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空飛ぶ車の中は、ずっと沈黙が続いている。
シェナは睨み飽きたのか目を閉じているけれど、レモンドは依然恐縮したまま、大きな体を小さくして運転している。
速度が出ないのか、安全運転を心掛けているからなのか、王都にはまだまだ着きそうにない。
「ねぇ、レモンド」
「はっ、はいっ」
魔王さまが、滅ぼされた村の生き残りだという話を聞きたくて、声をかけた。
「今の魔王さまが、三百年前の戦争の生き残り。というのは本当なの?」
「ほ、本当なようです」
あまり緊張されていては、こちらも話しにくいものがある。
「レモンドにはそんなに怒ってないから、普通に話して」
「あ、ありがとうございます……」
と、彼は言ったのに、沈黙が続く。
「……じゃなくて、続きを聞きたいの。なぜそう結論付けているのかとか」
「ああ! そういうこってしたか。それには……地理の話もせんとならんですが、かまいませんか」
やっぱり、バカな女だと思われてる?
「分かるように話して」
「ええ。そんじゃとりあえず、魔族の国の隣が、この国だってのは何でか、ご存知ですかぃ?」
それ、ファル爺に教わったかしら……ううん、ないような。
「……大昔に、自分たちで滅亡させた時の、生き残りが逃げて集まったから?」
「ご明察です! そんで、いわば国を半分にしてしまった。ちゅうことだと、皆思っとるわけです。そんなの、自業自得だとあっしらは思うんですがね」
レモンドは一人首を振り振り、やるせない感じで話を進めた。
「それから長い年月が過ぎ、死んだ土地のはずが魔族の国に緑が戻り、土地も生き返っている事を知っちまったようです。そん時、王国はそれなりに力を取り戻していて、王は好戦的なお人だったという、悪い条件が重なったようです」
「まさか、元は自分たちの土地だったとか言って、攻め込んだの?」
「その通りでさぁ。さらに悪いことに、魔族達は土地を再生するために、領土全域、国境付近まで広く薄く、小さな村を点在させていたようで」
……それでも、魔族の力があれば、魔王さまの半分以下の強さとしても数人居れば、人間の軍隊程度に負けはしないはず。
「聖女様や、お付きのシェナ様ほどに強い魔族は、当時ほとんど居なかったらしいですな……」
「――えっ?」
「確かに魔族は、人間よりかは遥かに強い。でも、数十人で数万の軍を相手には、さすがに出来るもんじゃねぇです」
「……シェナならきっと出来るわ」
魔族は、もっと、圧倒的な強さなのだと思っていた。
「そりゃあ、百年二百年を訓練に費やしたような、特別な魔族ならそうかもしれませんが。普通の魔族は、記録によれば、人よりも少し強い程度だったようです」
そう言われると、私は魔王城の皆しか知らない。
彼らは皆、強かったけど……たしかに兵士だから、特別だったのかもしれない。
「そん時の記録……最初の村を襲った時の一人の手記に、こうあったらしいです。『一人、少年が逃げた。俺しか気付いていない。全員残らず殺せとの命令だが、俺には出来なかった。こんな虐殺に、正義なんてない。願わくば、どうか彼だけでも生き延びますように』と」
レモンドが沈んだ声で言うものだから、私もつられて目頭が熱くなった。
戦争の話は、辛くて嫌な話ばかりだ。
「そんでも、その後に中央の方まで攻めてったら、結局は強い魔族が出てきて敗走したようですがね」
「そうじゃないと、魔王さまも居ないことになっちゃうもの」
――いや、そういう話じゃない。
「待って。その手記にある魔族の少年が、今の魔王さまだというの? どうしてそうだと言い切れるの?」