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「………………」
ふと、目が覚めた。
なんの前触れもなく、ただただ目が覚めた。
「………………」
真っ暗な部屋の中、大の字に広げた手足を動かさずに、大きく目を開いてジッと宙を見つめる。次第に視界が慣れ始めたのか、ぼんやりと天井が見えた。
「………………」
陽菜子はムクリと上半身を起こすと、左右を確認する。そこには規則正しい寝息を立てた、兄と幼なじみの姿があった。
腕を組みながら、額に指を当てて考える。本の文字を解読しようとしていた二人の姿を見ながら、ウトウトし始めてそれから――――――……。
………………。
…………………………。
考えても仕方ないと言う考えに達したのか、陽菜子は考えることを辞めた。
ふと、窓の外を見る。薄いカーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。そして窓の上の方からこちらを覗き込む人影が見えた。
陽菜子は数回、自身の目を擦ると、ジッと窓の向こうの人影を見つめる。人影はしばらくこちらの様子を伺うように部屋の中を見てると、スッと上の方へと消える。
この場合、陽菜子がきっと普通の少女だったら、突然の出来事で恐怖やパニックを起こしていただろう。
しかし残念なことに、陽菜子は普通の少女とは少し違った。寧ろ、陽菜子の好奇心を擽るには、十分だった。
陽菜子は瞳を輝かせると、窓の方へと足を向ける。その際足元がよく見えなくて、盛大にベットから転げ落ち、廊下まで響く程の物凄い物音を立てる。が、その音に八尋はおろか、伊織も全く起きる気配はなかった。
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丸く大きな青白い月が、街を照らしている。その綺麗な月を背に、ロキは屋根の上で考え込むように腕を組んで座っている。
「……? なんでアイツ起きてんだ……? 確かに魔法は発動してるし、効いてるはずなのに……」
突然の後ろからの、予想外の声に驚いたロキは屋根から滑り落ちかける。が、何とか踏ん張って耐えた。
「……だ、誰だ!?」
ロキはすぐに距離を取ってズボンの下からナイフを取り出すと、声の主の方へと向けて構える。
「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんですけど……」
声の主……陽菜子は両手を胸元まで上げて、武器や敵意がないことを示す。
ロキは警戒体勢を続けながらも、相手に聞こえないよう小さく息を吐く。
「……お前、一体何者だ? 普通の人間じゃないな? ……なんで僕の魔法が効いてない……?」
「魔法? 何の話ですか?」
「と、とぼけるな! そもそもどうやってここまで上がってきた!?」
「いや、ロキさんさっき窓から覗いてたでしょ? だから窓からここまで登ってきました!」
ロキの一言に陽菜子はプクッと頬を膨らませると、「それー!」と叫びながらロキを指さす。
「『女だから』とか『女のくせに』とか! 私すっごい嫌いな言葉! 女でもいいじゃん! やってもできてもさ! 別に誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだから!! できるならいいじゃん! 男でもできないことあったり、できたらいいじゃん! それで世の中回るんだったらさ! 回せばいいじゃんか!! グ〜ルグル〜って!!」
何を伝えたいのか、ちんぷんかんぷんだが……。陽菜子の怒りの勢いに押されたロキは、戸惑いながらも思わず「お、おう……?」と相槌をつく。
「いや……、知らないけど……」
「あ、はい。そうですね」
陽菜子にズイっと詰め寄られて、慌てて同調する。すると『ビシッ!』とロキは鼻の前に指を突き出され、「だからね!」と続けられる。そして何故か面と向かった状態で座らされ、陽菜子の自論を数分聞くことになった。
正直言うと、陽菜子の話を聞きながらロキの内心は「面倒臭いのに絡まれてしまった……」と言う後悔と、「何故こうなった……?」と言う謎でいっぱいだった。
「……ってことで。ロキさん聞いてる!?」
「ちゃんと聞いてるよ。で? 『女子力』ってのがなんだって?」
「そーなの! 最近流行りなのか、ことある事に『女子力』、『女子力』って……女子力って一体何なのさ!?」
「僕はそういうのよく分からないけど、要は『理想的な女の子』の事じゃね?」
「お前が分からないなら、僕が分かるわけないだろ……」
「だからこうして、議論してるんじゃないですか!」
ロキは口調や態度こそ荒々しいが、根は真面目だった。
なんたかんだ言っても、陽菜子の話を真面目に聞いては、適度に相槌を入れ、時には自身の意見や疑問をぶつけて議論もしてくれたのだった。