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俺もサーフィンをしてみたが、うまく波に乗れずララには大笑いされ、周囲の見物人からは生暖かい拍手が送られた。恥ずかしい限りである。そして、このサーフィンは一生やらないと決めた。

俺の生まれもここではない島国だったが、海は常に冷たくて海水浴などという文化はあまりなかった。波に乗るのは船だけで良い。

「もうすぐ出動だ。寂しいがララの水着も見納めだ。着替えなくてはな。」

体に付いた水を払いながら部屋に帰る。

「ダサ可愛いかったよ。」

「うるさいな。」

時刻は18 時を回ろうとしているが、日は少ししか傾いていない。これは季節と時差のせいだ。




今から12時間の実労働が開始される。初任務のせいか俺の体も少々強ばっている。主な内容は、消火設備点検と見回りである。俺たちはインカムでバカみたいな雑談をしながら、着々と仕事を進めていた。暗い廊下を歩かされるのは少々ホラーではあるが、耳から聞こえる声はその感覚を鈍くさせてくれる。しかし、廊下の先には一つの男の影が見えた。

「探したよシャルルくん。で合ってるよね。話があるんだ。」

「なんでしょう。」

あの金髪は乗船の際俺に話しかけてきたユング・ガルネンである。俺と同じ金髪。俺は彼からの敵意がなさそうなため警戒を解く。

「ちょっとバーで話さない。いいノンアルコールを見つけたんだ。」

「残念ですが、仕事中ですのでそのようなことはできかねます。」

「そう言わないでよ。シャルルくんにとっていい話なんだ。君の夢はなんだい。その夢の実現の手助けができる。」

俺の夢。医療を専攻にした理由の一つでもある。

「僕も協力者が欲しくてね。医療にある程度精通した人を探していたんだ。そうしたら、君を見つけたんだ。

いや、逆かな。君のことを調べていたら、医療に精通していた。僕はちょうどそういう人が欲しかったんだ。」

どこまで知っているのか。この人は。俺のどこまで知っているのか。やはり警戒するに越したことは無いかもしれない。

「ここで余計な話は無しだよ。立ち話は周囲を刺激させる恐れがあるんだ。君も分かるだろう。じゃあ、バーで待ってるね。」

「…かしこまりました。」

どこまで俺のことを知っているか分からないからこそ、今は逆らえない。ガルネンはそのまますれ違おうとしたため、俺はインカムを入れる。事前の情報共有をしておかなくてはな。

『俺は退勤の10分前にバーで最終の見回りをする。遅れるかもしれないから、時間がくれば2人は先に….っっっ』

鋭い感覚が脇腹に走る。見れば、小さいナイフが刺さっている。防弾チョッキを着ていたことがラッキーであった。そしてその犯人はいたってヘラヘラしている。

「やっぱり、合格だね。」

「なんの真似でしょう。暗殺ごっこでしょうか。」

「そうそう、ごっこ遊び。仲良くしたいからね。」

ナイフがゆっくり離される。

「これいい斬れ味だよね。厨房で借りたんだ。」

「そうですか。」

防弾チョッキには少し穴が空いていた。手加減してくれたということは、少なくとも今は俺を殺す気が無いようだ。本当に俺を試しただけだったようだ。

最初から俺はこの男にいい印象がなかったが、今となってははっきりわかる。俺はこの手の者が嫌いだ。

集中を解いてから、片耳からは2人の俺を心配する声が少し聞こえた。

『見間違いだったみたいだ。ゾンビが動いているように見えたけど、ただの酔っ払いだった。』

バーに行く時間まで、俺はおめでたい頭だとからかわれ続ける羽目になった。




「やあ、来たね。」

退勤の10分前になり、俺はバーに立ち寄った。外はもう朝日が登り始めている。まるで夕方かと錯覚してしまう。

「警戒されないよう、僕の過去の話をしようかな。」

貴様の昔話など興味無いを言いたいところだったが、聞くに越したことはないと思いとどまった。

「僕は君の先輩・・だ。あの孤児院の出なんだ。」

同じ出身… 俺にはあまり驚くほどの情報ではなかった。しかし、どうやって彼はこのクルーズ船に乗れるまでの権威を身につけたのかがまたさらに疑問だった。

「もちろん、俳優業をしているから、公安に居る君と比べて僕は弱いけどね。代わりに、面白い話が入ってくるんだ。ここのバーだってそうだろう。」

確かに、権力者の会話は面白い。誰にも聞こえないような声で話していたり、周囲の人間の耳馴染みがないような言語で話していたり。その内容は黒いものだ。どこどこの社長はあそこの家内を愛人にしている。とか、公共団体へ送るべき贈収賄の金額はいくらか。とか、犯罪チックなことを匂わせるそういう類いだ。

「そのうちの1つに、これが入ってきたんだ。」

そう言って、ガルネンはどこからか液体の入った注射器を取り出した。

「シャブか。」

首を横に振る。

「そんな低俗なものじゃない。これはきっと将来の医療に役立つ、もっと崇高な物だ。」

「つまり。」

「つまり、これは不老不死の薬だ。」

「シャブじゃないか。」

「そう言われても仕方ないかもしれない。シャブと同じ効果なんだ。しかし、特筆すべきは副作用にある。まるでゾンビのように脳のリミッターが外れて、意識は覚醒し、疲れを知らない体になる。既に何人かに試しているんだけど好評だ。疲れ知らずということは、老い知らずということになる。」

俺は常識的に考えてみるが、そんな薬がジャパンで出回っているわけがない。そこは薬には特に厳しい。何度も臨床試験を連続でパスして、ようやく市販化されるというのに。しかも、大麻や覚醒剤の取り締まりも他国と比べて強化されている。

「だからこそ、クルーズ船に乗ったんだ。これはジャパンから出た船だが、厳密にここはジャパンではない。いわば管轄かんかつ外だ。酷い言い方だが、僕たちは好き放題できるんだ。」

「まあ、貴様のような好き放題する輩が居るから、俺はここに居るのだが。」

「わお、酷い言い方。」

オシャレなカクテルを飲んで、ガルネンは一息つく。名前は知らないが、緑色の液体で、ミントが強く香るもののようだ。その名前は確かモイートだったか。そのうち俺のテーブルにも給仕からドリンクが置かれる。

「シャルルくんは、神話に興味があるかい。」

「子供のころはよく読み聞かせてもらったとも。」

「神にできて、人間にできないことが3つある。不老不死、空を飛ぶこと、あまねく天災。このうち2つはできるようになったね。」

「俺は断る。リスクが測り知れない。」

なんとなく彼がこの先言おうとしていることが分かる。これ以上ここにいる必要は無いと直感で。

話は終わりだ。俺はカクテルに口もつけずに立ち上がる。

「今こそ僕たち人間が世界を支配する神になるんだ。シャルル君も試しに1本打ってみるんだ。僕もやろう。」

テーブルに置かれた注射器とは別に、ガルネンはもう1本を取り出して逆手で自身の左腕に突き刺し薬剤を入れる。俺は立ったままその姿を見ていた。警戒するに越したことはない。ただ、いくらなんでもやり過きだ。俺を引き止めるためのショーにしては。

「くふ…はあああ。これは、結構キクね。疲れも取れる。効果が切れたときの倦怠感も、ない、みたいだ。」

薬剤を流し切ってしばらく。ガルネンは体を震わせる。首が据わっておらず、目が爛々らんらんとしている。こんなクリーチャーを野放しにしておけば、何をしでかすか分からない。俺も腹をくくって打ち込むしかない。座りなおす。

「くっ。これは。危ない…」

11時間50分の疲労は嘘のように体から抜け落ち、世界の時間がゆっくりと進む。確かに、今ならどんな敵も殺せそうな気がする。しかし、その感覚はものの数分で元に戻る。

「この薬は、個人差はあるが20回も打てば人間ではなくなる。はあ…。そこが不老不死の完成だそうだ。先の感覚が回数を重ねるごとに強く、長くなり、最後には元に戻らなくなる。僕はこの船を臨床試験場にし、シャルルくんには医師として希望者を募り、2日に1回、注射と経過観察行って欲しい。 」

そのために医療に精通した俺に協力をあおったようだ。いわば人体実験のために。

「君のこと、陰湿に調べさせてもらったことは悪かったね。ただ、君にとっても悪い話じゃないと思うんだ。君のような大きな夢を持つことは罪じゃない。僕もそんな人を見るのは好きだ。実現のために探求しないことが罪なんだ。」

そうだろう。と、言わんばかりに俺に目線を合わせる。俺は…協力すべきかどうかで揺れていた。きっと協力しなければ俺に害はほとんど及ばない。到着先でガルネンと共犯者は検挙され、我々は容易に任務を達成することができる。この男は嫌いだが、俺のキーマンだ。

そうこうしていると、ガルネンは少々ふらつきながら立ち上がり、落とした2本の注射器を回収してバーを出ようとする。

「君からいい返事が聞けることを期待しているよ。来週のこの日に、ここで待ってるよ。他言無用。」

そうして、ヘラヘラした顔に戻り戻った。

「俺も退勤だ。」

テーブルにある、まだ1口も口を付けてないそれを一気に飲み干して、ガルネンが出た出口と同じところを通って部屋に戻った。

不死身«クリーチャー»

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