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橘靖竜
その晩、我々は神父の宿舎に通された。
———
教会の裏手にある、小さな建物だった。
石造りで、古い。
———
中は暖かい。
灯りがある。
それだけで、外とは別の場所に感じられた。
———
テーブルが一つ。
椅子が三つ。
簡素な部屋だった。
———
神父がワインを注ぐ。
手元は静かだ。
音を立てない。
———
「急なことで、すまない」
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神父が言う。
———
「いや」
私は答える。
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「呼ばれた以上、理由はあるのだろう」
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神父は、うなずく。
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だが、それ以上は続かない。
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グラスを持つ。
———
一口。
———
味がしない。
———
「長老の件だが」
私が言う。
神父は、わずかに手を止めた。
「事故だ」
短く言う。
私は、うなずく。
「そう聞いている」
神父は、しばらく黙ってから答える。
「……その通りだ」
その声は落ち着いていた。
だが、どこか噛み合わない。
私は、言葉を選ぶ。
「この村では、よくあることなのか」
神父は、すぐには答えない。
グラスに触れる。
指先が、わずかに滑る。
「……珍しくはない」
———
沈黙が落ちる。
———
「だが」
私は言う。
神父は顔を上げる。
「あなたは、そう思っていない」
———
神父は、否定しない。
———
「……私は」
そこで止まる。
———
「ここに来てから、まだ日が浅い」
———
それだけ言う。
———
私は、引き下がらない。
「村人の様子も、おかしい」
———
神父の視線が、わずかに揺れる。
———
「……よそよそしいか」
———
「そうだ」
———
神父は、ゆっくりとうなずく。
———
「誰も、何も言わない」
———
「言う必要がないからか」
ホームズが口を開く。
———
低い声だった。
———
神父は、そちらを見る。
———
答えない。
———
「それとも」
ホームズは続ける。
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「言えないのか」
———
神父は、目を伏せる。
———
「……ここでは」
———
言葉が続かない。
———
「語られないことが多い」
———
静かに言う。
———
「だが」
———
わずかに息を吸う。
———
「記録には残る」
———
視線が、こちらに向く。
———
「書かれてしまう」
———
それだけだった。
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