テラーノベル
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一瞬の出来事。
結界を素通りした魔法により信者が打ち上げられ、次の魔法では結界ごと信者が撃ち抜かれた。
今まで対峙してきたアニタや白い魔族達。彼らは自分たちを試すような行動を取ったり、殺すためではなく、その場所を守るために戦っていた。
この魔族のように、人間に対して明確な殺意を持った攻撃を向けられたのは初めてのこと。たったそれだけのことで、こうまで差があるものなのか。
一面に飛び散る信者だったものを目の当たりにしながら、フィニスの思考が止まり……目の前の死を感じ取っていた。
全身に冷や汗をかき、小さく身体が震えるフィニスの顔に、小さな衝撃が飛んでくる。
ペシっ!
「痛っ!」
我に返り何かが飛んできた方に視線を送るフィニス。視線の先には、空気を飛ばしたのだろう。人差し指をフィニスの方に向けたエレノアが立っていた。
「これくらいで怖くなってたら、魔女と戦えないわよ?それとも……ニティアちゃんがいないとダメなのかしら?」
くすくすと笑うエレノアに、ゼフィリアが頬を膨らませて怒っている。
『フィニスは私のなのー!まったくもう……』
そう言いながら、フィニスの肩まで飛んでくるゼフィリア。
『最初の魔法は……いまいち分からなかったけど……結界を突き破った魔法。あれは私とエラリスがよく使う魔法……魔力を纏わせた矢を風で加速させて、方向転換をしたものだと思う。威力は段違いだけど』
「は?でもあれは……」
『うん。矢が見えなかったよね。きっとあいつの特徴。あいつ自身がさっきまでやってた、魔力を操作して感知しにくくするやつ。あれを魔法の矢そのものにも適用してたんだと思う』
ただでさえ感じ取れないのに、さらに視認しにくい魔法。魔法の”起こり”を頼りに戦っているフィニスにとっては、もはやどうすることもできない。
「そんなんどうやって……!」
その言葉にゼフィリアとエレノアがフィニスを横目にニヤリと笑う。
「言ったわよね?私たちには必殺技があるのよ♪」
『むしろうってつけの魔法よね』
「多分チャンスはそうそうないと思うから……しっかり見極めて頂戴ね♪それじゃゼフィリア、お願い♪」
エレノアに何かを頼まれたゼフィリアが、エレノアに向けて手をかざす。エレノアは魔族の方へ向き直ると、ひとりゆっくりと魔族の方へ歩いていった。
一歩一歩ゆっくり歩いてゆくエレノア。歩行による揺れとは異なる、不規則に揺れ動いているスカートに自然とフィニスの視線が移っていた。
「あなたは……何者なのかしら?」
エレノアの言葉に対し、気だるそうな表情をする魔族。
『ん?私はリーンスガエラ。あ〜……アニタ様に仕えている魔族の1人だよ』
少し近づいたところで立ち止まるエレノア。
『ちょっと不完全燃焼なんだよね……何?相手をしてくれるの?』
大きく体を伸ばした後、笑いながらエレノアに視線を送るリーンスガエラ。
『エルフの”おばさん”』
「……」
束の間の沈黙。
『あ。言っちゃった』
フィニスの肩に乗っているゼフィリアがボソッと呟いた。
「え?」
ゼフィリアの呟きに思わず聞き返すフィニス。
「少し……教育が必要なようね♪」
スカートを大きくたくし上げ、太ももをあらわにするエレノア。
「あ、あ、あの人何してんの!?」
『何興奮してんのよ!いいから黙って!』
その姿に一瞬困惑するフィニスだったが、そのあらわになった両方の太ももに棒状の何かが括り付けられているのが見えた。
パチン!
その何かを両手に持ち、手元で軽く振るうエレノア。
バサッ
「扇……?」
エレノアの両手には顔の大きさほどの扇がふたつ広げられていた。
『それが武器?ふ〜ん……つまんなそ』
ビュン!
言い終わる間もなく、一瞬でリーンスガエラの元まで近づき、扇で攻撃を仕掛けるエレノア。
身体を捻ることで間一髪、その攻撃を避けたリーンスガエラは、すぐさま後方へ飛び跳ねて距離を取った。
頬から流れる血を指で掬い、ペロリと舐める。
『随分と速いね……完全に油断してたよ』
「あらあら。まだまだ教育はこれからよ?」
視線を合わせるエレノアとリーンスガエラ。お互いの動きを読み合うかのように睨み合っていた。
リーンスガエラの意識が完全にエレノアに移ったことを確認したアルテアは、血が飛び散り混乱している信者達に落ち着くように指示を出す。
「今のうちに態勢を立て直します。各自……前方に再度結界を張って!手が空いている者は手を貸してください!」
震える手をアルテアの手に重ねるルミナ。
「ふふ……まるで……大神官みたいね……」
「冗談言わないで!絶対に助けるから……」
握り返した手を胸元に置き直し、信者の力も借りて治療を続けるアルテア。
少しずつではあるが、確実にルミナの顔色が良くなってきていることが見て取れた。
「接近戦……?」
『あれがエレノアの戦い方なのよ。フィニス……さっき私、あの魔族がエラリスと同じような魔法を使ったって言ったよね?』
「あ?おう」
『魔力が多い人間なら、精霊術師が使う魔法を使うことだって出来るんだよ。ニティア……あの魔法使いだってそう。エラリスと私が使う魔法を使うことだってできると思う』
言葉では自分達を卑下しているように聞こえるが、ゼフィリアの顔は逆に自信満々と言った力強い笑みを浮かべていた。
『じゃあ……精霊術師は魔力量の多い魔法使いには勝てないのか……』
リーンスガエラが魔力を込めると同時にエレノアが飛びかかり、それを阻止する。
『答えはNOよ』
リーンスガエラが距離を取り、魔法を使おうとすると、それよりも早くエレノアが扇から風の刃をリーンスガエラに向かって発生させる。
「術式の構築時間……」
『そ。同じ威力の魔法を使うなら……少ない時間と魔力で魔法を発生させられる精霊術の方が発動が早いもの』
ズババッ!
『ちぃっ!!』
飛び回りながら風の刃をかわし続けるリーンスガエラ。しかし、全てを避けることができずに手足の何箇所かにかすり傷を負っていた。
「あらあら……随分とおばさん相手に手加減してくれてるみたいね♪」
相手を挑発しながらも、リーンスガエラの死角となる片方の手でクイクイと指を動かすエレノア。
『来た……よく見ててね。私たちの必殺技!』
それを見たゼフィリアがエレノアの方へと飛んでいってしまった。それをただ見ているだけのフィニス。両手の剣を力一杯握りしめていた。
『流石にちょっとウザくなってきたかな……!』
そう言いながら足を思いっきり地面に叩きつけるリーンスガエラ。叩きつけられた地面から大量の砂煙が舞い上がる。
「全く……服が汚れちゃうじゃない……」
踊るように扇をあおぎ、風を巻き起こして砂煙を吹き飛ばすエレノア。砂煙が吹き飛ばされると、そこに炎を纏ったナイフを両手に握ったリーンスガエラが立っていた。
『あいつ……今の隙に……相性の悪い炎の武器を出したわね……』
「あら……自信無いの?」
『そんなわけないでしょ!やるわよ!』
飛びかかってくるリーンスガエラに対し、上へ逃げるように飛び上がるゼフィリアと、炎のナイフを扇で受け止めるエレノア。
キーン!キーン!
激しい攻防が繰り広げられるなか、リーンスガエラがエレノアに話しかける。
『あなたのことはアニタ様から聞いてなかった。エラリスのことは聞いてたのに』
「あら残念……覚えておいてね?私はエラリスの母親のエレノアよ」
『ふ〜ん。やっぱりおばさんだね』
「……」
パチン
エレノアが片方の扇を閉じ、魔法も加えた一撃でリーンスガエラに殴りかかる。
ガキーン!!
『ぐっ……!』
広がっていない閉じた扇の衝撃で、両手のナイフで受け止めたにも関わらず後方へ吹き飛ばされるリーンスガエラ。一度くるりと扇を後ろに回した後、笑顔で答えるエレノア。
「あらやだ……魔女様は部下の教育もできないのね」
アニタを侮辱され、顔に一瞬怒りの表情が浮かび上がったリーンスガエラ。しかし、エレノアを目にしたその瞬間、すでにその感情は消えていた。
パチッパチッ
エレノアが掲げている腕の上には、青白い閃光をパチパチと散らした球体が浮かんでいた。
どれだけ魔力がこもっているのか……そもそもどんな魔法なのかもわからない。今まで見たこともない球体を目前にし、リーンスガエラは微かに冷や汗をかいていた。
『エレノアが発生させた風を1箇所に集中。圧縮に圧縮を重ねた空気が生成する……プラズマよ』
生成したプラズマの上空で風を操っているゼフィリアが視線を落とすと、エレノアは片膝をついてなんとか震える腕を上に掲げている状態だった。
『エレノア!』
ずっと病床に伏せており、時折数日かけての散歩気分でこの世界樹の森で身体を癒す日々。激しい運動はおろか、まともな戦闘なんて、それこそ何十年ぶりのことだろうか。身体は思うように動かないし、魔力量だって全盛期の何割くらいなのだろうか。いい加減年齢を気にしないとダメなのか……
そう思い、くすっと笑ったエレノアが、腕をリーンスガエラに向けて振りかぶる。
パチン!
『!!』
その動作が何を意味しているのかを瞬時に感じたのだろう。エレノアの魔法から逃げるため、急いで上空へと飛び上がるリーンスガエラ。
「来ると思ってたぜ……!美味しいとこどりみたいでみっともねーけどな!」
飛び上がったリーンスガエラのさらに上空。先ほど扇であおがれた時に発生させた風に乗り、ゼフィリアの操作も相まってさらに高くまで飛び上がっていたフィニス。
『お前……なんで!?』
回転を伴った一撃をリーンスガエラにお見舞いするフィニス。
身体を傾けてフィニスの剣をナイフで受け止めようとしたものの、片方の剣の効果……振動する刃により、ナイフごと片腕を切り落とされたリーンスガエラは、そのまま地面へと落下していった。
コメント
1件
いやー、第128話めちゃくちゃ熱かった!!エレノアおばさん……じゃなくて、エレノアの扇が武器って予想外すぎて震えたわ。しかもプラズマ生成とか魔法の仕組みが細かく説明されてて、設定好きとしてはたまらん。ゼフィリアとの連携プレイも最高だったし、最後のフィニスの一撃でリーンスガエラの腕落としたシーンは声出たわ。アルテアとルミナの絆もじんわりくるし、今回も神回だった🔥
月城 蓮桜音
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羽海汐遠
16,054
みおん
2,955
お餅
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