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#シクフォニ
空彩🍵✒️
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空彩🍵✒️
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「なんで指輪、付けてくんないの?」
不貞腐れた声がマイクに乗って広い会場中に響き渡る。それ聞いた沸き立つファンの黄色い声。「また言ってるよこの人」と語尾に草を生やした柔太郎に続いて「勇ちゃんほんまに仁ちゃんのこと好きやね〜」なんて煽りとフォローの間を行くような絶妙なコメントをする舜太。その斜め後ろで興味なさそうに笑顔で客席を見ている大智。そして不貞腐れた最年長を適当に笑い流して進行を続ける俺。
これが、この台詞を聞いた時のテンプレートだ。
お決まりのってやつ。
「なーあー!仁人ー!」
「はいはい、また今度ね」
適当にあしらって次の曲はなんだったかと考えている頭を他所に、少しだけ嬉しいと思っている心は、まんまと浮き足立って、次の曲を歌う声に熱が入った。
“お揃い”と言う言葉を聞くと発動される勇斗の”指輪問題”。
これの起源を作った張本人はいつまでもしつこく、何故だ何故だと駄々を捏ねるように問うてくる。デザインが好みじゃなかったとか、さのじん厨が指摘してくるからだとか、適当なことを言ってのらりくらりと交わしてきた。
別に、指輪を付けたくないわけじゃない。
ただ、あの指輪は俺の特別大切なものだから。
普段付けないだけで蔑ろにしているわけではなかった。
『ホンマに意地悪やわ、吉田さんは』
いつかの配信後、大智と飯を食っている席で言われた言葉。この日も勇斗は不貞腐れて「柔太郎は良くて、なんで俺はダメなの?」とメーカーが同じだけで形もデザインも違う腕時計を指差して言った。
『指輪、付けてやるだけやん』
『…大智、お前ほんとわかってない』
『そんなんわかりたないわ〜!いい加減に耳にタコができるから早よ付けてやり。あれ、佐野さんの機嫌が気になって俺ら三人とも微妙に緊張すんねん』
網の上で肉を焼きながら文句を言われる。それは流石に申し訳ないなとは思ったが、そんな簡単に済ませられるほど、この指輪問題は俺にとって簡単ではないのだ。
もう彼此数十年、俺は勇斗に片思いをしている。
いつ好きになったのかは思い出せない。もしかしたら初めて会った時には、もう既に好きだったのかもしれない。俺にとっては歳上の後輩。背が高くてお兄ちゃん的存在で、憧れに似た好きをずっと抱いてきた。
ステージで不意にハグされるたび、構ってもらえるたび、可愛いと言われるたび、まだまだ経験値の少ない初心なガキの俺は、何度も何度も勇斗にときめいた。
そうやって心拍数を上げる日々ののち、やっと恋心を自覚した瞬間、失恋も確定した。
だって、男同士で同じグループだなんて、いくら時代が許したとて、世間からは許される筈がない事だから。
しかし、諦めが悪かった俺は、自分から甘えてみたり、わざと距離を置いてみたり、いろいろ試して右往左往して、恋心を拗らせ抜いた。
そして、やっと落ち着いた頃。
あの指輪をもらった。
『俺とお揃い〜』
そう言って指輪を付けた手に向かい合うように自然と出された手。きらりと光った少々厳つく高価な指輪の輝きが、心臓を強く握り潰した。
あの後、家に帰って再度指に付けた指輪。サイズが合っているそれを見ながら、ざめざめと泣いたのを覚えている。
嬉しかった。と同時に、悲しかった。
勇斗はファンを喜ばせる為のエンタメの一環だと思っている気がするし、何十年も拗らせたのに、こんなに呆気なく指輪を渡されて、死ぬほど嬉しいと思ってしまう自分がなんとも滑稽だった。
頭の中で、あの頃、沢山ときめいて苦しいともがいて、泣きながら夜を過ごした幼い自分が、ぶかぶかの指輪を薬指に付けて嬉しそうに笑っている。
それを見ながら、よかったじゃん、と他人事のように眺める俺がいた。
もう、素直に喜ぶことが出来ない。
歳も心も立場も、何もかもが変わってしまった。
時間が経ち、傷に慣れたこの身が感じるこの気持ちを、今更どんな言葉で片付けてていいなのかわからなかった。
それなのに、苦しみながら折り合いをつけて、鎖で雁字搦めにして墓場まで持って行こうとした気持ちを、この一つの指輪なんかで、簡単に呼び起こされてしまったのだ。
嬉しい。嬉しくてしかたがないのに。
ずるい、ずるいよ、勇斗。
…だから俺は、あの指輪を、付けてやらない。
「まーた言ってたね勇ちゃん」
「もうええてホンマに。自覚なしやん」
ライブ後の楽屋付近にて、共にシャワー室へと向かいながら柔太郎と舜太が言う。
薄らと俺の気持ちに勘付いている三人は、くっ付くなら早くしろよ、と呆れたモードに入っている。特にやわしゅんは仲を取り持たせたくて仕方がないらしく、立ち位置をわざと変えて勇斗の隣に俺を行かせたり、仁ちゃんのこと好きなんやな〜なんてわざとらしく”好き”を強調させて勇斗に言ったりしていた。
「あんなん、好き以外何があんねん」
「てかよっしーも。いつまでツンデレやるの?年齢的にキツくない?」
「せやんな。もう好きー!って言ったらええんよ」
「もー、お前ら本当うるさい」
半分おちょくられている気もしなくはないが、二人曰く、勇斗は自覚なしで俺の事が好きなんだと。いや、どこのラブコメだよ、と突っ込みそうになった。そんな都合のいい事この世に存在している筈がない。
ただ、もし仮にそうだとしても、長年の間これだけ感情を引っ掻き回された俺から、あいつに告白するのは、どうにも釈然とはしなかった。
お前が始めた物語だろ。お前に出会わなければ俺はこんな感情を知らなくて済んだ筈なんだ。
「あ、勇ちゃん」
「噂をすれば、だね」
「おー、シャワーお先な〜」
一番臭いのケアに敏感な勇斗はもうシャワーを終えたようで、濡れた髪を拭きながらこちらに声をかけてくる。暑いのか上裸のまま、ガシガシと髪を拭いている姿に驚いて反射的に目を逸らした。そんな俺に気がついた勇斗はゆっくりと近付いてくる。
「仁ちゃん」
「な、なに、…わ、ちょっとっ!」
タオルを首に掛けたまま両手を大きく広げて、ぎゅっと抱きしめられる。こちらはまだシャワーも浴びていない汗まみれだと言うのに、せっかく綺麗にした体で、しかも素肌で抱きしめられた。
「は、勇斗!離せって!俺シャワーまだ!汗臭い!」
「仁ちゃん、ほんと汗の匂いしない、赤ちゃんの匂いする」
すぅ、と首筋を嗅がれて、ひぃ、と声が漏れる。いくら恋心を抱いているとはいえ、普通に汗だくの身体を嗅がれるのは恥ずかし過ぎる。逃げたくてジタバタもがいた所で体格差と力の差で逃げる事ができない。
助けて欲しくて二人を見れば、まーたやってる、やれやれだぜ、そんな顔でシャワー室に入って行った。お前らは俺の協力者じゃなかったのか?
「離せって!はーやーと!」
「ねぇ、仁人」
「…っぅ、な、に、?」
ふざけて戯れ合っている雰囲気から、一気に声色が変わる。がっしり抱きしめられているせいで顔が見えなく、耳元で少し抑えた声で名前を呼ばれた。
それだけでこちらは気が気じゃないと言うのに。
長年の拗らせで鍛えられてしまった忍耐力が瞬時に顔を出し、どきどきする心臓へ凪を与えた。
「今日も楽しかったな」
「あ、あぁ、うん」
「マジで俺、お前らとライブできて幸せだわ」
「…そうだね。俺も幸せだよ」
「ありがとな、仁人、お前のおかげ」
嬉しそうに耳元で囁かれる。
今日の楽しいと言う気持ちを誰かに伝えたかった勇斗らしい行動と言葉だった。
こう言う素直なところが、あの頃からずっと、俺を惹きつけて離してはくれない。
「こちらこそ。ありがとう勇斗。ここまで連れてきてくれて」
軽く抱き返して背中を叩く。
メンバーとしての感謝の気持ち。リーダーとしての気持ち。色々含めて俺なりにもお礼を言った。ひとしきり抱きしめて満足した勇斗は顔を離して、ニカッと笑う。俺の頭をひと撫でしてから、楽屋へと帰って行った。
ぽつんと残された俺は、頭を撫でられた感触と抱きしめた肌の感触、耳元で囁かれた言葉を反復して、変な感情になる。どうしたら良いかわからなくなって、ぐぅ、と顔のパーツが中心に寄せてその場にしゃがみ込み縮こまった。
ずるい、ずっとずるい、あれは反則。
「まーじで無自覚なんだよなぁ、勇ちゃん」
「俺らと〜って言うんならみんな居るところで言ったらええのに、わざわざ仁ちゃんに言うんやもん。ハグなんかもしてさ」
「それな〜あれでLOVEじゃないはカス嘘だって」
いつの間にかシャワーを終えたらしい二人が溜息を吐く。腰が抜けたように見えたらしい舜太が近寄ってきて手を貸してくれた。仁ちゃんもそう思うやろ?と言いたそうな顔でこちらを見る。そんなのわかんないよ、勇斗の行動にいちいち意味を見出していたらキリがないんだから。
「で、どーすんのよっしー」
「俺らもうお手上げや」
二人は呆れ半分に笑う。
歳下の二人と同期に気を遣わせてしまっているのは重々承知だ。だからって俺から告白するのは違う気がする。
この関係を壊したくない。
何かことを起こして、もう二度と修復不可能になってしまったら、それこそ俺は死んでしまいそう。
失うのが怖い。
でもきっと俺が動かなければ、あいつはずっとあのままで、三人にはずっと迷惑をかけてしまうんだろう。
もう、ここら辺が潮時か。
「…仁ちゃん?」
「あーこれ、覚悟決めた顔だな」
二人が何か言っているのを他所に、胸の中でひとつ決心した。
“勇斗に、告白させてやる。”
もう一生向き合いたくなかった気持ちを呼び起こして、なんとしてでも欲しいものは手に入れる精神を煽ったあいつが悪い。
あの頃、散々泣いて苦しんだ自分への餞だ。
ただ、これがもう最後。失敗したら潔く諦めよう。
「…やってやるよ」
独り言を呟いてシャワー室の扉を開けた。
続
コメント
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いやあ、めっちゃ良かった…!仁人の長年の拗らせ片思いが痛いくらい伝わってきて、胸がギュッとなったわ。特に「ずるい」って言葉に全部詰まってる感じが刺さった。お揃いの指輪もらって泣いちゃったエピソード、好きすぎて苦しいのに嬉しすぎて泣くって感情、すごくわかる。 そして最後の「やってやるよ」…!仁人が動く決意したところで続くのかよ!やわしゅんの「それな〜あれでLOVEじゃないはカス嘘だって」のツッコミが完全に正義すぎて笑った。続きめっちゃ気になる〜!🔥 頑張れ仁人!