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▼いつの間にか、妹が、居なくなっていた!(油断した!)
▼八尋は伊織と共に、途方に暮れた!
▼………………。
▼………………………………。
「……クソぅ! 探すぞ伊織! セージ!!」
「……っ! はい!」
「分かりました!」
俺と伊織、セージの三人は、妹の捜索を開始した。
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この街……正式には『シルフジブリン』と呼ばれる街には、大きな噴水のある広場がある。噴水の中心には、ウィングベルグの象徴とも言える、『風の精霊:シルフ』を象った像が建っている。
それを見渡せる背の高い屋根の上に、ロキは座っていた。
噴水の近くには母に連れられる子どもの姿や、近くのベンチに腰をかける老人の姿。また恋人と待ち合わせをしてるのか、ソワソワとしている男の姿や、噴水の水ではしゃぐ子供など、様々な人々の姿がチラホラと見てとれる。
それを胡座をかいてついた肘の腕に顎を乗せて、つまらなそうに眺めているロキの姿は、どこか寂しそうである。
「……アホみたいに笑ってやがる……。ほんと……」
「うわぁ!?」
突然、背後から耳元で問われ、驚いたロキは思わず前のめりに立ち上がりかけ、バランスを崩す。屋根から落ちそうになったところで、反射的に手を伸ばすと、その手を慌てて掴んで引き寄せられた。その反動でロキのフードが脱げ、赤毛と白髪の入り交じった細く長い三つ編みが宙を舞う。
危うく屋根から落ちかけたが、何とか落ちずに済んだことで、互いにホッと息をつく。
「はぁ、マジで死ぬかと思った……」
「いや、本当に落ちるかと思って慌てちゃったよ……」
「誰のせいだと思ってんだよ、アホヒナ……!!」
落ちかけたことにより、バクバクと鳴り響く心音を抑えながら、ロキは陽菜子を睨みつける。陽菜子は頬を掻きながら、「いや〜、ごめんごめん」とブカブカのTシャツの袖で、冷汗を軽く拭いた。
「まさかあんなに驚かれるとは、思わなくてですねぇ〜」
「あんなに気配消されてたら、さすがに驚くわ!」
「あれ? そんなに気配なかった? まぁ、昔から人の背後に回るのは得意だったからね。思わず『自分の前世は、忍者だったんじゃないかな!?』って、一時期本気で考えたくらいだよ!!」
「に、『忍者』……?」
陽菜子の謎の単語に、ロキの頭の中はちんぷんかんぷんだった。
「あ、『忍者』が分からない? ん〜そうだな……ジャパニーズ、スパイ? あ、日本とかジャパニーズとか言っても分からないよね。う〜ん」
「スパイって……要は刺客とか怪盗みたいなもん?」
「そーだね。その二つを足して割った感じだよ〜」
だいぶ違うとは思うが……。陽菜子はおにぎりを握るようにグイグイと手を動かすと、ピースして笑う。ロキは眉間にシワを寄せて「いや、全然分かんねぇーよ……」と、呆れ混じりにため息をついた。
「……つか、どうやってここまで追ってきた? 僕は屋根を伝って来たはずだけど? お前どう見ても普通のヒョロい人間だし、昨日の話を聞いた限りじゃ、魔物とか魔法とかとは無縁な世界だったんだろ?」
「そうだよ! いやー、キミーと初めて会った時は、本当にビビったよね! 枝折っちゃって怒らして大変だったし……」
「いや、『キミー』って誰だよ」
ロキの的確なツッコミだった。
一方、『その言葉を待ってました!』と言わんばかりに、陽菜子は瞳を輝かせ始めた。
「キミーはね! すっごい大きな木の魔物なの! 最初は見た目や怒らしちゃって、怖いイメージだったんだけどね。本当は気が弱くて、すっごく優しい子だったんだよ!!」
陽菜子はロキの隣に腰を下ろすと、両手を広げながら説明する。一方のロキはジト目で少しでも、何とか陽菜子の説明を理解しようと必死に頭を働かせる。
「ここらで『大きな木の魔物』って……! まさか『ウッドマン』か!?」
「ちげーよ! 『ウ・ッ・ド・マ・ン』!! 通称『森の守森人』!! ……ガイアナアース領ではそんなに珍しくはねーけど、ここらの森にもいるんだな……」
「『ガイアナアース領』って『地を司る』っていう、すっごい偉いお家の人のところ?」
「そーだよ」
ロキが感慨深そうな表情で「そうか……ウッドマンは、ここら辺にも居たのか……」と、ブツブツと呟きながら顎に手を当てる。陽菜子はキミーとの出会いや、その後仲良くなったことなどを説明したあとに、ふと首をかしげる。
「キミーがいると、なにかいい事あるの?」
「そりゃあウッドマンか住み着くってことは、森が豊かな証拠だ。ここら一帯は粗方、人の手が入ってるからな。そのせいで居ねーと思ってたけど……。実はひっそりといたんだな」
「ふーん……。ロキロキは物知りだね!」
陽菜子の言葉にロキはニヤリと笑うと、指を立てて自慢げな顔をする。
「そりゃあ、お前らより何十年……いや、何百年も生きてるからな!」
陽菜子は「ええっ!?」っと驚くと、ゴクリと喉を鳴らして真剣な顔をする。
「ロキロキって……実はお年寄りだね……」
「オイ、なんか悪意を感じるぞ?」
「キットキノセイダヨー」
陽菜子の不自然な顔と物言いに、ロキは陽菜子のほっぺたを掴んで引っ張る。陽菜子は「ロキロキ〜! いひゃいよ〜!!」と、ロキの手を叩いて反撃した。
ロキはちょっと楽しくなったのか、その反応をひとしきり笑って楽しんだら、パッと手を離した。
「うぅ〜、ロキロキ酷いよぉ〜……」
少し赤くなった頬を擦りながら、口を尖らせて陽菜子が文句を口にする。ロキは「わりー、あまりにも変顔すぎて。調子乗ったわ」と、全く悪びれた様子もなく笑っていた。
「……で? 話を戻すけど。まさかお前……、そのウッドマンと、契約なんてしてねーよな?」
ロキは悪い顔をすると、ひそひそ話をする様に陽菜子の耳元で……。口元を第三者に見られないように、隠して問う。陽菜子もロキに習って同じように悪い顔をすると「ふっふっふっ……」と意味深に笑う。そして……。
「もちのろんで契約したよ! 見てこのミサンガ! めっちゃ可愛くない!?」
「ちょっ! お前マジか! チョーウケんだけど!!」
『ドヤァ!』とドヤ顔しながら、手首のミサンガを見せる。ロキはそれを見て、大笑いしながら指を差した。
「お前、マジで何者だよ! 規格外すぎて逆に笑えるわ!!」
「いやいや、私だってまさか出来るとは思わなくて、結構驚いたよ? あの時のヒロくんの顔、めっちゃロキロキに見せたかったよ!」
「クッソ〜。なんで昨日に限って、セージの馬鹿を見失っちまったかな〜……。そんなおもしれーこと起きてんだったら、俺も見たかったわ」
本当に悔しそうに、手足をばたつかせて空を仰ぐロキが面白くて、陽菜子は声を出して笑った。
「ロキロキって、長く生きれるって言う割には、子供っぽいよね」
「当たり前だろ。どうせ長い命なら僕は楽しく生きたいね!」
ロキは無邪気に笑う。その笑顔には数百年と生きている面影はなく、外見と相応の子供に見える。
「……どうせ呪われた。嫌われ者なら、僕は僕自身を偽ってでも笑うさ。それしか僕の人生を呪えないからね」