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🫧第23章:泡の記憶
聖名は、音楽室の隅で静かに座っていた。
律の音が、空気を揺らしている。
それはただの旋律じゃない。
彼女の中の、何か古くて柔らかいものに触れていた。
泡日記が、勝手に開いた。
ページが震え、12歳の記憶が滲み出る。
「雨だった。
車のライトが、視界を裂いた。
私は、動けなかった。」
その瞬間、聖名の胸が締めつけられた。
あの日の感覚が、鮮明に蘇る。
濡れたアスファルト。
制服の裾が重く、冷たい。
誰かが叫んだ――でも、音は遠くて、ぼやけていた。
そして、律が現れた。
彼は迷わず、聖名を突き飛ばした。
その直後、車が彼を跳ねた。
「律は、私を守ってくれた。
そして、眠った。」
病室の白い光。
律は目を閉じたまま、何も言わなかった。
聖名は、毎週泡日記を持って通った。
でも、彼はページをめくることもできなかった。
そして今――高校で再会した律は、音を鳴らしている。
その音が、記憶の泡を揺らした。
彼女の中で、過去と現在が重なった。
「律は魔法少年だ。
眠っていた間も、私の世界を守ってくれていた。
そして今、音で私を呼び戻してくれている。」
聖名は、そっと律の背中を見つめた。
彼はまだ気づいていない。
でも、彼女は確かに感じていた。
「あの時の魔法は、まだ続いている。」