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【前回までのあらすじ】
カエデがしつこい精霊に胸をビンタされたらアルティメットスキルを覚えた。
◇◇◇
こんにちは! カエデです!
さっきイシーダちゃんに胸を理不尽にビンタされたのは解せませんが……アルティメットスキルって響きはカッコいいです!
イシーダちゃんが消えてから、私は一人で暗くてジメジメした奈落の底に立っていました。
手にはさっき拾った良い形の石(命名:ウィルソン)がひとつ。
「よし、いくよ! ウィルソン!」
私はウィルソンを握りしめ、真っ暗な天井に向かって大きく振りかぶりました。
アルティメットスキルって響きがカッコよくて、とにかく早く投げてみたくてウズウズしていたんです。
「メテオーッ……」
──きゅるるるるるるぅ〜。
私が石を投げようとした、まさにその時です。
静かな奈落の底に、私の可愛らしい(?)お腹の虫の音が響き渡りました。
「……お腹空いたなぁ……」
私は振り上げた腕を、すっと下ろしました。
お腹が空きすぎちゃって、石を全力で投げる元気がなくなっちゃったんです。
そうこうしていると、イシーダちゃんがシュッと戻って来ました。
『やぁやぁ! ……なの』
「あ! 戻ってくるの早ッ!?」
『さっき解放したから、カエデはメテオストライクを使えるの。じゃあ早速使ってみるの。その手にしている良い形の石を天井に投げると同時に、メテオストライクと叫ぶの』
「えッ! いやですよ! この石(ウィルソン)もったいないですし!」
『えッ』
「えッ」
「……。」
『……。』
『……ぐ、グダグダ言ってないでとっとと投げろ!』
『……あ! ……なの』
「……えと、やっぱり普通に喋れますよね?」
『………やっぱり帰る………………なの』
「えと! えと! はいッ! 石を上に投げてメテオストライクって言えばスキル発動するんですよねッ!? い、いきますよー!」
私はウィルソンをギュッと握り締め、再び天井に視線を移しました。
「よいしょー! メテオーッストライキュッ!」(噛)
石はヒョロヒョロと放物線を描き、ぽてん、と落ちました。
『……。』
「……。」
『……噛んだら駄目なの』
「はい」
『もう一度投げてみるの』
「はい! メチェオーッストライキュ!」(噛)
また石は放物線を描き、ぽてん、と落ちました。
『……。』
「……。」
『……うん。ここで同じボケ繰り返す天丼は正解なの。』
「え?」
『天丼しなかったら、私の必殺右ストレートを貴様の吠え面にお見舞いしてるところだったの』
「貴様の吠え面ッ!?」
異世界の精霊なのに、お笑いの間とか天丼にやたら厳しいのは……深く考えないことにしました。めんどくさいので。
『じゃあ、今度こそお願いなの』
「はい! いきます! メテオーッ! ストラ──」
私が3回目の石を投げようとした、その時です。
『んもぅ! だからママー! わかったってば!
宿題は夜やるし! お風呂もすぐに入るからー!
え!? あー! ダメダメ!ダメだよ!
それは捨てないでー!』
イシーダちゃんが、またしてもママさんから呼ばれ──
『と、とにかく石をこう……上にポイッと投げたら──詳しくはまた今度ー!』
イシーダちゃんは慌てて荷物をまとめるみたいにして、シュッと姿を消しちゃいました。
──すると、同時に。
「あ! いたいた! カエデお姉ちゃーん!!」
満面の笑みでエストちゃんが駆け寄ってきました。
「あ、エストちゃん! 今ね? そこの精霊のイシーダさんと……あれ?」
「え? 精霊さん? どこどこ?」
キョロキョロ周囲を見回すエストちゃん。
「……えっと、精霊のイシーダさんはしつこくて、お笑いに詳しくて、絶対にキャラ作りをしてて、更にしつこいママさんに呼ばれて、必殺技が右ストレートで……しつこいのは遺伝だと思うの」
「……?? ……ちょっとよく分からないや……。ちなみになんの精霊さんなの?」
「投石」
「ぇ……とうせき……? 精霊って……普通は火とか水とかじゃ……」
エストちゃんが不思議そうに首をかしげます。
「……。」
「……。」
「あ、それよりカエデお姉ちゃん! ご飯だよー?」
「やったぁ! うん。わかったぁ。今行くね」
(イシーダちゃん、また会えるよね)
*
そして、ツバキ、ローザさんとも無事に合流できましたぁ。辰美さんは偵察中みたいです。
「みんな! みんな! 今ね! 精霊さんに会ってね! 新しいスキルを教えてもらったんだよぉ!」
「ほう……精霊との邂逅とは……
運命の歯車が回り始めたようだな……
そして、貴様が魂と血の契約を交わした精霊……。
それは、如何なる深淵なる理(ことわり)を司る存在(モノ)なのだ……?」
ツバキが左目を押さえながらブツブツ呟いてます。
あ。今日のツバキは中二モードなのね。ウザいやつね。
「投石の精霊って言ってたよ」
私が答えると、空気がピタッと止まりました。
「ん?……精霊って…火とか水とかじゃ…」
ツバキも中二モードを忘れかけて、素で戸惑っています。
「……。」
「……。」
「……。」
エストちゃん、ツバキ、ローザさんの三人が、無言で顔を見合わせました。
「投石……だと……? ククク……なかなか興味深い……この世界の理を超越した存在か……」
ツバキが無理やり中二病の解釈で乗り切ろうと再起動しました。
「ツバキ? さっきから何言ってるのかよくわからないよ?」
「面白そうですね。見せて欲しいです」
ローザさんは会話のドッジボールを気にせず、メモの準備を始めました。
「じゃあ気を取り直して! メテオーって、あ! 辰美さん!」
その時、周辺の偵察をしていた辰美さんが戻ってきました。
「みなさーん! 辰美がただいま戻りましたー!」
パタパタと小走りで駆け寄ってくる辰美さん。
「おかえりー」
私が手を振ると、横からツバキが進み出ました。
「──帰還を祝福する、辰美。我が盟友カエデは、精霊と契約を果たし、今まさに”新しき力”に目覚めたばかりだ……」
「ツバキ、そろそろウザいよ?」
私は笑顔でツバキを刺しました。
「えぇ!?」
その場に崩れ落ちるツバキ。
「へぇー精霊! 珍しいですね! 何の精霊でしたか?」
辰美さんが目を輝かせて聞いてきます。
「投石の精霊!」
私が元気よく答えると──
「……」
辰美さんの眉間にシワ。
「ククク……されど真の戦士は武器を選ばぬもの……見せてもらおうか、その力を……」
ツバキが左目に当てた手を高速で上下し──
「わくわく!」
エストちゃんの目が輝き──
「おお! 楽しみですね!」
辰美さんの眉間のシワが無くなり──
「神のご加護がありますように……」
ローザさんがメモの用意。
みんなの期待している視線が、すっごく嬉しかったです!
幸運マイナス53万の私ですが、きっと上手くいくはずです!
「えっへへw では! いきますよー! 飛べ、ウィルソン! インドア・メテオ! ストラーーーーーイクッ!」
シュッ! ……シューーーーーン!
ズドゴォォォォォォォンッ!!!!!
私が真っ暗な天井に向かって投げた良い形の石(ウィルソン)が、まるでミサイルのような物凄い勢いで、分厚いダンジョンの天井に深くめり込みました。
「……あれ……ウィルソン?強くない?」
少しすると……。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
バキバキバキッ! メリメリメリメリッ……!!!!!
「あれ……? なんかダメな音してない?」
「「「「……?」」」」
全員がゆっくりと天井を見上げます。
奈落の天井に巨大な亀裂が縦横無尽に走り、恐ろしい地鳴りとともに大規模な崩落が始まりました。
「……これ、やばくないですか?」
「「「「おぃいいいいい!!?」」」」
(つづく)
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