十六番街で最後の戦いが発生していた。スネーク・アイことジェームズに煽られてシャーリィ達を狙った『血塗られた戦旗』の残党は百名近いものの、既に目標を見失い治安維持のため派遣された『オータムリゾート』の構成員達と熾烈な戦いを展開していた。
だが装備も指揮系統も未熟な残党と、レイミの方針を取り入れ近代的な訓練を一年以上積んで編成された『オータムリゾート』の構成員達とでは勝負にならなかった。
彼らは各所で惨敗し、掃討されていく。
その騒ぎに紛れて離脱しようとしていたスネーク・アイ一派。
しかしエーリカを撃たれて怒り心頭のシャーリィによって発見され、最早形振り構わぬ攻撃に晒されていた。
「畜生!なんだこれは!?こんな情報は無かったぞ!」
「ああっ!旦那!観測班の奴等が吹き飛ばされたぞ!」
「ちぃ!とにかく身を隠せ!あんなの相手に出きるか!」
上空からシャーリィは電撃を放ち、スネーク・アイ一派の暗殺者達を感電死させていく。
今回の襲撃に先立ち敵味方を識別するために全員黒いコートを羽織っていたが、それがシャーリィにとって目印となった。
もちろん攻撃が始まると一部の者はコートを脱ぎ捨てたが、上空からそれを見ていたシャーリィは素早く攻撃。幾人か取り逃がしたが、大半を次々と抹殺していく。
ジェームズはエーリカを撃った狙撃手を伴い夕陽に染まる十六番街市街地を逃げ回っていた。
間も無く陽が暮れる。そうすれば夜陰に乗じて脱出することも可能になると考えた。
シャーリィもその事に気付いており、攻撃目標をジェームズと狙撃手に絞った。狙撃銃のスコープが反射しており良い目印となっていた。
「逃がすものですか!」
シャーリィは上空から急降下し、二人に襲い掛かる。
「旦那!こっちに来る!」
「二手に分かれるぞ!落ち合う場所を間違えるなよ!」
ここで二人は道を分かれた。シャーリィは一瞬迷いを見せて、直ぐにジェームズ追跡を選ぶ。そして。
「ごきげんよう、スネーク・アイ。また会えましたね」
ジェームズの前に降り立ち、満面の笑みを浮かべる。
「金髪の娘を狙った筈なんだがな……人違いか」
「ええ、私の親友が撃たれました。当たり前の話ですが、仕返しに来ましたよ?対価は貴方の命で構いませんので」
柄だけの勇者の剣をジェームズに向けるシャーリィ。対するジェームズも身構える。
「もう少しスマートに済ませるつもりだったんだがな」
「ああ、毒入りの食事ですか?大変美味でした」
「やっぱり失敗したのかっ!」
「いいえ、あなたが潜り込ませた料理人の食事は全て頂きましたよ。ついでに言えば、うちは毒味をしていません」
「なんだと?じゃあ仕込んだ毒に気付いていながら食ったってのか?」
シャーリィの言葉を聞いてジェームズは眉を潜める。
「そうですよ。とても刺激的な味でした。何人か潜り込ませていた様子ですが、どなたの食事も大変個性的で美味でした。貴方に感謝を」
「全員バラバラの花を仕込ませた筈なんだがなぁ……化け物め」
「化け物とは失礼な、ちゃんとした人間ですよ。私個人を狙うならまだ許容できましたが、エーリカとシスターが大怪我をしました。よって、貴方を生かしておく理由がなくなりました」
柄から光輝く刃が出現し、静かに構えるシャーリィ。それを見てジェームズも剣とリボルバーを構える。
「そうかよ。なら、こっちも直接狙わせて貰う」
一方カテリナとエーリカを狙撃した狙撃手は、ジェームズと別れて路地裏を進んでいた。
遠くでは銃声が鳴り響き、悲鳴と怒号が飛び交っている。既に『血塗られた戦旗』の残党は大半が討ち取られ、このままでは逃げ道が無くなることは明白であった。
雇い主であるジェームズのことが気掛かりではあったが、彼は既に気遣う余裕を失っていた。
「はぁ!はぁ!冗談じゃねぇ!空を飛んで訳の分からねぇ攻撃をして来るなんて聞いてねぇぞ!?あの化け物め!」
物陰に隠れて息を切らせながら悪態を吐く。まさかシャーリィが空から攻撃してくるなど考えもしなかった。
「お姉さまを化け物呼ばわりとは……余程命が要らないみたいですね?」
少女の声に反応して振り向くと、赤を基調とした騎士服を纏った赤髪の少女が狙撃手を見下ろしていた。
「……何か誤解があるみたいだな、お嬢ちゃん。俺はアンタの姉ちゃんを馬鹿にした覚えはないんだが」
「弁明の必要はありません。私の姉を侮辱した。その事実があれば充分ですから」
冷ややかな視線を向けるレイミを見て、内心舌打ちした。
皆さんごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。最早問答は無用、目の前の敵を今から誅するだけです。
「そうかい……悪く思うなよ!」
彼は持っていたライフルを私に向けますが、正々堂々と受けて立つつもりはありません。
「一度だけ言います。銃を下ろして投降してください。今ならまだ命は保証しますよ」
素直に投降するとは思えませんが、殺す手間が省けて良いのですが。
「知らねぇなぁ」
答えは、引き金に掛けた指に力を込めることでした。
慈悲は示しましたからね。
「凍てつけぇ!」
魔力を収束させて、右手を向けて練り込んだ冷気をぶつけてやりました。
その結果、ライフルを構えたまま氷像となった彼を私は一瞥し、念のため刀で首を切り飛ばしておきました。
そしてライフルを回収……あっ、腕が砕かれましたが、まあ構わないでしょう。
「M1903A……狙撃モデルですか。|ライデン会長《あの人》はまたこんなものを……」
アメリカのボルトアクションライフルM1903の狙撃モデルであり、第一次大戦からベトナム戦争まで使われた名銃ですね。
こんなものは販売カタログに無かった筈ですし、気紛れに試作したのでしょう。
お姉さまのお怒りを見るに、これで負傷者が出た様子。
ライデン会長はまた失敗しましたね。おそらく北部工廠襲撃で奪われた試作品のひとつ。
ライデン嬢が提示した資料には私も目を通りましたが、こんなものが『血塗られた戦旗』へ渡ったと言う記載はありませんでした。あればお姉さまに警告しましたし。
……彼女の頭痛の種が増えるでしょうが、お姉さまに伝えないと言う選択肢は最初からありません。
どうせなら、『ライデン社』もお姉さまの傘下に入れば良いのです。そうすれば丸く収まる。
まあ、それは私が考えることではありませんが。
私は銃を肩に掛けて、強い魔力の感じる方角へと脚を向けました。お姉さま、待っていてください。今、レイミが参ります!
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