Xさんとの巨大企画収録のために集まったのは、人気急上昇中の2.5次元最強歌い手グループ『シクフォニ』の6人。
赤色担当 暇72。
水色担当 雨乃こさめ。
紫担当 いるま。
シクフォニのリーダーでピンク担当 LAN。
緑担当 すち。
黄色担当 みこと。
Xさんが絡んでいる巨大企画の収録ということは、何かしらのドッキリもあるだろうと思いながら、彼らはお互いの様子を探りつつそこにいた。
何のトラブルもなく収録が始まり、相変わらずのあの企画をしていると、ふとLANは、目の前が歪んだような感覚に陥った。
徹夜のしすぎで体調でも崩したか、と思っていると、他のメンバーもそれぞれ「なんか目の調子悪いかも」「ぐらぐらする」と言い出す。
これはおかしいぞ、と思い始めた時、LANの視界が真っ白な光で覆い隠された。
ら「何!?」
びっくりしてLANが声を上げる。
しかし、他のメンバーからの反応はなく、LANはそのまま意識を失った。
次に目を覚ました時に、LANは顔の側面に違和感を覚えて起き上がった。
寝ていたつもりはなかったのに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
収録中に眠ってしまったことを謝ろうと、LANは顔を上げてそこにあるはずのパソコンを見ようとする。
だがそこには、何もなかった。
それどころか、LANが寝ていたのは大草原で、家の中ですらなかった。
ら「は?え?どゆこと?」
LANが大混乱していると、誰かがLANの肩をぽんっと叩く。
LANはそれに驚いて、振り返る勢いで拳を振るい、後ろにいる誰かを殴ろうとする。
「うおっ」と声を上げて飛び退いたその人は、暇72だった。
見慣れた仲間の顔を見て、LANはとりあえず独りじゃないことに安堵する。
しかし、そうやって安心している場合でもないことを思い出し、暇72に詰め寄った。
ら「なっちゃん!ここ、どこかわかる?それから、他のみんなは?どうやってここに来たか覚えてない!?なんで急にここにいるの!?!?」
暇「うん、色々聞きたいことがあるのはわかってるからちょっと落ち着こうな????」
暇72に宥められて、LANは何度か深呼吸をして心を落ち着かせようとする。
だが、同じような疑問が頭の中でぐるぐるして、なかなか落ち着かなかった。
そんなLANの隣に暇72はドカッと座り、疲れたように息を吐いて肩を回す。
LANがチラリと暇72を見ると、暇72はその視線を受けて片方の眉を少しだけ上げた。
そして、どこか遠い方を見つめ、口を開く。
暇「まずさっきの質問のひとつに答えると、ここには俺らだけじゃなくて他の4人も来てる。最初にいるま、それからこさめ、俺、すち、みことって順番に目が覚めた。」
暇72が起きたのは、こさめに起こされたからだったらしい。
起きるまで寝かせてやってやろうと言ういるまの制止を押し切って、こさめが無理矢理起こしたのだそうだ。
目が覚めた時には、暇72の目の前にこさめの顔があり、咄嗟に起き上がった時に暇72の頭とこさめの顎がぶつかりそうになったのだとか。
暇「それから、目覚めないらんを心配して、俺ら5人で起こしにかかったけど、お前なかなか起きないからさ。この辺りの偵察にも行きたいし、誰かひとりがここに残ってらんを見ていて、他は2人ずつに別れて辺りの偵察に行くことにした。ここがどこかもわからんし。ほら、わし運動神経悪いから残りたいって言ったんよね。」
今、みんなは恐らくこの場所を中心に円を描くように辺りの偵察に行っているだろう、と暇72は言う。
それを聞いて、らんはホッとした。
あの4人を残してここに来たら、あの4人はとても心配するだろうから。
暇72がここにいた時点で何となく6人でここに来たような気もしていたが、当たっていて良かった。
LANは暇72の話を頭の中でまとめながら、ここがどこかわかるようなヒントを探す。
だが、偵察に行ったあの4人が帰ってこない限りは何もヒントは得られないことに気がついて、LANはため息をついた。
これから暇72とふたりで偵察に行ったとしても、他の誰かがここに戻ってきた時に2人ともいなかったらそれこそ大事件になってしまう。
LANと暇72は、この場所での待機を余儀なくされていた。
ら「とりあえず、待つかぁ、、、」
暇「大分前に行ったから、もうそろ帰ってくると思うけど。日が沈むまでには戻ってくるつもり、って言ってたから。」
空を見渡すと、日が大分下の方に下りてきているのが見えた。
LANは足を投げ出して座り、腕を立てて身体を支える。
そんなみっともないリーダーの姿にやや顔を顰めて、それでも暇72は何も言わずにその隣で胡座をかいた。
それから少しして、遠くから「おーい!」と言う声が聞こえてきた。
中性的でやや高いその声は、こさめのものだ。
それに気がつくと、LANは反射的に立ち上がって、2人の人影が見える方に大きく手を振った。
すると、向こうの2人も手を振り返してくれる。
影的に、こさめといるまだった。
い「お前やっと起きたか。」
こ「も〜!心配したんだからねっ?」
2人はそう言ってLANに笑いかける。
LANもそんな2人に笑い返して、心配かけてごめんね、と謝る。
ゆっくりと軽く頭を下げたLANの頭を、いるまがくしゃくしゃっと撫でた。
普段はそんなことをしない彼の意外な行動に、LANはビックリして顔を上げる。
すると、頭に置かれていた手はパッと離され、ふいっ、といるまはLANから視線を逸らした。
そんないるまを微笑ましく見ていると、暇72が「おっ」と声を上げて後ろ側に手を振る。
そこには、すちとみことが何かを両手にいっぱいに持ってこちらに歩いてきている姿があった。
2人が持っているのは、薪に丁度良さそうな大きさの木の棒だった。
み「ぅわあ、らんらん起きたん!?良かった!」
す「とりあえず今夜はここで過ごすことになるだろうから、木の棒いっぱい持ってきたよ。」
い「お、サンキュー。」
すちとみことは、手に持っていた木の棒をドサドサとその場に落とす。
少し遠いところに森みたいなところがあり、そこにたくさんこういう木の棒が落ちていたらしい。
この木の棒は、そこから拾ってきたそうだ。
この近くに村や町はなく、捨てられた布もなかったからテントは作れないが、火はつけられる。
ら「あれ、誰か木の棒で火つけれたっけ?」
LANの問いかけに、みんな押し黙って互いの顔を見合わせる。
家事全般が得意なすちも、流石にそれはできないようだった。
木の棒を集めても、これじゃあ火はつけられない。
完全に詰みかと思われた時、みことがふとしゃがみこんで草をガサガサと漁り始めた。
火打ち石でも探しているのだろうか。
だが、そんな簡単に火打ち石など見つかるはずもない。
代わりにみことが見つけたのは、、、ピッカピカの新品だと思われるチャッカマンだった。
み「チャッカマンあった!」
他「いやなんで!?!?」
謎すぎる展開だったが、自分たちの運が良すぎたと思い込んで木の棒に火をつける。
やっぱり拾ったチャッカマンは新品だったようで、何の問題もなく火をつけることができた。
草っ原に新品のチャッカマンが落ちていたことは謎だが、これで何とか夜は乗り越えられそうだ。
更に、いるまとこさめが木の根元に生えていたきのこを採ってきてくれていたから、それを焼いて食べた。
暇「食べてから言うのもアレだけど、あのきのこって毒きのこだったりしない?」
他「、、、」
暇72のド正論に、みんなが食べ終わったきのこを辿るようにお腹を見る。
そして、こさめといるまが気まずげに顔を見合せた。
2人は、きのこが毒きのこかどうかの判別をつけることができないのだった。
とりあえず、この何もない大草原に食べるものがあったことが嬉しくて採ってきたものだ。
───空腹に任せて、採ってきたものだ。
こ「まあ、みんな食べてるし、死ぬ時は一緒だよ!!安心して!!」
他「安心できねぇよ!!!!」
その日の夜は、代わる代わる寝たり起きたりして火の番をしながら過ごした。
そして、月が真南に上がってきたくらいの時間に、全員がお腹を壊してあまりの腹痛にその場でもんどり打った。
あのきのこは、やっぱり食べてはダメなきのこだったらしい。
この大草原にはもちろんトイレなんてものはない、、、はずだ。
だが、少し離れたところに、よく工事現場などで見かけるような簡易トイレが3つあり、そこの奪い合いであっち向いてホイをした結果。
こさめ、いるま、みことが見事あっち向いてホイに勝利し、何とか腹痛を免れ。
負けたLAN、暇72、すちは、関西組がトイレに入っている間もいるま発案の『漏れそうフラダンス』をして何とか耐えたらしい。
そもそもなんで大草原にトイレがあったのかは謎だったが、助かったからまあ良しとしよう。
ちなみに、便器もトイレットペーパーもとても綺麗で、比較的快適だった。
ここがどこなのか、どうやってここに来たのかはとりあえず明日にして、その日の夜はそんなふうに過ごした。
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