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そういえば以前、赤坂見附にセレブリティ専用の娼館があると、大学時代の同期であり、今はトロンボーン奏者として活躍している男から聞いた事があった。
恐らく、そいつは何度か通った事があるのだろうし、もしかしたら今も通っているのかもしれない。
J響に所属し、立川音大で教えていた頃、『お前も行ってみろよ』と言われ、そこの連絡先を教えてもらって放置していた事を思い出し、侑は早速その高級娼館『Casa dell’amore』へ連絡してみた。
友人の紹介で、と伝えると、十九時にお越し下さい、とオーナーらしき女性の声で時間指定され、車は隣接地にパーキングがいくつかあるので、そこに停めるよう言われた。
元恋人への当てつけではないが、久々に強い性欲が侑の身体を疼かせ、女を抱きたい欲に駆られる。
彼は、バスルームでシャワーを浴びた後、クローゼットからチャコールグレーのスーツを取り出し、白いワイシャツとダークブラウンにシャドーストライプ柄のネクタイを締める。
別にスーツではなくてもいいのかもしれないが、最初が肝心だろう。
侑は車のキーと財布などの貴重品を掴み、車を走らせる。
途中、コンビニへ立ち寄り、避妊具を購入して赤坂見附へと向かった。
十九時少し前に到着した侑は、近くのコインパーキングに車を停めた後、娼館へ向かう。
同期のトロンボーン吹きが言っていた娼館は、ビルや老舗高級ホテルが建ち並ぶ赤坂見附に似つかわしくない、緑が豊かな場所の奥にひっそりと佇んでいた。
どことなく、生まれ故郷のウィーンにもありそうなクラシカルなL字型の洋館に、懐かしさを感じてしまうのは、まだウィーンでの生活が恋しいという思いが、心の奥底に沈んでいるからなのだろうか?
重厚な木製の両開きの扉を開けると、娼婦と思しき女たちが十数人ほど横一列に並び、彼を出迎える。
ダークネイビーのパンツスーツに身を包んだオーナーらしき女性が、侑の前に立ち、恭しく一礼して挨拶をする。
「ようこそ、『Casa dell’ amore』へ。私がここのオーナー、星野凛華と申します」
オーナーの凛華が深々と会釈をした後、彼女の後ろに並んでいる娼婦たちも一斉に一礼した。
侑は、ざっと娼婦たちの顔を見るために、右から左へと視線を這わせていたその時。
(……え?)
列の一番左端にいる、ベージュブラウンの髪に顎先までのボブスタイル、濃茶の大きな瞳の女に、侑の視線が釘付けになった。