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第28章「再配置」
譜面に指を置いた律の手が、わずかに震えた。
ねむるの声に応えるために加えた一音が、
空気の断絶構造に揺らぎを生んだ。
図書室の空気が、静かに変化する。
断絶していたはずの空間に、細い通路が生まれた。
「律くん……今、何かした?」
ねむるの声が、前よりもはっきりと届いた。
律は答えず、譜面を見つめたまま、空気の震えを感じていた。
魔法は、ねむるの声だけを通す構造に変わり始めていた。
図書室の壁が、わずかに軋む。
空気の密度が変わった証拠だった。
断絶の三音はまだ残っている。
でも、ねむるの声に応える一音が加わったことで、空気の流れが再編されていた。
律は、譜面の中心に指を滑らせた。
ねむるの声の波形に合わせて、空気の通路を調整する。
魔法は、遮断ではなく選択へと変化していた。
「律くん。俺、そこに行ってもいい?」
律は少しだけ迷った。
ねむるの声だけが届く空間。
それは、誰にも触れられないはずだった場所に、ねむるだけが入ってきたということ。
「……お前の声が、俺の魔法を変えた」
「変えたんじゃないよ。律くんが、変えたんだ」
ねむるの声が、空気の中で柔らかく響いた。
律は譜面を閉じた。
魔法は完成していた。
でも、それは断絶ではなく、ねむるとの接続だった。
図書室の扉が静かに開く。
ねむるが、ゆっくりと中に入ってくる。
空気は拒まない。
彼の気配だけが、律の空間に受け入れられていた。
「俺、ここにいてもいい?」
律は頷いた。
それだけで、空気が少しだけ温かくなった気がした。