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自分でも取り乱したことに気づいたのか、だいきさんは座り込んで胸を押さえている。どうしよう。僕のせいで、初めて喧嘩みたいになってしまった。
相手が優しすぎて、喧嘩にすらならない喧嘩。……こんなに苦しいこと、他にない。
「……ごめん。俺、自分勝手だよな。自分がしたいことを、しゅうとも喜ぶって決めつけて。……反応見て、空回りしてるのは分かってたんだ。必死で取り戻そうとしてまた空回りして……。こんな意味わかんない奴と一緒にいて、楽しいわけないよな。いい大人なのに、取り乱してごめん。……キモくてごめん」
そんな顔が見たいわけじゃない。
僕はただ、だいきさんと笑って一緒にいたかっただけなのに。僕の夢なんて、本当はどうでもいいことだったのに。
「……じゃあ、別れますか?」
「それだけは絶対やだ!!」
「僕だって、こんなしょうもない別れ方お断りです。だいきさんは誰よりも僕を愛してくれてるのに、それを当たり前に受け取って、横柄な態度をとった僕も悪いです。ごめんなさい」
「しゅうちゃんは、なんっっにも悪くない! 悪いのは全部俺なの。恋愛をサボってきた俺が全部悪いの!」
「……じゃあ、別れますか?」
「それだけは絶対やだ!」
「何回やるんですか、このくだり」
ふふっ、とだいきさんの小さな笑い声が聞こえて、ようやく心から安心した。
僕だってだいきさんと同じ。恋愛が怖くて逃げてきて、たまに間違った態度をとってしまうこともある。
結局、初心者同士の恋やから。ぶつかり合ってなんぼのもんやろ。
「じゃあ、映画行きますか? だいきさん、この映画が告知された時からずっと楽しみにしてたんでしょ?」
「え、なんで知ってるの!? しゅうとに言ってなかったよね?」
「それくらい知ってますよ。何ヶ月恋人やってると思ってるんですか。それに……いつきくんを誘って、断られたのも知ってますよ?」
「いや、それはいつきくんも好きそうだなって思って! 決して浮気心とかじゃないからね!?」
あからさまに焦り倒している。分かってるよ、そんなこと。
僕が絶対に興味なさそうな「時代劇もの」だったから、気を使ったんでしょ?
「……はいはい」
「絶対疑ってるじゃん! 俺さ、めちゃくちゃ和服が好きなの。浴衣とか着物とか、質感とか色の組み合わせとかさ。なんかこう……色々と興奮するんだよね」
「あー……だから正月、着物着てたんや。それに、スマホのホーム画面、着物の『カレンちゃん』ですもんね?」
「そう、正月の……って、え? なんでホーム画面の写真、知ってるの……?」
だいきさんの顔色が、一気に青ざめた。
そんなもん、りゅうせいくんに聞いたに決まってるやろ。
「好きな人の全部を知っておきたいのは、当たり前のことです」
「……俺の周り、しゅうとの『通報部隊』になってんじゃん」
わざとらしく悔しそうな顔をして、可愛くこっちを睨んでくる。
萩原なちち
大人のだいきさんが、時々悪ガキの顔をするのが愛おしくてたまらない。
「だいきさんは、僕のこと知りたいと思うこと、ないんですか?」
「……知るのが怖い、っていうのもあるかな」
「ふふっ、確かに。僕、秘密だらけでしたもんね」
隠し事だらけだった僕を丸ごと受け止めてくれたこの人のこと、本当に大切にしなきゃな。
喧嘩するって、大切なことなんだ。気持ちを初心に戻して、今ここにある奇跡を「当たり前」だと思っちゃいけない。
「……嘘。本当はね、焦らなくてもこれからもずっと一緒にいるつもりだったから。ゆっくり知っていければいいなって思ってたんだ」
「なにそれ、プロポーズみたいやん」
「ん~、そう聞こえた?」
少し照れくさそうに、でも優しく笑うだいきさん。
僕と付き合ってからの彼は、以前の棘が抜けて、本当に柔らかくなった。
それなのに急に子供みたいに甘えてきたり、お父さんみたいに僕のお世話しだしたり。コロコロ表情が変わるから、見ていて飽きない。
「あ~! 映画なんていつぶりやろう。めっちゃ楽しみ!」
「本当? じゃあ、最初からしゅうとのこと誘えばよかったな」
気恥ずかしくなって、急いで話題を切り替える。
冗談で「プロポーズ」なんて言ったものの、向こうにその気がなかったら、勘違いも甚だしい。
まだ付き合って半年。焦って結論を出す時期でもないしな。
「……僕は、だいきさんに対してビビりすぎていたのかもしれません。素直に言えばすぐに解決できることも、『なんか違う』って胸の中に収めて、自分だけで消化しようとして……。何でも言えてしまうだいきさんに憧れていたのに、結局、僕は何も変われてない。僕がそんな風だから、だいきさんもどこかで気を遣ってしまうのかも」
「……俺は今、しゅうとが可愛くて仕方ないよ。だから、無理に性格なんて変えなくていい。俺だって先走っちゃうこともあるし、間違うこともある。だって、付き合ってまだ半年だよ?」
だいきさんが、僕の瞳をじっと見つめて続ける。
「家族だって喧嘩するのに、そんな短期間で完璧に分かり合えているように見えるなら、それは絶対にどっちかが犠牲になってるんだよ。これからもさ、こうやって、仲良く喧嘩しながら一緒にいられる努力をしていこうよ」
「……トムとジェリーですか?」
「そう。小さい頃、よく見てたんだ」
ふふっ、と二人で笑い合う。
今の僕たちには、離れるという選択肢は一生来ない気がする。
「あ、さっき怒らせたお詫びに、しゅうとのお願い事、何でも聞くよ?」