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「某は断固反対です!!
その『ゲート』とやらの即時撤去を
要求します!!
そんなものが帝都内にあったら、国防に
責任が持てません!!」
ロマンスグレーの、イギリス紳士のような初老の
外務大臣が血相を変えて吠えまくる。
ティエラ王女より、大使館内に『ゲート』が
作られたと報告を受けた帝国は、
皇帝・マームードの下―――
臨時の御前会議が開かれ、重鎮たちが緊急召集
される事態となっていた。
「トジモフ外務大臣、落ち着いて」
「ティエラ王女様もです!
どうしてその場で抗議しなかったのですか!?
あらゆる地形制限を超えて―――
戦力を送り込めるのですぞ!!
海を隔てているという優位性もこれで完全に
消え去った!
しかもあちらはドラゴンを始め、人の姿になれる
人外が多数いるのです!
その内のただ一体に暴れられただけで、
どれだけの被害が生じるか……!」
王族の女性の言葉に、外務大臣はさらに
問い詰める。
「しかし、大使館は他国の領土と同じ扱い。
いわば治外法権―――
それに互いに内政干渉はしないという前提で、
了承されていたはず」
「自国内、王宮の目と鼻の先に無制限の
橋頭保を作られて、治外法権も何も
ありますか!!
今すぐにでも!!
どんな犠牲を払ってでも『ゲート』は潰して
おくべきです!!」
ゼェゼェと呼吸を荒くしながら怒鳴る大臣に、
皇帝陛下が片手を挙げ、
「まあ待て、トジモフよ。
ティエラの言う通り、大使館は治外法権。
それにまだ目立った動きも、敵対的意思も
見せてはおらん。
……軍はどのように見る?」
この会議には軍のツートップである
帝国武力省将軍、それに魔戦団総司令も
同席していたが、
「遅きに失したのは否めません。
相手を信用し過ぎましたな」
眠たそうな半開きの目に鋭い眼光を宿した、
アルヘン将軍が両腕を組みながら答え、
「すでに作られてしまった以上―――
下手に刺激するのは悪手かと。
魔界王・フィリシュタとやらも、別に
無理難題を吹っかけてきたわけでは
ないのでしょう?」
黄色に近いブロンドの長髪を揺らしながら、
ロンバート総司令も続く。
「は、はい。
要請や要求する事は別に無い、と……
その辺りは魔王・マギア様に一任しているとの
事でしたので」
紫の髪を眉毛の上で揃えた王女が、その質問に
見て来た通りの事を述べる。
「その魔王・マギア様は公聖女・ミレーレ様と
同じ時代に生き―――
彼女に絶大な信頼を寄せていたと聞いて
おります。
心酔していたと言ってもいいほどに。
その彼が、公聖女教の信者が数多くいる
この国に対し、苛烈な行動を取るとは
思えないのですが」
『ふむ』『なるほど……』と、室内の緊張は
和らぎ、冷静な相槌が返ってきて、
「ですが、魔王・マギアは今の公聖女教の
在り方に、少なからず不満を持っているとも
聞いております。
今後どのように動くかわかりません。
『ゲート』について、こちらが懸念を抱いて
いるという事は伝えてもいいのでは」
なおも外務大臣は『ゲート』に対する警戒を
緩めず、進言する。
「皆の者、どう思うか?」
皇帝の問いに全員が背筋を戻すが、
これと言った打開策は無いのか、口を開く事に
二の足を踏む。
「今のところ、国交樹立に関する正式な発表は
まだ行われておりません。
なので条件として、『ゲート』を持ち出す事は
可能だと思われますが……」
ブラン外務副大臣がおずおずと意見を出すも、
「いや、相手はこちらに断りもなくアレを
作ったのだぞ?」
「反発されるのも想定済みだと思うが」
「逆に、それを逆手に取られるかも―――」
と、彼の後に消極的な言葉が行き交う。
「ただ、現時点では脅威は低いと思われる。
もし帝国侵攻の意図があれば……
こんな絶好の機会を見逃すはずはない。
自分ならば、会議を行っている今この最中にでも
攻め入るだろう」
軍人として帝国武力省将軍、アルヘンが
私見を述べ、
「それについては同感です。
王女様の話では、どうも『ゲート』を
設置するのに条件があるようですが―――
それだけの用意があれば、侵攻についても
準備は出来たでしょう。
しかしそれをせずティエラ様を同行させ、
『ゲート』の全容を見せています。
敵意は無いと言って差し支えないでしょう」
魔戦団総司令、ロンバートが続き、
『その通りだ』『確かに』と同調する言葉が
あちこちでささやかれる。
「ふむ。
ではこのまま静観するのが良いか」
皇帝の一言で、様子見という方針に決まりそうに
なったその時―――
「いえ。
ブラン外務副大臣の言う通り、条件を
付けてみてはいかがでしょうか」
魔戦団総司令の彼女の言葉に、視線が注目する。
「『ゲート』についての条件か?」
マームードの問いに、ロンバード総司令が
そちらへ向き直り、
「はい。
ここは一つ―――
王宮内にも『ゲート』を作るよう、
要請してみたらいかがでしょうか」
その答えに、周囲が一気にざわつき始める。
「貴様、何を考えている?」
「陛下のおわす王宮にだと!?
王宮の守りも放棄するつもりか!!」
武力省将軍と外務大臣が、思わず声を荒げて
反発するが、
「その狙いは何か?」
皇帝の言葉に周囲は途端に静まり返る。
「すでに『ゲート』は帝都内にある大使館に
作られてしまっているのです。
大使館にあろうがここにあろうが、
危険性は変わりません。
それに物は考えようだと思います」
「続けよ」
マームードは先を促し、ロンバートは続けて、
「逆に考えれば……
これほど安全確実に皇族の方々を脱出させる、
避難通路はありません。
魔界を通じ、海の向こうの同盟国まで
短時間で行けるのですから」
魔戦団総司令の答えに、何人かがうなずく。
「また、そのような事態になった時―――
友好関係を結んでいれば、魔界からの援軍を
期待出来るかも知れません。
魔界王・フィリシュタはいずれ紹介すると、
魔王がティエラ様に伝えたのでしょう?」
「は、はい。
魔王・マギア様はそのように仰って
おりました。
いつ紹介するかはこちらの都合に合わせる、
とも」
王女の答えに周囲はいったん沈黙し、
「うむ。
とにかく会ってみよう。
方針はその時に決める。
それで良いな?」
「陛下の御心のままに」
「陛下の御心にままに―――」
皇帝・マームードの言葉に、いつの間にか
全員が立ち上がり、頭を垂れていた。
「う、美味い!
人間はみんな、このような物を
食べているのか!」
「こんな物を食べたら―――
もう生肉などに戻れん!」
「人間の姿だと、食いものが少なくて済む分、
腹いっぱい食えるしな!」
不満を抱くワイバーンの一団を『説得』した後、
彼らの要望や妥協案を求め、『話し合い』を
する事になったのだが……
その際、何か食べながらという事で―――
カレーを始め、唐揚げやフライなど若者が
好きそうな、いわゆるジャンクフードを
料理して振る舞う事にしたのである。
そして中でも猛威を振るったのが、
「ズルズル……
この焼きそばというのは反則ッス!
止められない止まらない」
「肉も野菜も入っていて、しかもそのどれもが
美味い!」
「ぐぐ……
もう、この匂いだけでも逆らえん……」
どうも焼きそばが、彼らの一番の
お気に入りのようだ。
こちらとしても補充した米やミルク、
他貴重な食材はなるべく使いたくなかったので、
すでにこちらでも量産が始まっていた重曹、
それに麺類をメインにするというセコい理由も
あったのだが。
「……というわけでな。
改善に向けて引き続き私と夫で動いて
いるので―――
今しばらくは大人しくしておれ」
真っ赤な長髪に燃えるような紅い瞳を持つ、
ワイバーンの女王・ヒミコ様がたしなめる
ように語り、
「これ以上、女王様の顔に泥を塗るような事は
しないッス」
「負けた上に―――
ヒミコ様を困らせるような、恥知らずな
真似は出来ませんよ」
腹が満ちたからか、それとも戦いに敗れて
頭が冷えたのか……
若者たちはスムーズに要求を受け入れる。
「そーいえばさー。
こちらのワイバーンには、ヒミコ様みたいな
女王様のような存在はいないの?」
アジアンチックな顔立ちの人間の方の妻、
メルが不意に疑問を口にし、
「そうだのう。こちらにも代表がいれば、
話がまとまりやすいと思うのだが」
欧米風な掘りの深い顔とプロポーションの、
ドラゴンの方の妻、アルテリーゼも続く。
「どうッスかねえ……
そもそもこちらでは俺たち、群れるという
事が無かったので」
「2・30体で生活するような群れは
あったようですが、そもそもここ広いですし、
群れる理由もあまり」
ふむふむ、とヒミコ様もうなずいて、
「確かにのう……
私の場合は子供が食うに困った者や、
どこかから逃げてきた者たちを迎えている
うちに―――
いつの間にか群れとなっておった。
ここは豊かであるから、そういう事が
少なかったのかも知れん」
群れが無い、というより……
群れになる必要が無かったという事か。
「ともかく、人間とくっついていれば、
今の食事みたいにいろいろと得があると
思います」
私がそう話すと、一団の中からカップルが
料理から顔を上げて、
「それは俺も保障するよ。
何せ、あっちの大陸に行ってきたからな。
国交が正式に開かれれば、どんどんこんな
美味いものが入ってくる」
「それにあちらでは、ワイバーンと人間が
対等かつ友好的に共存しておりました。
交流が進めば、私たちのように結ばれる者も
出てくるでしょう」
二十代くらいの青年の方はワンガ―――
大船団でやって来たうちの一人で、ワイバーン
ライダー。
そして青い長髪の女性は、あちらで人化した
ワイバーンの一人で……
イスクラという名前らしい。
命名はそのワイバーンに乗るライダーが
付けていた、との事。
今回、帝国帰還の船に乗って来たメンバーでも
あり……
(■177話 はじめての しゅっこう
(らんどるふていこく)参照)
帝国出身のワイバーンで、人の姿にもなれる
という証明、そして彼女からも情に訴えて
欲しいという狙いがあったのだが、
待遇改善は思ったよりも早く進んだので、
他のワイバーンたちに『人化した場合』の
情報を共有してもらったりしていた。
「何より子供たちの食料が確保されますので、
今後の世代の事を考えれば、共存するのも
悪くはないかと―――」
続けての私の言葉に彼らは視線をこちらに
集中させ、
「ヒミコ様からの信頼が厚い、シンさんにも
そう言われては」
「いやしかし、シンさんと言いましたか?
人間にしてはお強いですね」
口々に従順になるワイバーン(人間Ver)
たちを前に、私はメルとアルテリーゼに目配せ
して、
「じゃ、残りの食材もさっさと調理しようか。
2人とも手伝ってくれ」
「らじゃー」
「わかったぞ」
その言葉に彼らは歓喜の声を上げ―――
何とか不満を抑えるミッションは成功した。
「ん? いーよ別に」
「だから言い方をだな……」
御前会議の翌日―――
皇帝マームードは、魔界王フィリシュタとの
接見を打診。
『別に今すぐでもいーよー』という彼女の
軽いノリで急遽、謁見する運びになり、
すでに自国に『ゲート』を持っている
ウィンベル王国代表が付き添う形で、
魔王・マギアと共に秘書官であるミッチーも
同行し、トップ会談になったのだが、
「そんなにあっさりと決めてもいいのかね?」
『ゲート』設置を申し出た皇帝は、魔界王に
聞き返す。
「マギアが問題無いのなら、だけど」
ブロンドのエルフのような外見の彼女は、
幼い外見の魔王にウィンクする。
今回、彼の秘書的存在であるイスティールと
オルディラは、謁見の間に同行する事は
許されなかったので、室外待機となっており……
マギアは単身であったが、
フィリシュタを見て魔王はため息交じりに、
「今のところ、魔族領と大使館以外に
『ゲート』があるのは、ウィンベル王国
だけだが―――」
話を振られたライオネルは首を左右に振り、
「そうは言っても、王都にはまだ設置して
おりません。
相互に対等な関係を結ぶという意味でも、
ランドルフ帝国の大使館を作るのと同時に、
そこと王宮内に作ってもらうつもりでは
ありましたが」
「そうであったか。
では今すぐに、というわけにもいくまい」
王国代表の説明に納得し、皇帝・マームードは
要請を引っ込めようとしたが、
「ですが、緊急避難用とするなら作っておいた
方がよろしいかと。
行先はあちらの大陸の魔族領と……
ウィンベル王国公都『ヤマト』になりますが。
『ヤマト』には今回同行したシンと同様、
ドラゴンを妻としたパックという薬師が
おり―――
その治癒魔法はすさまじく……
死んでいない限り、どのような病気もケガも
治すと言われています」
ここで彼は、緊急時の人道的な対応と合わせ、
医療の優先権をチラつかせる。
それを聞いて少し考え込む姿勢を見せる
マームードに、彼は続けて、
「もちろん、こちらの医療技術の高さも
承知しておりますゆえ―――
こちらからの要請も受けて頂けると
有難いのですが」
あくまでも片務的なものではなく、
相互に取って利があるとアピールするのも
忘れない。
「わかった。
『ゲート』の設置をお願いしよう。
魔王、それに魔界王よ。
何を望む?」
皇帝の言葉に、マギアは両目をつぶって、
「余はただ、友好と平和を望む。
それだけだ」
威厳を持って答えた彼の次に、フィリシュタは
立ち上がって、
「ほんじゃーどの辺に作る?
ミッチーに頼めばすぐだから」
「あ、あはは……」
対照的に、厳かな雰囲気を全てブチ壊した後、
秘書官でミッチーは何もかも諦めたように
苦笑し―――
『ゲート』を設置する事になった。
「へー、あちらにも『ゲート』を……」
「確実に逃げられる脱出路だからな。
権力者なら喉から手が出るほど欲しいだろ」
合同待機する部屋で―――
ライさんが帝国の王宮にも『ゲート』を
作った事を、報告・共有する。
「それにしても反発すると思いきや、
『こちらにも作れ』とは……
大胆不敵と言いましょうか」
エンレイン王子様が眉間に人差し指をあてて
感心とも呆れとも取れない声を上げる。
「その価値を理解すれば受け入れる―――
そして決断が恐ろしく早い。
伊達に帝国を統べる皇帝ではないと
いうわけだ」
魔王・マギア様がお茶を口に付け、
「ミッチー殿もお疲れ様でした」
「わたくしたちに代わり、マギア様に
同行して頂き感謝します」
イスティールさんとオルディラさんが、
ネズミのような丸い耳を持つ魔族の同性に
頭を下げる。
「あれ? アタシにお礼は?」
フィリシュタさんが紫のミディアムボブをした
女性と、ダークエルフのような外見の魔王の
配下二名にくるりと振り向くが、
「だからこそです。
貴女が何かやらかさないか心配で心配で」
「本当にご苦労様です」
彼女たちは笑顔で返すが、目が笑って
いないのが怖い。
「そ、そういえば不満を持つワイバーンたちは
どうなったんだべか?」
ここで熊型の獣人族ボーロさんが、空気を読んで
話題を変える。
「そちらも滞りなく。
シン殿の協力もあり、大人しくしてくれる
そうです」
ヒミコ様の答えに、室内に安堵のため息や
声が聞こえ、
「んで、これからどうするの?」
人魚族のスクエーアさんが、移動用水槽から
上半身を乗り出し、
「あと残っているのはせいぜい―――
国交樹立の正式発表くらいか。
ま、もう山は越えたも同然。
ゆっくりしていってくれ」
ライオネル様の言葉に、全員が緊張から
解放されたような顔になる。
「じゃあアーロンと一緒に食べ歩きにでも
行きたいんだけど……
アタシの姿じゃ目立つでしょうし」
「頼むのはどうでしょうか。
王宮内に出前とかで」
ラミア族の女性と、彼女の専属奴隷である
少年が語り合い、
「私に乗ってみたい、と言っている人たちが
いるんだけどいい?」
長身の女性―――
ロック・タートルのオトヒメさんが
希望を話す。
「あの、少し遠い農地を見てくれと言われて
いるのですが、構いませんか?」
そしてエメラルドグリーンの瞳を持つ少年、
土精霊様の手を挙げての
質問に、
「さすがに何日も帝都を離れるのは
許可出来ないが……
一泊か二泊で帰ってくるのならまあ」
ライさんの答えに彼はうなずく。
「私たちはどうしようか」
「また厨房にでも行ってみるか?
食材は違えどあの料理人たち、さすがに
一流で技術もすごかったからのう」
「ピュー」
家族もどうやって時間を潰すか思案するが、
「―――あ。
そうだ、シン。
それにケイドとリリィ」
不意に呼ばれた私と魔狼夫妻は、
えっ、という顔でライさんに振り向く。
「は、はい」
「何でしょうか?」
赤毛の短髪の夫と、ダークブラウンの長髪を持つ
夫婦は緊張気味に聞き返し―――
そこで彼はアゴに手をあてて、
「耳に挟んだんだが、帝都にも冒険者ギルドが
あるらしい。
こちらにも興味があるが、今の俺の立場だと
ちょっと微妙だからな。
お前たちも冒険者だし、様子を見に行って
もらえないか?」
ライオネル様は裏の顔で、冒険者ギルドの
本部長もやっており……
別大陸の同様の組織も見ておきたいのだろう。
ただ今は前国王の兄にしてウィンベル王国代表
なので、代わりに私たちに行ってもらいたい
ようだ。
「あり? 私たちは?」
メルがライさんにたずねると、
「シンが行くのなら、どうせお前さんたちも
一緒だろ」
「まあ確かにその通りなのだが」
「ピュウ~」
アルテリーゼとラッチが私のセットであるかの
ような扱いに、やや不満気な声を出す。
こうして帝国との国交樹立発表の日まで、
それぞれの行動を取る事になった。
「うわ」
「すごいですね……」
帝都・グランドールの冒険者ギルド本部の
場所を聞いた私たちは、さっそくそちらへ
向かったのだが、
まず私とケイドさんが見上げながら驚き、
「王都・フォルロワの本部より大きいねー」
「あちらは四階建てだったが……
ここは何階だ?」
「ピュウゥ」
メルとアルテリーゼも、その巨大さに
圧倒されていた。
ウィンベル王国の冒険者ギルド本部を
アパートとするなら―――
ここはさしずめオフィスビルといった感じだ。
大きさも倍以上はあるだろう。
そもそも王都の人口三十万に対し、
帝都は一千万都市。
そりゃ規模も何もかも違うというものだ。
「と、とにかく入りましょう」
リリィさんに促され―――
まるで一流ホテルの入口のような門を
みんなでくぐった。
「王宮の紹介、ですか。
目的は……見学?」
そこはウィンベル王国のギルド本部の、
貴族用受付とも思える設備で……
吹き抜けのような高い天井に目を奪われる。
カウンターの女性が、王宮でもらった紹介状と
私たちとの間で視線を行き来させ、
「他国の冒険者なんですよ。
それで、こちらのギルドの様子や
運営方法を見せて頂けたら、と」
彼女はそれを聞きながら、紹介状のすみから
すみまで舐め回すように見て、
「ギルドマスターとの面談要請などは、
ここには書いてありませんが」
「あくまでも見学ですので―――
普通に接して頂ければ結構です。
もちろん、お話しを伺う機会があれば
嬉しいですけど」
受付の女性はそれを聞いて少し首を傾げたが、
「……わかりました。
当ギルド所属の冒険者との話であれば、
あちらに食堂がございますので、
行ってみたらいかがでしょうか」
なるほど。
単に話を聞くだけなら、そちらの方が
やりやすいか。
私たちは受付の女性に一礼して、
食堂の方へと歩き出そうとすると、
「ん? どこの田舎モンだ?」
「またみすぼらしい連中が来たな。
女はそこそこ上玉が揃っているけどよ」
まるでテンプレのような言葉をかけられ、
そちらへ振り返ると―――
いかにも屈強そうな冒険者の男性たちと
目が合う。
とはいえ、自分がこの世界に来たばかりの
冒険者ギルドも、こんな感じだったしな。
最初はいきなり酔っ払いに絡まれたんだっけ。
見るとここも、すでに『出来上がっている』
人も多く―――
そういう冒険者たちに目を付けられて
しまったようだ。
そういえば下水道施設の時のように、
案内人が用意されないのか? とも思ったが、
こういう事だからか、と一人納得する。
「ピュウゥ~」
悪意を向けられている事がわかるのか、
アルテリーゼの胸の中でラッチが唸り出す。
「ん……!?
ワイバーンの雛か?」
「いや、手がある……
って事は、まさかドラゴンか!!」
ズカズカと歩いて来る男三人組。
そして私たちの前まで来ると、
「おう、そこのドラゴン―――
ちょっと貸してもらえねぇか?」
「痛い目にあう前か、あった後で貸すかは
選ばせてやるからよぉ?」
まるでチンピラのような態度でこちらに迫る。
するとカウンターの女性が早足でこちらに
やって来て、
「こちらの方は他国からのお客様です!
問題を起こさないでください!!
それにギルド内でのトラブルは厳禁です!!」
さすがに無秩序というわけではないか。
彼女の注意に連中は一瞬後ずさるも、
「ケッ、俺たちゃミスリルクラスの
パーティーだぜ?」
「多少の問題はいくらでも揉み消せるんだよ。
とはいえ、確かにここじゃマズイか。
ここじゃあ、なあ?」
この言い方だとギルド本部を離れた途端、
襲い掛かると宣言しているようなものだな。
どうしたものかと思っていると、アルテリーゼが
ラッチをメルに預けた後、一歩彼らの前に出て、
「ドラゴンを貸せ、と言ったか?」
彼女は微笑むが、その笑顔が何より怖い。
背後にエフェクトでブリザードが吹き荒れて
いそうな雰囲気だ。
「おう、話が早いねえ」
「大人しく渡してくれりゃあ、俺たちも何も」
そう彼らが言い終わるか終わらないかのうちに、
アルテリーゼは両腕を彼らの前に差し出し、
「よかろう。
貸し出されてやろうぞ。
思う存分、我を借りるがいい」
確かに、彼女もドラゴンだ。
今は人間の姿をしているが。
彼らはその言葉の意味がわからなかったのか、
互いに顔を見合わせるとニンマリと笑い、
「そーかそーかぁ。
代わりに自分を差し出してくれると」
「なかなかいい心掛けじゃねぇか?
ええ、姉ちゃん?」
と、二人でそれぞれアルテリーゼの腕を
片方ずつつかむが、
「……いっ?」
「お、お?」
つかんだ腕は微動だにせず―――
それを見たリーダー格と思われる、
ブラウンの短髪にハチマキみたいな布を
頭に巻いた男が、
「おい、何を遊んでいるんだ?」
いぶかしがる彼にメンバーであろう二人は、
「い、いや、動かねぇんだよ!
この女!!」
「どこにこんなバカ力が……!!」
それを聞いた男は片眉をつり上げ、
「ちゃんと身体強化使ってんのかぁ?」
「使ってはいるであろう。
ただ我をどうこうするには弱過ぎるがの」
彼らの代わりにアルテリーゼが答えると、
飽きたのか二人を宙へと放り投げ、
「あら?」
「うえぇっ!?」
高さ六・七メートルはあろうかという
天井近くまで達した二人は、やがて重力に従い
落下を始め、
放心した彼らの落下を、一人はアルテリーゼが、
もう一人はメルが受け止めた。
そいつらを床に寝かせると、ドラゴンの方の妻は
最後の一人に向き直り、
「さて、後はお前だけか。
どうする? まだ貸し足りないかの?」
すると彼はすかさず距離を取り、
「ぐぐ……っ!
このミスリルクラスパーティー、
『月下の剣』を舐めるんじゃねぇ!!」
離れたのは魔法を使うためか。
彼は構えて、こちらを攻撃するような
動作に入る。
「止めてくださいエードラムさん!!
いくら何でもギルド本部でそんな魔法を
使えば―――!!」
「うるせえ!!
邪魔するならてめぇも蒸し焼きだ!!
俺の灼熱の風を喰らって
後悔しやがれえぇええ!!」
灼熱の風―――
名前からして、熱風とかそういう類の
魔法だろう。
しかし風系統の魔法は実体が無い分
厄介だ。
しかもこちらの想定通りなら、周辺への被害も
かなりのものになる。
というか仲間もこちらで倒れたままなのだが……
巻き添えも構わないという事か?
「……アルテリーゼ!
一応ドラゴンの姿になってくれ!
それでみんなを守るんだ!!」
「わかったぞ!」
彼女はすぐ『本当』の姿となり―――
その翼にメルとラッチ、ケイドさんとリリィ、
そして受付の女性を、倒れた男たちと共に
包み込み……
それを見届けると私は小声でつぶやく。
「何の媒体もなく風を起こす事など、
そして気温を、ましてや熱く思えるほどの
熱風を起こす事など、
・・・・・
あり得ない」
「何をブツブツ言っていやがる!!
覚悟は出来てんだろな!?
喰らいやがれえぇえ!!
灼熱の風!!」
と、エードラムとやらが叫んだが、
「……あ?
な、何だ!?
どうして魔法が出ねぇ!?」
彼は自分の腕と私を何度も交互に見る。
そして―――
「ち、ちきしょう!!」
「あっ」
言うが早いか、彼は身を翻して本部の
出入口へと駆け出した。
逃げるまでの決断が早いな、とか妙なところに
感心していると、
「リリィ!!」
ケイドさんの言葉に振り返るのと同時に、
私の横を突風が吹き抜け、
「おっ、さすがは魔狼」
「よくやったぞ」
メルとアルテリーゼのやり取りに、視線を
出入口へと戻すと……
リリィさんが魔狼の姿になって、エードラムの
首根っこをくわえていた。