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初日のターヴァ
キ"ャノレノレ
200
六月の雨は、いつも突然だ。
六時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った頃には、窓の外はまだ明るかった。それなのに、ホームルームが終わって教室を出た頃、空は灰色に変わっていた。
「うわー、降ってるじゃん」
廊下の窓から外を見た生徒たちが次々に声を上げる。雨粒は大きく、大きな音を鳴らしながら校庭を白く煙らせていた。
相沢悠真は鞄の中から折り畳み傘を取り出した。天気予報を確認するのが習慣のため、雨に困ったことはほとんどない。
「さっすが!委員長」
背後から聞き慣れた声がした。振り返るとサッカー部のエース、藤崎 蓮が立っていた。制服のシャツをズボンから出し、ボタンを一つ開け、学校が終わった解放感を体現したかのように着崩している。
「傘、忘れたの?」
悠真が聞く。
「うん、忘れた!朝は晴れてたしね」
蓮はあっさり答えた。
「天気予報見てないの?」
「見てない」
即答だった。呆れてため息をつく。
蓮は昔からそうだ。勉強も苦手。なんでも適当。真剣な顔をするのはサッカーをしている時ぐらいだ。それなのに不思議と誰からにも好かれている。悠真には理解できない。というか、理解したくない。この妙な気持ちは一体、何。
「駅まで歩くの?」
「まあ、濡れて帰るしかないよな」
そう言って笑う。その笑顔が少し悔しい。人気者への憧れ?それとも嫉妬?
「風邪引くぞ」
「大丈夫だって!」
大丈夫なわけがない。
雨はますます強くなっている。
悠真は少し迷ったあと、小さく息を吐いた。
「駅まで一緒に入る?」
蓮が目を丸くした。
「いいの?」
「駅までなら」
「入る」
返事だけは異常に速かった。
二人は昇降口を出た。傘は一人用だ。当然、距離は近く、肩が触れそうになる。悠真はできるだけ端を持ち、距離を開けた。しかしそのせいで自分の右肩が濡れていく。
「相沢、濡れてる」
「別にいいよ」
「よくないだろ」
蓮が強引に近づき、左肩が触れた。たったそれだけなのに、心臓が妙に騒ぐ。
雨音が強いせいだ。
そう自分に言い聞かせるが上手くいかない。雨の匂いに隠れる蓮の香りが、心臓の鼓動をより早くした。
「そういえばさ、」
蓮が口を開く。
「修学旅行の班、ついに決まったな」
「うん」
「俺、お前と違う班だった」
「知ってる」
「残念だな」
悠真は思わず足を止めそうになった。
残念。
その言葉を蓮は何気なく言ったのだろう。けれど、胸の 奥が妙に熱くなる。
「なんで」
「え?」
「なんで残念なの」
蓮は少し考えたあと、「一緒だと楽だから」と笑った。
「お前、真面目だしな」
「それ褒めてるのか」
「褒めてる」
「つまんない奴って聞こえる」
「なんでだよ!良い奴ってことだよ」
雨の中を歩きながら、二人は笑った。気付けば駅が見えていた。十分ほどの道のりだったはずなのに、ずっとずっと短く感じた。
そして駅の屋根の下に入る。ここで傘の役目は終わり。あぁ、終わってしまった。
「ありがとな」
蓮が言う。
「別に」
「助かった!」
そう言って改札へ向かおうとする。その背中を見た瞬間だった。胸の中に奇妙な焦りが生まれた。
このまま帰ってしまうのか…。
また明日も会えるのに。いつも通りなのに。それなのに、もっと話したいと思っている自分がいた。もっと一緒に居たいと思っている自分がいた。
悠真は初めて気付く。蓮といる時間が好きなのだと。好きだから、この時間が終わるのが惜しいのだと。
「蓮!」
呼び止めると、蓮が振り返った。
「ん?」
すぐに言葉が出なかった。好きだ、なんて馬鹿げたことを言ってしまいそうになる。だけど、そんなこと言えるわけがない。まだ自分でも整理ができていないのに。だから悠真は別の言葉を選んだ。
「明日も天気悪いらしいぞ」
蓮は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
「また傘忘れるかも」
「忘れるなよ…」
「その時はまた入れてくれよ」
そう言って得意気に笑った。
その笑顔が眩しくて苦しい。
やっぱり行かないで。
そう願ってしまいそうになるけど、悠真は笑顔を作った。最後の言葉が嬉しかったから。雨はまだ降り続いている。けれど気分は悪くなかった。明日も雨ならいいな。そんなことを思ったのは、生まれて初めてだった。
コメント
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うわ、もうキュンが止まらない……! 傘に入るときの距離感とか、「駅までなら」って言い訳しながら結局一緒に帰ってる悠真の心境、すごく丁寧に描かれてて胸が締め付けられました。 「明日も雨ならいいな」って最後の一文、青春のほろ苦さと甘さがぎゅっと詰まってて、何度も読み返したくなる。 蓮くんの無邪気さも憎めなくて、この先どうなるのかすごく気になります…!続き、楽しみにしてますね🌷