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#ヒューマンドラマ
Hp2
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その名前が、ついに現れた。
灯台の記録に残る、殷を狂気へ導く男。
帝辛を操り、国を支配する、黒い影の正体。
だが今、この時代では、まだ「将軍の一人」に過ぎないはずだ。
老官は続けた。
「黒闢は、長く殷軍を支えてきた。武勇に優れ、兵を統べる力も持つ。だが……」
老官は眉を寄せた。
「あの男は、制御が難しい。力を信じすぎている。陛下は、それを危惧されている」
「……殿下は、どうお考えなのですか?」
「分からぬ。殿下は、まだ黒闢と深く接しておられない。
だが、いずれ決断を迫られる日が来る」
老官は縫季を見た。
「その時、殿下を支えられるのは、そなたのような、冷静な目を持つ者だ」
縫季は何も言えなかった。
老官は軽く頷き、去っていった。
縫季は一人、帳の前に座ったまま、動けなかった。
黒闢――
その名前が、脳裏に焼き付いて離れない。
灯台の記録では、黒闢は帝辛を玉誓で縛り、支配する。
帝辛は涙を流し、民を苦しめる決定を強いられる。
だが今、まだ黒闢は「将軍の一人」に過ぎない。
陛下が生きている限り、黒闢は動けない。
だが――
(陛下が、倒れたら)
縫季の指先が震えた。
すぐに手を離す。器は何も言わない。だが、触れ方ひとつで割れるものがある。
外では、依然として殷の朝日が明るい。
だが縫季の目には、その光が、崩壊へ向かう刻を告げる灯火に見えていた。
(……間に合うのか)
縫季は帳を閉じた。
違和感の正体を、確かめなければならない。
この国の「明るさ」の裏に、何が隠れているのか。
そして――
(……消したくない)
胸の奥で、何かが芽を出し始めていた。
それは任務でも、義務でもない。
もっと個人的な、もっと曖昧で、もっと危険な感情だ。
さっき見たもの。
独楽が回って、泣き声が止んで、子供が笑った。
清朗の声に、帝辛が年相応に笑った。
あの笑顔が、くるりと回って、当たり前みたいにこの場へ落ちてくる。
その光景が――灯台の記録の中の、痩せた頬と泣き声に、塗り潰されてほしくない。
(……この「明るさ」を、折りたくない)
縫季は立ち上がり、戸口に寄った。
王太子府の屋根が、朝日に照らされている。
あの中に、帝辛がいる。
民を想い、国を信じ、人の誠を信じようとする、若き王太子。
だが今の縫季が守りたいのは、まだ――人ではない。
(……笑っていられる世界線を、残せないのか)
答えは、まだ見えない。
縫季は帳を抱え、内庫司の奥へと戻った。
まずは、この違和感の正体を暴く。
それが、縫季にできる最初の一歩だった。
コメント
1件
うわあああ縫季の内面が深くなってる…!「消したくない」「笑っていられる世界線を残せないのか」ってところがもう、胸にじんわりきたよ😭✨ 独楽で笑った帝辛の姿が、灯台の記録の暗い未来と重なって切なすぎる。黒闢の存在も気になるし、縫季の“個人的な感情”がこれからどう動くのか続きが待ち遠しい…!🌟