす。
「金森さんから誘惑されても耐えてくださいね?」
「なにそれ!ひどーい雛形先生!私そんな誘惑とかやらしい事しないもんっ!」梓は頬を膨らませる。
「ふふふ、冗談よ!冗談!じゃ!おやすみなさい!」つかさはそう言って寝室へと消えていく。
つかさが寝室へ行き、リビングにはソファに横並びに座る駿と梓のみになった。
「なぁ・・梓?」駿がか細い声で梓に語りかける。
「なぁに?駿」梓は駿の肩に頭を乗せて返事をする。
「ちょっとさ・・縁起でもない話・・してもいいかな?」駿が不安そうな眼差しで梓に言う。
「縁起でもないって・・なに?」梓は駿の肩から顔を離し、駿の方に体を向ける。
「梓のお母さんの話だ・・」駿の言葉に梓の表情が曇る。
「さっきの雛形先生との会話を聞いてたんなら、言うまでもないんだろうけどさ・・俺はお母さんが本当に見つかるのか不安だ・・・
もしかしたら見つからないかもしれない・・」
駿は梓に視線を合わせず、うつむいたまま語る。
「ごめんな?プロに任せとけば良い!大丈夫だ!なんて期待させる言葉並べてたくせに・・矛盾してるよな?
けど・・俺はたとえこの1週間で見つからなかったとしても、絶対に諦めない!」
駿は梓の手を両手で包み込む様に握り、まっずくな目で梓を見つめる。
「駿・・・」梓の目にうっすらと涙が浮かぶ。
「探偵費用もいくらだって出す!見つかるまで諦めない!けど・・それでも見つかるって自信もって言えない・・・だから」
駿は言葉を詰まらせる。
「だから・・だから・・」駿はどうやら何かを躊躇っている様子で上手く言葉が出てこない。
「だから・・なに?」梓は首を傾げる。
「だから・・その・・もし見つからなかったとしても・・俺が・・俺が側に居るからさ・・」
駿は顔を赤く染めてうつむきながら言う。
「駿・・・」梓の目から涙がこぼれ落ちる。
「だから心配しなくていい・・何があっても梓の事・・護るから!」
「駿・・・」
梓は涙を流しながら駿の体に抱きつく。
「ありがとう・・駿は優しいね」
「よせよ・・俺なんて目の前の事に精一杯なだけで・・」
「ううん・・駿は優しいよ・・・」梓が駿の言葉を遮るように言う。
「さっきも駿が私に言ってくれたでしょ?自分を後回しにして他人を心配できる人は優しいって!それ・・駿も同じだよ?」
「梓・・・」
「私との事がバレちゃったら、先生辞めさせられちゃうかもしれないのに、一番に私の事心配してくれてる。
私の事を気にかけてくれてる。駿は優しいよ」
「ありがとう・・梓」駿は梓の体を抱き寄せる。
しばらくすると梓が思いついたように立ち上がり、梓に小指を差し出す。
「ん?どうかしたか?」駿は急に立ち上がる梓を不思議そうに見上げる。
「指切りだよ!指切り!駿が私のそばに居てくれるって約束の指切り!」
「ああ・・指切りね!わかったよ!」
駿は微笑みながら梓の小指に自分の小指を絡ませる。
「指切りげんまん!嘘ついたら・・」梓は少し考えて「ウニ1000匹飲〜ますっ!指切った!」
梓は笑顔で指切りをする。
「ウニ1000匹?まさかあのトゲつきの状態?」
「もちろん!だべる部分だけだったら只のご褒美じゃん!」
「それ・・針1000本よりエグくない?」
ウニ1000匹を頭で想像した駿の顔が青ざめる。
「エグい方が約束破らないでしょ?」
「何言ってんだよ!約束は破らないよ!約束する!そばにいるから!」
駿は梓を優しく抱きしめる。
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