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「ほら? 本気でかかってきなさい? 全員同時でも良いよ?冒険者も小娘もカマキリも金魚も」
私は髪をかき上げ、来い来いのポーズ。
「お姉ちゃん?私も対象になってない?
ん……あれ!?私!!虫と同列だった!?」
エスト様が震えながら私を見る。
「同列じゃない。最下位だ」
「えっ……お姉ちゃん……?」
エスト様が震えている。
「この村に居座る為にも……殺しはしない……
だが……心は、殺すッ!!」
ビキビキッ!!
私の圧で足元にヒビが入る。
スッ……
そして──私は刀を少し抜き──
……キィン!!
すぐに鞘に収めた。
これは金打。
武士が「やる」って決めたときに鳴らす音だ。
つまり今、エスト様の人生プランが破れた。
「なんか怖い音したけど大丈夫だよね?」
エスト様が不安そうに言った。
「ぱくぱく!」
金魚が口を動かした。
「シュッ! シュッ!」
カマキリが威嚇している。
「何をごちゃごちゃ言ってんだ?」
男の一人が言った。
「はぁ……いいからきなさい」
私は溜め息を吐きながら、
おいでおいで、のジェスチャーをする。
「ふ! ふざけやがってー!」
男が剣を抜き、斬りかかってきた。
*
男の動きはとてもゆっくりに見えた。
スキル『神眼』の効果だろうか?
私は男の斬撃を指で挟んで止めた。
ピタッ。
「遅いし軽いわね。ほら? 次は?
おい? そこの小娘? お前もだよ。来いよ?」
私は笑顔で言った。
「お姉ちゃんごめんね!?」
エスト様が叫んだ。
私は掴んだ剣を離して、微笑みながら言った。
「う……うぅ……」
しかし、男の動きが止まってしまった。
「私も標的に……逃げた方が良いかな……」
エスト様がキョロキョロしている。
「あれ? 来ないの? まさかもう終わり?」
「そ、そんな馬鹿な! う! うわああああああ!」
格の違いに気付き、
追い込まれた男はその場でうずくまってしまった。
どうやら仲間の2人も戦意を喪失しているようだ。
「……くっ……くそっ!」
「なんだ。終わりか。
参考までに私のレベルを教えておきましょうか」
私は笑顔で言った。
「いいですか? 私のレベルは53万です。
ですが、もちろんフルパワーで戦う気はありませんからご心配なく……」
「な……あ……あぁ……」
男達が震えた。
「お姉ちゃん、いつの間にそんなに……」
エスト様も震えてた。
*
観衆がざわついた。
「53万だと? 馬鹿な……そんな戦闘力が……」
「スカウターが壊れてるんじゃないのか?」
村人たちが騒ぐ。
「ぱくぱく!」
金魚が口を動かした。
「シュッ! シュッ!」
カマキリが威嚇している。
「……なぜ俺は金魚鉢を抱えているんだ……」
哲学者が呟いた。
*
冒険者達とエスト様は膝から崩れ落ちた。
53万なんて嘘に決まってるだろ。
私はゆっくりと冒険者達に歩み寄り、
見下ろしながら口を開いた。
「ふん。さっきまでの威勢はどこにいったのやら」
冒険者たちは声も出せず、ただうつむいている。
「冒険者とか言ってたけどさ?
その実力じゃ採取クエストしかできないんじゃない?」
一歩踏み出して、見下ろすように続けた。
「冒険者とか名乗るの、やめたら?」
「”採取クエスト専門家”って名乗った方が、
仕事も増えると思うのよねぇ?」
「わぁ……もう止まらない」
エスト様が呟いた。
「あ、でも外はモンスターでいっぱいだから、
あんまり遠く行っちゃダメよ?」
にやりと笑って、肩をすくめる。
「困ったら雇ってあげても良いわ。声かけてねー?」
スッ……
私は真顔になった。
「ばーかwww ばーかwww」
軽くジャブを入れる。
「ばぁぁぁーかぁぁぁッ!!!」
耳をつんざく金切り声で叫んだ。
*
沈黙。
真顔で見つめる。
「……ばぁ……か……」
私は耳元で囁いた。
「音量差! 怖っ!!」
エスト様が叫んだ。
「く……くううううぅ…」
男は地面を叩いて悔しがっていた。
*
観衆がざわついた。
「み、見ろよ、あれが”胸のない怒り”だ……」
「怖ぇ……でも目が離せねぇ……」
「今夜は酒が進むな!」
「まぁまぁまぁ……立派な角……」
老婆が呟いた。胸は見ない。
「ぱくぱく!」
金魚が口を動かした。
「シュッ! シュッ!」
カマキリが威嚇している。
「……この光景、論文にできるな」
哲学者が金魚鉢を抱えながら呟いた。
*
「あーバカの相手疲れたわー。
さぁ飲み直すかな。……ふぅ………」
私はゆっくりと冒険者達の元をあとにした。
スタスタ……
でもすぐに冒険者達の元に駆け寄り……
スタタッ!!
戻ってきて。
「バァァカッ! バッカ!
ばぁかっ! ばーっかっ!
バカばっかwwww」
ラップ調で叫んだ。
「なんでビート刻み始めたの!?」
エスト様が叫んだ。
「ぐううううう……」
男が地面を転がり悶絶している。
「お、お姉ちゃん……もう、いいよ……?」
エスト様が心配そうに言った。
「何? 小娘? 聞こえないけど?」
私はにっこり笑って、しゃがみ込み、
地面の男の目を覗き込んだ。
「ばーか……」
笑顔で囁く。
「バカァアアアアア!!」
顔面至近距離で爆音を叩き込んだ。
「ぎゃあああああああ……」
男が地面に頭を打ちつける。
「ふぅ……今日はもう、いいかな?」
私は満面の笑みで立ち上がった。
「この人は絶対友達いない……」
エスト様が呟いた。
*
観衆がざわついた。
「お、おい……あれは……呪いだ……」
「キャン…」
村犬が精神的ダメージを受けている。
「……今の光景、歌にできるな」
通りすがりの吟遊詩人が呟いた。
「ぱくぱく!」
金魚が口を動かした。
「シュッ! シュッ!」
カマキリが威嚇している。
「……胸と存在の関係について、新たな知見が得られた」
哲学者が金魚鉢を抱えながら呟いた。
*
そして、
エスト様が何か思いついたようにキョロキョロして言った。
「ふふん! ……震えるがいい、人間たち!」
「これが我が眷属・サクラお姉ちゃんの力なのだー!」
……静寂。
誰も聞いてない。
「……え? 誰かリアクションして?」
エスト様が困惑している。
「シュッ! シュッ!」
カマキリがエスト様に戦闘体制を取っていた。
「ぱくぱく」
金魚もエスト様を見ていた。
*
「あー! スッキリしたッ♪」
私は笑顔で言った。
「……あ、それから棺を買いに行こうね♪
子供用のサイズがあると良いなぁ? 小娘ぇ!?」
「お、お姉ちゃん! これからも仲良くしようね!?」
エスト様が超汗をかいている。
*
──その後の食事は、マウントにマウントを重ねる事によって生成されたスパイスが上乗せされ、格別だった。
*
……その様子を、村の片隅で見ていた青年が、ぽつりと呟いた。
「あの人……強いだけじゃない。
なんつーか、悔しいけど……惹かれるんだよな」
「ツノ生えてて、胸ないけど……
くそ、かっけぇな」
もう一人の青年が言った。
「お前、惚れてんのか?」
「いや、怖い……
でも、なんか……追いかけたくなるだろ」
*
その横で。
「……人間の恋愛感情と恐怖の相関性について、
興味深いデータが取れた」
哲学者が金魚鉢を抱えながらメモを取っていた。
「ぱくぱく!」
金魚が口を動かした。
「シュッ! シュッ!」
カマキリが威嚇していた。
(つづく)
*
「……あのさお姉ちゃん?
昨日の”棺買いに行く”って冗談だよね?」
エスト様が不安そうに聞いた。
「は? 何言ってんの。
もう予約済みよ? Sサイズ。
在庫が心配だったからね?」
私はにっこり笑った。
「えええええええええ!?」
「あと、ふかふかの枕も注文済み。永眠用に」
「やめろぉぉ!」
(つづく)