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あらすじ必読
***
美「すっちー、、、俺、昨日、人を殺したんだ。」
突然、俺(緑川澄知)の『友達』のみこちゃん(黄咲美琴)が俺の家に押しかけてきて、玄関先で言った。
その黄水晶の瞳からはボロボロと大粒の涙が溢れていて、とても苦しそうにしていた。
今は6月。
梅雨の時期で、今はもちろん、今週はずっと雨が降り続いている。
そんな中で傘もささずに歩いてきたのか走ってきたのか、みこちゃんはずぶ濡れで、まだ夏が始まったばかりなのに、寒気でもするかのようにガタガタと震えていた。
その震えは、寒さからではないのだろうということは、先程の言葉と照らし合わせてみれば、誰でもすぐに察することができるだろう。
美「隣の席の、、、いつも虐めてくるアイツ。嫌になって、ほとんど無意識で肩を突き飛ばしちゃって、、、打ちどころが悪かったんよ。」
みこちゃんはいつも、学校である人を中心とした人達に虐められていた。
その理由は、暗いからだとか、地毛が金髪って嘘つくからだとか、キャラ作ってるのにそれを認めないからだとか聞いたことがある。
俺はみこちゃんと幼馴染みだけど、みこちゃんは人見知りなだけで暗いわけじゃない。
地毛が金髪なのも、みこちゃんがハーフなだけだから嘘じゃない。
みこちゃんのこの王子様みたいな声も性格も、どっちもみこちゃん本来のものだ。
だけどそれらは、その人達には受け入れ難いものだったのだろう。
虐められて、とうとうみこちゃんにも限界が来たようだった。
押し退けて帰ろうとした時、思っていたよりも手に力が入っていたみたいで、その子が転んだ拍子に頭を思いっきり棚の角にぶつけて、そのまま死んでしまったらしい。
その場には、その死んでしまった子以外の主ないじめっ子がみんな用事でいなかったことだけが幸いだった。
美「もうここにはいられへんから、どっか遠いとこ行って死んでくるよ。ごめん、すっちー。」
そう言って、まだボロボロと泣きながらも無理矢理笑顔を作って見せたみこちゃんを、見ていられなかった。
俺は、、、みこちゃんに片想いをしていたから。
俺は同性愛者だった。
それに気がついたのは、ちょうど3年前くらいからかな。
そこからずっと、ずーっと、この恋情が冷めることがないまま片想いを続けていた。
だからだと思う。
俺は、みこちゃんをこの手から零れ落としたくなくて、咄嗟に言っていた。
澄「それじゃあ、俺も連れて行って?」
驚いたように目を見開いたみこちゃんの腕を引っ張って、家の中に入れる。
今は両親共に仕事で家にいないから、特に問題はなかった。
財布、ナイフ、携帯、ゲーム、、、それらを全てリュックに詰め込んで。
いらない物は全部壊した。
証拠隠滅を図る犯罪者みたいに。
俺もみこちゃんもぎこちなく笑っているあの写真も、つけていたあの日記も、今はもういらないから。
だって、、、人を殺してしまったみこちゃんと、そんなみこちゃんを愚かに追い続けているダメ人間の俺だけの、新しい旅が始まるから。
澄「今までのものは全部、いらないよね。」
そして俺らは、逃げ出した。
必要だと思ったものを詰め込んだリュック1つだけを持って。
みこちゃんは終始驚いた顔をしていたけど、でも、それからあどけなく笑った。
外に出てみたら、力いっぱい走ってみたら。
俺達が今までいた世界が、どれだけ醜くて狭いものだったかというものがわかるね。
家族もクラスの奴らも捨てて、2人だけで新しい世界を見よう?
どれだけ間違ったことをしてもいいよ。
だってそれは、俺らにとっての正解だから。
すごく遠いところまで行って、大人達の手が届かないところまで行って。
そして、罪を罪を重ねた俺らは、そのままそこで2人で死のうよ。
この世界に価値なんてないから。
だって、人殺しなんてそこら中にいるんだから。
みこちゃんも、あのいじめっ子達に心を殺されたでしょう?
命を奪うだけが人殺しなんじゃないんだよ。
だから。
澄『みこちゃんは、何も悪くないよ。』
俺が、俺の斜め後ろを走っているみこちゃんを振り返りながら言うと、みこちゃんは今にも泣き出しそうに顔を歪めた。
だけど、その涙を飲み込んで、みこちゃんは笑ったんだ。
それはもう、先程のような苦しそうな笑みじゃなかった。
***
美「結局、俺ら愛されたことなかったんやな、、」
全てをかなぐり捨てて逃げ出した数日後。
2人で見つけた隠れ家で食事を取っていた時、みこちゃんがポツリと呟いた。
悲しい言葉だけれど、事実だ。
誰にも言わずに2人で逃げ出してきたのに、警察も動いていないから。
もしかしたら、俺らの家族は俺らのことなんかどうでも良くて、捜索願を出していない可能性がある。
私服警官的な人を見たことがあるけれど、めちゃめちゃすれ違ったけれど、何も言われなかったことから考えたことだが。
澄「嫌な共通点だけど、だからこそ信じ合えるんだよねぇ、この状況で。」
───そうでしょう?
そんな問いかけの思いを込めて、俺はみこちゃんの手をギュッと握る。
すると、みこちゃんもギュッと手を握り返してくれた。
それは力強く、頼もしく、前に感じた震えはなくなっていた。
その手を引っ張ってみこちゃんを立たせると、俺は盗んだパンを手に走り出した。
みこちゃんは、最初は驚いた顔をしていたけれど、徐々に楽しくなってきたのか、笑みを浮かべる。
誰もいないところを探して歩いて、誰にも何も言われないからと線路の上を歩いて。
お金を掏って2人で逃げて、警官に追いかけられては自前の体力で撒いて。
2人なら、どこへでも行けるような気がした。
俺からのみこちゃんへの恋慕は、確かに強くなっていた。
怖いものなんてなかった。
2人で何でも乗り越えれるから。
逃げるために走って額に浮かんだ汗も、走っているうちに落ちてしまった眼鏡も。
もう、どうでも良くなった。
今となってはもう開き直って、全部全部、どうでも良くなったんだ。
これは、あぶれ者の小さな小さな逃避行だから。
美「なぁ、すっちー。例えばさ、優しくて誰にでも好かれるような主人公がいたら。汚くなった俺達も見捨てずに助けてくれるのかな?」
澄「やめなよ、みこちゃん。そんな人いるわけないんだから。現実を見て?シアワセの4文字なんて、どこにもなかったでしょう?だから、ここにいるんでしょう?」
美「俺もそんな夢は捨てたから、例えばの話なんよ。でも、そうやな。自分は何も悪くないって、きっとみんな思ってるもんな。」
俺が窘めるように言った言葉に、みこちゃんはそうやって返して、手の中の誰かの財布を見た。
***
蝉の声がする。
あちこちで蝉の群れが彷徨って飛んで、暑い夏を示している。
持ち歩いていた飲水もなくなって、軽い脱水症状になっているのだろう。
視界が揺れる。
とうとう大人達、、、警官に俺らの捜索願いが出されたのか、後ろから声がする。
でも、あんなに物を持っていたら、誰も身軽な俺達に追いつけやしない。
今この状況でさえも可笑しくて、バカみたいにみこちゃんと笑い合ってはしゃぎあった。
そんな俺達は、大人たちの目にはどう映っていただろう。
少し休みたくて、俺はみこちゃんを連れて大人達の死角になるところに入り込んだ。
ふと、みこちゃんは笑いを収めて俺を真剣な目で見た。
そして、少しのものしか詰められていないリュックからナイフを取り出した。
嫌な予感がして、俺の背筋に冷たいものが伝う。
美「すっちー。すっちーがいたから、俺はここまで逃げてこられた。すっちーのお陰で、俺はほんの少しの間だけ、シアワセを感じることができた。ありがとうな。」
何をしようとしているのかがわかってしまって、俺はそれを止めようとした。
だけど身体が動かなくて、声が出なくて、俺はただただ首を横に振る。
そんな俺を見て、みこちゃんは泣きそうに笑った。
いや、泣いていた。
声も出さず、にっこりと儚く笑ったまま、透明に澄んだ涙を流していた。
美「だから、もうええよ。もう、ええんよ。すっちーはまだやり直せる。だから。」
─────死ぬのは俺だけでええよ。
そう言って、みこちゃんは、自分の首をナイフで掻き斬った。
大量の血が、夥しい量の血が俺にも、地面にもかかった。
生温くて、それが逆にみこちゃんの『生』の証拠のような気がして、俺はそれを拭わなかった。
みこちゃんの、もう動かない身体を抱き抱える。
名前を呼んだつもりだったけど、俺の声は声にならなかった。
少しずつ体温を失って冷たくなっていくみこちゃんの身体を抱いて、俺はその首から刺さりっぱなしだったナイフを抜いた。
目に、みこちゃんの血が入る。
痛いはずなのに、痛くなかった。
俺は、もう開いてはくれないみこちゃんの目に触れ、そのまま彼の頬を撫でた。
そして、優しく顔を近づけ、みこちゃんの唇に自分のそれを重ねる。
血の味がした。
この状況に、何故か笑えてくる。
澄「みこちゃん、、、、ファーストキスは甘酸っぱいレモンの味って聞いたことがあるけど、俺達のファーストキスは血の味がするね、、、、ッ、」
絞り出した声は、掠れていた。
映画の主演にでもなったような気がした。
君は俺の腕の中にいるけど、もうどこにもいない。
俺はもう、君を抱きしめることはできない。
みこちゃんの死体を抱きしめたままの状態で、俺はひとりの警官に発見された。
みこちゃんが持っていたリュックに入っていた、みこちゃんが使っていた水筒には、水がたっぷり入っていたそうだ。
それこそ、大切に飲むことができれば、人ひとりが数日間生きれるような量の水が。
***
どんなに悲しいことがあろうが、俺にとってとても大切な人が死のうが、時は無情に過ぎていく。
世界は変わらない。
俺らひとりひとりの存在が、時を止められるわけもないし、世界を一瞬で変えてしまえるわけでもない。
だから俺は、新たな日記帳を買って、この数日間のことだけをこのノートに記した。
そしてそれを、毎日のように読み返している。
みこちゃんは、もうこの世にいない。
そして人間の脳というものは、過去のことをどんどん忘れさせていく。
もう俺は、みこちゃんの口調も、声も、その視線がいかに暖かかったかも覚えていない。
だけど、少しでも覚えていたくて。
みこちゃんが確かにこの世に存在していて、苦しみながらもちゃんと生き抜いた証拠を残したくて。
少ない語彙を必死に絞り出して、覚えている限り事細かにこの数日間のことを書き。
持ち前の画力を活かして、みこちゃんの似顔絵を描いた。
澄「、、、暑いなぁ」
今は夏。
ただただ暑くて暑くて仕方ない。
そして、夏になると必ず、いつもおれに付きまとってくる虚無感が強くなる。
クラスの奴らも、友達も、家族も、みんな、みんないるのに、みこちゃんだけが俺の隣にいない。
心を作っている欠片の1ピースが抜けてしまって、どうしてもその穴が埋まらない。
───埋まるはずもない。
ずっと拗らせ続けていた初恋をしていた相手を、目の前で失ったのだから。
目を閉じて、あの夏の日を思い出す。
俺はいつまでも、ナイフを自分の首に当てて笑ったみこちゃんに手を伸ばして動かない。
動けない。
でも、心の中では、夢の中ではいつも歌ってる。
その歌は、俺の心からの叫びでもある。
いないとわかっているのに、どうしてもみこちゃんの姿を、気配を、笑顔を探してしまう。
探し続けている。
言いたいことがあるから。
伝えたい、届けたい歌があるから。
俺の記憶はいつでも、6月から9月を彷徨っている。
9月の終わりにくしゃみをして季節の変わり目を意識し出すと、鼻先に6月の香りが漂う。
ずっと、ずっと。
みこちゃんの笑顔は、みこちゃんが俺に与えてくれたあの優しさは、あの無邪気さは。
俺の頭の中の全てを締めて、俺の頭の中で飽和している。
みこちゃんは、悪くなかった。
ただあの生活に、あの状況に我慢の限界が来ただけだった。
それなのに、それなのに、、、、
『みこちゃんは何も、悪くなかったよ。』
『何も、悪くなかったんだ。』
『だからもういいよ、投げ出してしまおう?』
そんな言葉を心の中でかけ続けて、全てみこちゃんには言っていなかった。
本当にみこちゃんは悪くなかったのか、と心の中の悪魔が問いかけてくるから。
悪気はなかったとはいえ人を殺したのは悪いことだし、罪を重ねることを止めなかったもの悪いこと。
だけど、だけどさ。
みこちゃんは、その言葉を待ってくれていたんだよね。
俺がその言葉をかけてあげたら、もしかしたら。
澄「いっしょに、にげつづけてくれたのかなぁ、、、?、、、ッ、、」
ボロボロと、涙が溢れる。
ノートを濡らしたくなくて、胸に掻き抱いた。
悪くないよ、とハッキリ言えたら。
その言葉を待っていたであろうみこちゃんは、死なないで生きていてくれたのかなぁ?
声もなく咽び泣いていると、背中に暖かい感覚がした。
美『大丈夫。あっちでゆっくり待ってるから、すっちーはちゃんと真っ当に生きてな。焦らんといて。まだ間に合うよ。』
そんなみこちゃんの声が聞こえたような気がして、俺は振り返った。
そこにはもちろん、誰もいなかった。
ただ、窓際に飾った黄色いカーネーションが、風邪も吹いていないのに柔らかく揺れた。
もうすぐ、お盆だ。
〈歌詞〉
「昨日人を殺したんだ」
君はそう言っていた
梅雨時ずぶ濡れのまんま
部屋の前で泣いていた
夏が始まったばかりというのに
君は酷く震えていた
そんな話で始まる あの夏の日の記憶だ
「殺したのは隣の席のいつも虐めてくるアイツ
もう嫌になって方を突き飛ばして
打ちどころが悪かったんだ
もうここにはいられないと思うし
どっか遠いところで死んでくるよ」
そんな君に僕は言った
「それじゃ僕も連れてって」
財布を持って ナイフを持って
携帯ゲームもカバンに詰めて
いらないものは全部 壊していこう?
あの写真も あの日記も
今となっちゃもういらないさ
人殺しとダメ人間の 君と僕の旅だ
そして僕らは逃げ出した
この狭い狭いこの世界から
家族もクラスの奴らも何もかも
全部捨てて君とふたりで
遠い遠い誰もいないとこでふたりで死のうよ
もうこの世界に価値などないさ
人殺しなんてそこら中湧いてるじゃんか
君は何も悪くないよ
君は何も悪くないよ
結局僕ら誰にも愛されたことなどなかったんだ
そんな嫌な共通点で
僕らは簡単に信じあってきた
君の手を握ったとき微かな震えは
既になくなっていて
誰にも縛られないで2人
線路の上を歩いた
金を盗んで 2人で逃げて
どこにも行ける気がしたんだ
今更怖いものは 僕らにはなかったんだ
額の汗も 落ちたメガネも
今となっちゃどうでもいいさ
あぶれ者の小さな 逃避行の旅だ
いつか夢見た優しくて誰にも好かれる主人公なら
汚くなった僕たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな
そんな夢なら捨てたよ
だって現実を見ろよ?シアワセの
4文字なんてなかった
今までの人生で思い知ったじゃないか
自分は何も悪くねぇと
誰もがきっと思ってる
宛もなく彷徨うセミの群れに
水もなくなり揺れ出す視界に
迫り来るう鬼たちの怒号に
馬鹿みたいにはしゃぎあい
ふと君はナイフを取った
「君が今までそばにいたから
ここまで来れたんだ
だからもういいよ もういいよ
死ぬのは私ひとりでいいよ」
そして君は首を切った
まるで何かの映画のワンシーンだ
白昼夢を見ている気がした
気づけば僕は捕まって
君がどこにも見つからなくって
君だけがどこにもいなくって
そして時は過ぎていった
ただ暑い暑い日が過ぎてった
家族もクラスの奴らもいるのに
何故か君だけはどこにもいない
あの夏の日を思い出す
僕は今も今でも歌ってる
君をずっと探しているんだ
君に言いたいことがあるんだ
9月の終わりにくしゃみして
6月の匂いを繰り返す
君の笑顔は 君の無邪気さは
頭の中を飽和している
誰も何も悪くないよ
君は何も悪くはないから
もういいよ 投げ出してしまおう
そう言って欲しかったのだろう?
なあ