「熱、ある?」
私を見下ろしながら、彼が聞く。
彼自身の吐息も十分、熱い。
「ある、かも」
あるかないかと言えば、ある。
全身、汗ばんでいるのだから。
「それは――」
『――俺のせい?』
嬉しそうに聞かれる前に、唇を重ねる。
そう、あんたのせい。
あんたといると、身体が熱い。
でも、言わない。
私は彼にしがみつき、腰を揺らす。
我慢できなくなるまで。お喋りなんか、忘れるまで。
言えば……良かった。
あの日から、今も、私は肝心なことほど、言えない。
今さら……か。
病室のベッドの上、目覚めると同時にふふっと笑みをこぼす。
彼は知らない。
私が帰ってきたことを。
知らせるつもりもない。
その術すら、ない。
今さら……言えない。
あんたじゃなくても幸せになれる、なんて大見得切っておきながら、捨てられて帰って来ましたなんて。
あんたじゃないから幸せになれなかったわけじゃない。
それでもきっと、言うんでしょう?
ほら、やっぱりお前には俺じゃなきゃダメだったろう? って。
十六年経っても想像できる。
俺様で、いつも余裕で、私の体温を上げる男。
あいつにだけは、知られたくない――――。
病室から見える真っ青な札幌の空を眺めながら、私は夢の続きを願って目を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!