最後の仕事の最後の依頼人は…私。罪を着せられた兄の敵。そしてこれは拷問士に兄を売った私の、せめてもの贖罪でもあった。
私は既に、プロの殺し屋として、多くの禁忌を破った。仕事に私情がほんの微塵でも入ったのならば、その時点でプロ失格だろう。今回の仕事を終えたら、私は復讐屋稼業から、永遠に足を洗わなくてはいけない。
ターゲットの男は、必ず新月の夜に犯行に及ぶという。
今夜は28日目の細い月。ならば決行は、明後日の夜…。
私は急いで策をめぐらす。幸いターゲットの剣術家は有名なため、所在は調べなくともわかっていた。誰もが知っている戦国武将の、遠い末裔に当たるらしい。
問題は腕前だ。相手はかつて、国内大会で3連覇を果たし、紫綬褒章候補ともなった一流の剣術家。故 飛鳥馬師匠に匹敵するか、それ以上でもおかしくないだろう。
反面、殺し屋とはいえ、私は女。兄のような、天賦の才もない。悔しいが、真っ向から戦ったとして、必ずしも勝てるとは言い切れない。確実に仕留めるには、極力気づかれないように奴を追い、背後をつくしかないだろう。
それでも、万が一、万が一のために…
私は武器を隠してある場所の一番奥から、一つの箱を取り出すと、さらにそこから一丁の小銃を取り出した。
しかし私は銃を懐にしまう手を止め、その場に立ちつくしたまましばらく考える。
思い浮かべるのはいつも、着流しの左袖から発砲する兄の姿…。
やがて私は深く息をつくと、目を閉じて、頭を振り振り、再び銃を箱に戻し、その場を去った。
コメント
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この先は一体どうなるんだろう…! 絶対とは言い切るには早いけど、絶対凄い戦いになりそうな予感…、あと早百合さん、銃を持とうとした時、兄さんのことが浮かんだの…あれ、あの、言葉にするの難しいけど…何か…思いがすっごく伝わりました!(すみません!夜なので語彙力なくて!🙇)