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百鬼清風
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#イケメン
高遠すばる
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#初小説
鬼卍。
70
それから数日後の昼、彼女が何度も頼むのでリゼリアを連れて食堂へ向かった。
誘うと彼女は、とても喜んだ。
私は、彼女の制服をチェックする。制服が届くまで、誘わなかったのだ。これで、お兄様の目の毒にはならない。
「リゼリア、こちらです」
私が手を振ると、奥のテーブルでアリスが振り返った。お兄様、ジュリアン、レオポルドもそろっている。
リゼリアは少し早足で私に追いつき、皆へ挨拶をした。
「ご一緒させていただきます。よろしくお願いします!」
「こちらこそ。僕はジュリアン・ペンブルック。生徒会長をしているんだ」
ジュリアンが隣のアリスを紹介し、レオポルドも名乗った。私はその間に、リゼリアから名前で呼んでほしいと頼まれていることを伝えた。
「では、リゼリア。学園には慣れたかな」
「はい、ジュリアン会長。もう大丈夫です!」
「リゼリア、学校の中は覚えた? うちは広いから大変でしょ」
アリスが尋ねると、リゼリアはすぐに答えた。
「はい。昨日は一度も間違えませんでした」
「昨日は?」
「最初の日に少し、確かめるのに時間がかかっただけです!」
お兄様が隣の椅子を引いてくれたので、私はそこへ座り、リゼリアは私の向かいに座った。
食事が運ばれてくると、彼女は料理の名前を一つずつ確かめた。ビーフシチュー、きのこのキッシュ、ローストチキンサラダ。籠にはクロワッサンも入っている。
リゼリアがビーフシチューを食べ、頬を押さえて微笑んだ。
「んー、美味しいわ! すっごく柔らかくて、とろけるわ」
「気に入ったのなら、よかったです」
「ええ。アグネスさんにも、食堂では何を食べたか教えてねと言われているの」
「母なら、気に入った物を家でも出そうとするかもしれません」
「やっぱり? もう毎日、山ほど出してくださるのよ! 食べられる分だけで結構ですと何度も言っているのに」
私も嬉しくなった。アグネスお母様が張り切っている様子まで浮かんでくる。
「叔母様には、俺からも言っておこうか」
お兄様が穏やかに尋ねた。リゼリアはナイフを皿の横へ置き、急いで返事をした。
「いいえ! 不満があるわけではありません。とてもよくしていただいています」
「それは分かっている。ただ、毎日食べすぎてしまうなら、遠慮しなくていい」
「ですから、食べすぎたりは……」
「でも、リゼリア。それでは、太ってしまうわ」
「えっ! それは困る」
私が、言うと、リゼリアは少し考え込んだ。
彼女は、考え込んだまま右手を伸ばし、指先が水のグラスにぶつかった。
グラスが倒れ、私の方へ水が広がってくる。私は膝のナプキンをテーブルへ置き、服へ流れる前に押さえた。リゼリアは慌ててグラスを起こしたが、中はもう空だった。
「ごめんなさい、マチルダ! 濡れた?」
「大丈夫です」
「皿を退けるわ」
アリスがサラダの皿を持ち上げ、レオポルドがパン籠を水の届かない方へ移した。ジュリアンは近くの給仕に声をかける。
布巾を持ってきた給仕がテーブルを拭こうとすると、リゼリアは椅子を引いて立ち上がった。
「私に拭かせてください。こぼしたのは私ですから」
「ですが、リゼリア王女」
「お願いします。これくらいはできます」
受け取った布巾を広げ、水を吸わせていく。お兄様も別の布巾を受け取り、私の前を拭いてくれた。
「殿下、お手を煩わせてしまって……」
「構わないよ、リゼリア。こちらは終わった。そちらは?」
「はい。もう大丈夫です。ありがとうございます」
リゼリアは礼を言ってから、お兄様をじっと見た。給仕が布巾を受け取ろうとすると、慌てて渡す。お兄様も使い終えた布巾を返したので、私も濡れたナプキンを渡し、乾いた物に替えてもらった。
「慌てなくていい、リゼリア。水も新しくもらおう」
レオポルドがパン籠を戻し、アリスもサラダの皿をテーブルへ置いた。リゼリアは座り直すと、皆にもう一度謝った。
「私、いつもこうではないんです」
「初めてのことが多いから、疲れて失敗することもある。分からないことは何でも聞いてくれていいからね、リゼリア」
ジュリアンの言葉に、リゼリアは少し困ったように微笑んだ。
給仕が新しい水の入ったグラスを置く。彼女は今度こそ確かめて持ち上げ、少し飲んだ。
「リゼリア、帰りは私と一緒に教室へ行きましょう」
「もう道は分かるわよ」
「ええ。お話をしながら帰りたいのです」
私がそう言うと、リゼリアは返事をやり直した。
「それなら、もちろん。一緒に行きましょう」
アリスが楽しそうに笑った。
リゼリアは何がおかしいのかと尋ねたけれど、アリスは、いちいち一人で何でもできると説明しなくてもいいのよと答えるだけだった。
食事を終えると、給仕が食器を下げた。お兄様達と別れる時、リゼリアはお兄様にもきちんと挨拶をした。
「また一緒に食べよう、リゼリア」
「はい。ありがとうございました、殿下」
教室へ戻る道では、リゼリアが前で歩いていた。
明日のお昼も一緒にと誘ったら、彼女はためらわずに頷いた。
その夜、リゼリアは滞在先の部屋で、翌日使う教科書を机に並べていた。
制服から室内着に着替え、食事も終えている。窓の外は暗いのに、机の上にはまだ読みたい本があった。
明日また、昼にマチルダと食堂へ行く。そのことを思い出し、リゼリアは本を持ったまま動きを止めた。
疑われないよう、親しくするだけのつもりだったのに、楽しみにしている。
昼のアーサーの態度も腹立たしかった。失敗を責めず、当たり前のようにテーブルを拭き、王女だからといって何か扱いに困っている様子もなかった。
礼を言ったのは、助けてもらったからだ。それくらいは礼儀だ。
だが、兄を殺した男を許したわけではない。
リゼリアは本を鞄へ入れた。マチルダとの約束は守る。明日も明るく話しかける。それで、ここへ来た目的を忘れてよいことにはならない。
どう夫妻の目を盗んで、仲間と連絡しようか。
後日、王宮の執務室で、アーサーはヒューとアグネスからリゼリアの様子を聞いていた。
屋敷では特に変わった行動はなく、学園の話も自分からするという。
「リゼリアちゃん、お昼の失敗を気にしていたわ。マチルダの服を濡らさずに済んでよかったって」
「そうですね。おそらく、緊張しすぎて空回りしているのでしょう」
「ええ。あなたも後始末を手伝ってくれたと聞いたわ。緊張が続いているのは何か企んでいるからでしょうね」
アグネスは嬉しそうに話すが、抜け目はない。
「今後も、同じように様子を見てください」
「監視は続けるのだね」
ヒューの問いに、アーサーは頷いた。
「はい。そのうち、動き出すでしょう」
「リゼリアちゃんへの接し方は?」
「今までどおりでお願いします。俺もそうします」
アグネスは承知したと答えた。
アーサーは二人に礼を言い、話を終えた。まだ、問い詰めるには早い。しばらくは、泳がせるべきだと考えた。
コメント
1件
食堂でのやりとり、すごく好きなシーンでした!リゼリアの緊張がグラスを倒すっていう小さなミスに出てるところとか、お兄様たちが自然にフォローする感じが優しくて。でも彼女の心の中では「楽しみにしてる自分」と「兄を♡♡♡た相手は許せない」って気持ちがせめぎ合ってて…その二面性が丁寧に描かれててドキドキしました。アーサーさんが泳がせる方針ってのも、今後の展開が気になりますね🌷