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それでも良ければどぞ
翔くんの家に遊びに行くのは、これで何度目だろう。
お互い一人暮らしだし、気楽にだらだらできる場所としては最適だった。
「いらっしゃーい、なろっち」
玄関を開けた翔くんは、今日も相変わらずおしゃれだった。
青髪に似合うコーデで、さすがファッションセンス抜群だな、なんて思いながら部屋に上がる。
「相変わらず翔くんの家、片付いてるね」
「せやろ? 一人やと散らからへんのよ」
そんな他愛ない会話をしながらソファに腰を下ろした、その直後だった。
翔くんが、やけに真剣な顔で僕を見る。
「なろっち」
「な、なに?」
「ズボン脱いで」
一瞬、時間が止まった。
「……え?」
頭が理解するより先に、顔が一気に熱くなる。
心臓がどくん、どくんとうるさい。
「ちょ、ちょっと翔くん!? いきなり何言って……!」
「ええから、はよ」
急かすような口調なのに、目はなぜかそらされている。
それが余計に意味深に感じてしまって、僕の脳内は完全にパニック状態だった。
(ど、どういうこと……? ぼ、僕、何かした……?)
混乱しながらも、なぜか体は言うことを聞いてしまう。
恐る恐るズボンを脱いで、手に持ったまま固まっていると、
「それ、貸して」
翔くんは相変わらず僕を見ないまま、手だけを伸ばしてきた。
「……う、うん」
訳が分からないままズボンを渡すと、翔くんは受け取ってすぐ、床に座り込んだ。
そして、ズボンの膝あたりをじっと見る。
「あー……やっぱ穴あいとるな」
「……穴?」
その瞬間、僕はやっと気づいた。
最近、ちょっと引っかけて破れたまま忘れてた、あの小さな穴。
翔くんは裁縫箱を取り出して、手際よく針と糸を動かし始めた。
真剣な横顔は、さっきまでの空気とは別世界みたいだった。
「気に入っとるズボンやろ? このままやともったいないやん」
「……そ、そういうことだったの……」
一気に血が頭に上る。
(僕、なに考えてたんだ……!)
「翔くんの……ばか……!」
思わず、完成したズボンを受け取るついでに、ぺしっと軽く腕を叩く。
「いった! なんでやねん」
「急にあんな言い方するからでしょ! 勘違いするよ!」
「は? どんな勘違いしたん」
じとっと睨まれて、何も言えなくなる。
顔が熱くて、視線を合わせられない。
「……もう知らない」
ぷいっとそっぽを向くと、翔くんは一瞬きょとんとしてから、くすっと笑った。
「なろっち、ほんま想像力豊かやな」
「わ、笑わないで……!」
「はいはい、悪かった悪かった」
そう言いながら、直したズボンを差し出してくる。
「ほら、新品同然や」
「……ありがとう」
小さな声で言うと、翔くんは満足そうにうなずいた。
なんだか恥ずかしくて、でもちょっとだけあたたかい。
そんな午後のひとときだった。
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