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豪邸の重厚な扉が、静かに閉じた。
屋敷の中は、思っていたよりも暗かった。
夜はすでに深く、廊下の奥は闇に溶け込んでいる。
私は立ち止まり、少しだけ周囲の気配を確かめた。
音はない。
人の動く気配も感じられなかった。
灯りをつけることも考えたが、結局そのまま歩き出す。
この館は広く、夜になると妙に静かだ。
余計な音を立てないほうがいい、そう思っただけだ。
壁に沿って進むと、指先にひんやりとした感触が伝わる。
床板のきしむ位置も、自然と足が避けていた。
私は、特に意識することもなく、廊下を進んでいた。
しばらくして、遠くで小さな音がした。
何かを落としたような、そんな音だ。
次の瞬間、それが声だと分かる。
短く、切れ切れの悲鳴。
胸が一瞬、強く鳴った。
だが、足は止まらなかった。
「……?」
誰に向けるでもなく、小さく息を吐く。
この屋敷では、夜に何かが起きることが、珍しくない。
そう聞いてはいた。過去にも、何度か。
だからだろうか。
驚きよりも先に、考えるべきことが頭に浮かんだ。
――明日の朝は、また慌ただしくなる。
私は歩調を変えず、廊下の奥へと進んでいった。
闇の中では、ものの輪郭が曖昧になる。
それが、少しだけ楽に感じられた。