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廊下
二人の気配が消えたあと、阿部が立ち止まった。
阿ー…
阿ー館さん
振り返らずに呼ぶ。
ばれていたのか、そんなことを思いながら物陰から宮舘が姿を現した。
阿ーさっきの話
短く、要点だけ。
阿ー……どっから聞いてた?
宮舘は、即座には答えなかった。
だが迷っているわけでもない。
聞いていた。
核心まで。
宮ー途中。
低く、端的な返事。
阿部はゆっくり振り向く。
阿ー途中って、どこ?
淡々とした声。
感情を挟む余地はない。
宮舘は視線を逸らす。
宮ー…
宮ー…名前が、出たあと
それだけで、十分だった。
阿部は一瞬考えてから、頷く。
阿ーそっか
阿ーじゃあ、めめが誰を好きかってところまでってことだよね
確認するようで、決めつけない言い方。
宮舘は否定しなかった。
阿部はそれ以上聞かない。
阿ーわかった。
短く言って、話を終わらせる。
阿ー舘様が聞いた分、外に出さなきゃいいから
それだけ言って、背を向ける。
宮ーめめの気持ちは、めめのものだから
阿部の声は、どこまでも冷静だった。
宮舘はその背中を見送りながら、
自分の胸に残る感覚から目を逸らす。
“誰を好きか”。
その名前が出た瞬間、
無意識に耳を澄ませていたこと。
ただの好奇心じゃなかったこと。
阿部は気づかない。
宮舘が、翔太の名前だけを
必要以上に、心の奥に残していることを。
宮舘は静かに息を吐く。
それが特別な感情だと、
まだ認めるつもりはなかった。
阿部が去ったあとの廊下は、妙に静かだった。
宮舘は、壁にもたれたまま目を閉じていた。
渡ーなにやってんの?
声をかけられて、目を開ける。
紙コップを持った渡辺がそこにいた。
それだけで、胸の奥がわずかに揺れる。
渡ーつかれたの?笑
宮ー……うん
短い返事。
渡ー俺も。だからちょっと息抜き
渡辺は隣に立つでもなく、少し距離を保ったまま止まる。
その距離が、昔よりほんの少し遠いことに、宮舘は気づかない。
渡ー舘さん、最近……
言いかけて、渡辺は口を閉じる。
聞きたいことはある。
でも、聞く資格があるのか分からない。
宮ーどうしたの
促す声は、いつも通り。
渡辺は首を振った。
渡ーいや、やっぱなんでもない
それが一番苦しい答えだと、宮舘は知らない。
沈黙。
それでも互いに気まずくなさそうな様子なのはやはり長い時間を共にしているからだろう。
渡ー俺、戻るわ
渡辺が先に動く。
すれ違う、その瞬間。
宮舘は、思わず口を開いた。
宮ー……翔太
名前だけ。
渡辺の足が止まる。
渡ーなに?
振り返るその目に、疑問そしてもう一つの色が混じる。
宮舘は一瞬、言葉を探す。
なぜ呼び止めたのかが、自分でも分からない。
宮ー……ちゃんと休みな
それだけ。
渡辺は、少しだけ笑った。
渡ー舘さんも
それ以上は、何も言わない。
宮舘はその場に残ったまま、
呼んでしまった名前を、何度も心の中でなぞる。
休憩中で、
気が緩んでいただけだと、言い聞かせる。
それでも、
“誰にでも向ける視線じゃなかった”ことだけは、
否定できなかった。
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