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白山小梅
12
#借金
1,754
第28章「再配置」
譜面に指を置いた律の手が、わずかに震えた。
ねむるの声に応えるために加えた一音が、
空気の断絶構造に揺らぎを生んだ。
図書室の空気が、静かに変化する。
断絶していたはずの空間に、細い通路が生まれた。
「律くん……今、何かした?」
ねむるの声が、前よりもはっきりと届いた。
律は答えず、譜面を見つめたまま、空気の震えを感じていた。
魔法は、ねむるの声だけを通す構造に変わり始めていた。
図書室の壁が、わずかに軋む。
空気の密度が変わった証拠だった。
断絶の三音はまだ残っている。
でも、ねむるの声に応える一音が加わったことで、空気の流れが再編されていた。
律は、譜面の中心に指を滑らせた。
ねむるの声の波形に合わせて、空気の通路を調整する。
魔法は、遮断ではなく選択へと変化していた。
「律くん。俺、そこに行ってもいい?」
律は少しだけ迷った。
ねむるの声だけが届く空間。
それは、誰にも触れられないはずだった場所に、ねむるだけが入ってきたということ。
「……お前の声が、俺の魔法を変えた」
「変えたんじゃないよ。律くんが、変えたんだ」
ねむるの声が、空気の中で柔らかく響いた。
律は譜面を閉じた。
魔法は完成していた。
でも、それは断絶ではなく、ねむるとの接続だった。
図書室の扉が静かに開く。
ねむるが、ゆっくりと中に入ってくる。
空気は拒まない。
彼の気配だけが、律の空間に受け入れられていた。
「俺、ここにいてもいい?」
律は頷いた。
それだけで、空気が少しだけ温かくなった気がした。
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