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リフェアリー
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三日のうち、一日目は、四つの村が、割れた。
峠の小屋に、四つの村の長と、要と、つむぎと、ひかりと、孫と、瑠衣が集まった。諏訪からは、灯。佐久間は、雪で来られなかった。
「入る」隣村の長が、最初に言った。「二割なら、安い。名古屋の御殿が来たら、終わりだ。鍬と鎌では、持たん」
「入らない」ばあさまが言った。「わしの村は、四百年、誰の下にも入らなかった。二割でも、下は下だ」
「灯は」
「ばあちゃんは、『市が決めたことに従う』と言った。でも、諏訪は、御殿の五つ目になるのは、嫌だと思う。諏訪は、知らない相手を信じない。御殿は、知らない相手」
大畑は、黙っていた。
「大畑さん」要が言った。
「……わからん」大畑は言った。「権田の言うことは、わかる。名古屋の御殿は、本当にいるだろう。来たら、村は持たん。権田は、守れる。二割は、安い。だが」
「だが?」
「権田の下に入ったら、この小屋の台帳は、権田の台帳になる。三人が、権田の命令で、同時に書き換える。それを、甲府で見た。四つの村の掟は、権田の掟になる。今は口を出さんと言ってる。だが、権田が死んで、次の権田が口を出さんとは、限らん」
「だから、わからん」
「わからん」
*
二日目、要は、峠の上に、登った。
権田の野営地。百人。トラック五台。米の袋。松明の燃え残り。黒い作業着が、要を止めなかった。権田が、「通せ」と言っていた。
権田は、トラックの荷台に座っていた。
「答えは、まだだろう」権田は言った。
「まだです。今日は、別の話を」
「何だ」
「御殿の三冊を、見せてください」
権田は、少し、眉を上げた。それから、部下に、何か言った。部下が、三冊のノートを持ってきた。大学ノート。要が、商店街で使ったのと、同じ種類だった。
要は、開いた。
三人の、違う字。日付。名前。働いた時間。食った米の量。現金の支払い。要が、一年前、商店街で始めたのと、同じ形だった。もっと、大きく。もっと、整って。
「立派です」要は、正直に言った。
「兄ちゃんの仕組みだ」
「僕の仕組みです。でも、一つ、違う」
「何が」
要は、三冊を、並べた。同じ日付の、同じページを、開いた。
「ここ。十月二十三日。甲府の市の、三十人が、バツになってる。三冊とも、同じ日に、同じ三十人が」
「俺が、命じた」
「三冊とも、同じ字の癖で、『バツ』と書いてある。三人の字なのに、バツの形が、同じです。三人が、一人の手本を見て、書いた」
権田は、何も言わなかった。
「御殿の三冊は、三人の目じゃない。一人の目を、三人が、写してる。三冊に見えて、一冊です」
「……それで、何が困る」
「権田さんが、間違えたとき」要は言った。「一人の目は、間違える。僕も、間違える。三人の目なら、一人が間違えても、二人が止める。御殿の三冊は、権田さんが間違えたら、三冊とも、間違える。止める人が、いない」
「俺は、間違えん」
「間違えます。人だから」
権田は、荷台から、下りた。要の前に立った。要より、背は低かった。でも、立ち方で分かる種類の人間だった。周りの誰よりも、動いていない。
「兄ちゃん。俺は、三千人を食わせてる。間違えたら、三千人が飢える。だから、間違えん。間違えんように、毎日、三千人の顔を見てる。お前の『三人の目』より、俺の一つの目の方が、必死だ」
要は、権田の目を見た。
本当だった。権田の目は、必死だった。三千人の顔を、毎日見ている目だった。要が、七年間、画面を見ていた目とは、違った。
「……権田さんの目は、必死です」要は言った。「でも、権田さんが、倒れたら」
「三冊が残る」
「三冊は、権田さんの目の写しです。権田さんが倒れたら、写しだけが残る。写しは、新しい判断をしない。次の権田が、写しを、書き換える」
権田は、長い間、黙っていた。
「……お前は、俺が死んだ後の話ばかりする」
「はい。侵入される前提です。権田さんが倒れるのも、侵入です」
権田は、笑った。笑って、荷台に戻った。
「明日、答えを持ってこい。入るか、入らないか。それだけだ。俺の目の話は、要らん」
*
三日目の朝、要は、答えを持っていなかった。
四つの村は、割れたままだった。隣村は、入る。下流は、入らない。諏訪は、たぶん、入らない。木曽は、わからない。
市の掟の、九条。『二つの市に二つの証があるなら、比率は両方で決めよ。五人で数え、真ん中を取れ』。真ん中は、数字なら、取れる。入るか入らないかに、真ん中はない。
要は、峠の小屋で、壁の十二条を見ていた。
つむぎが、隣に来た。
「要さん。昨日、権田さんの顔、見た」
「どうだった」
「一年前と、変わってない。必死な顔。三千人の顔。でも、一つ、増えてた」
「何が」
「怖い顔」つむぎは言った。「冬が怖い人の顔と、同じ。権田さんは、名古屋の御殿が、怖い。だから、百人を連れて、ここに来た。四つの村を、御殿の壁にするために」
要は、つむぎを見た。
「壁」
「権田さんは、守ると言った。でも、たぶん、守られたいのも、権田さん。四つの村が御殿に入れば、名古屋の御殿は、ここで止まる。東京まで、来ない。木曽が、東京の、壁になる」
要は、動けなくなった。
権田は、怖かった。三千人の顔を、毎日見ている人間は、三千人が飢えることが、怖い。名古屋の御殿が、怖い。怖いから、速い棒で、壁を作る。
一年前、商店街で、冬が怖い人間が、台帳に線を足した。証を貯め込んだ。権田は、御殿を貯め込んでいる。
「……答えが、わかった」要は言った。
「何」
「入らない。でも、断らない」
「どういうこと」
「権田さんが怖いものを、僕らが、減らす。壁にはならない。でも、権田さんが、壁を要らなくなる形を、作る」
つむぎは、首をひねった。
「できるの?」
「わからない。でも、三日目だ。やるしかない」
要は、ノートを閉じて、峠に向かった。
後ろで、瑠衣が、三冊目の台帳の最後のページに、何かを書いていた。要は、気づかなかった。
コメント
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うわあああ第48話…!!!めっちゃ重いけどめっちゃ好きな回きた…😭💕 「三冊に見えて一冊」の指摘、めちゃくちゃ鋭いし、権田の「俺は間違えん。間違えられん」って必死さが胸に刺さる…。でもつむぎの「権田さんも怖い顔してた」で、守る側も守られたい側なんだって気づかされるの、エモすぎる…。 要の「入らない。でも断らない」、この柔軟な答えかっこよすぎん???壁にならずに壁を要らなくするって、まさに要のスタイルだよね…。 あと最後の瑠衣の行動、絶対フラグだこれ…!次回が気になりすぎて夜しか眠れない…!😭✨