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女装男子は恋したい 番外編
クリスマスマーケット。
赤い屋台に、金色のライト。
甘いホットワインの匂いと、焼き菓子の香り。
「人すご……」
思わず小さく呟く。
今日はウィッグもメイクも完璧。
“谷岸ありさ”としてのデート。
隣には、佐野勇斗。
笑ってる。
楽しそうに。
「迷子になったらちゃんと捕まえてね?」
冗談っぽく言う。
「任せて」
軽く返す勇斗。
その余裕が好き。
でも、人の波が予想以上に強い。
後ろから押される。
横から割り込まれる。
「あ、ごめ——」
一瞬、手が離れる。
え。
視界が人で埋まる。
赤いマフラーの背中が見えなくなる。
心臓が一気に冷える。
(やだ)
(いなくならないで)
人の流れに押される。
声を出そうとしても、音楽にかき消される。
「勇斗く——」
その瞬間。
ぐっと、腕を引かれる。
体がふわっと後ろに引き寄せられる。
「危な」
低い声。
気づいたら、背中が誰かの胸にぶつかってる。
腕が腰に回ってる。
しっかり、抱き寄せられてる。
「離れすぎ」
少しだけ怒った声。
でも、ほっとしてるのがわかる。
心臓、うるさい。
近い。
距離が、近すぎる。
「……ごめん」
小さく言う。
人混みの真ん中。
なのに、守られてる感覚。
勇斗が少しだけ顔を近づける。
「迷子にするわけないでしょ」
低い声が耳にかかる。
ぞくっとする。
「でもさ」
腕の力が少し強くなる。
「いなくなったと思って焦った」
え。
「俺が」
さらっと言うけど、本音。
胸がぎゅっとする。
「勇斗くんでも焦るんだ」
「当たり前」
即答。
「好きな子いなくなったら焦るに決まってる」
その言葉に、息が止まる。
“好きな子”。
今は、女の子のふり。
それでも嬉しい。
でもちょっと痛い。
勇斗はまだ腕を離さない。
人混みが落ち着くまで、そのまま。
「……心臓うるさい」
ぼそっと言われる。
「え」
「聞こえる」
嘘でしょ。
顔が熱い。
勇斗が少し笑う。
「可愛い」
そのまま、自然に手を握られる。
さっきより強く。
「もう離さない」
冗談っぽく言うけど、半分本気。
クリスマスのライトが二人を照らす。
まだバレてない。
まだ“ありさ”。
でも。
この温度は、本物。
マーケットの奥に、小さな観覧車。
イルミネーションの光をまとって、ゆっくり回ってる。
「乗る?」
勇斗が指差す。
「え、子どもっぽくない?」
「クリスマスだし、あり」
笑う横顔がずるい。
結局、並ぶ。
ゴンドラに乗り込むと、ドアが閉まる。
カチャン。
外の音が一気に遠くなる。
思ったより狭い。
向かい合わせに座る距離。
近い。
膝が触れそう。
動き出す。
ゆっくり上昇。
沈黙。
さっきまで人混みで騒がしかったのに、急に静か。
「……なんか緊張する」
正直に言う。
「俺も」
え。
「嘘」
「ほんと」
勇斗が少しだけ笑う。
「二人きりって、案外レアでしょ」
確かに。
カフェも映画館も、人はいた。
完全な密室は初めて。
視線が合う。
逸らす。
また合う。
「さっきさ」
勇斗が言う。
「いなくなったと思った瞬間、ちょっと本気で焦った」
胸がきゅっとする。
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃない」
真顔。
「好きな子見失うの、普通に怖い」
“好きな子”。
嬉しい。
でも、痛い。
ゴンドラが少し揺れる。
思わず手すりを掴む。
その上から、手が重なる。
「大丈夫」
低い声。
指が絡む。
恋人繋ぎ。
密室で。
心臓、爆発しそう。
「手、冷たい」
勇斗が言う。
「緊張してるから」
正直に言ってしまう。
勇斗が少しだけ距離を詰める。
向かい合わせから、隣へ。
座り直す。
近い。
肩が触れる。
「今、俺しかいないよ」
小さく囁く。
「他の人、見てない」
外は光。
でも中は二人だけ。
「ありさちゃん」
名前を呼ばれる。
その響きが、少し切ない。
「なに」
「俺さ」
少しだけ間。
「たぶん、レンタルとか関係なくなってきてる」
心臓が跳ねる。
「え」
「仕事だから優しくしてるとか、そういうのじゃなくて」
目が真剣。
「普通に、会いたい」
息が止まる。
嬉しい。
でも。
嘘をついてるままの自分が、刺さる。
勇斗がそっと、頬に触れる。
メイク越し。
優しく。
「顔、赤い」
「観覧車のせい」
「俺のせいじゃない?」
意地悪く笑う。
ゴンドラが頂上に近づく。
一番高い場所。
夜景が広がる。
「ここでさ」
勇斗が低く言う。
「キスすると、ずっと続くらしいよ」
冗談っぽい。
でも目は本気半分。
すこしずつ息が浅くなる。
勇斗が少し身を乗り出す。
冗談っぽい。
でも距離が近い。
近すぎる。
心臓がうるさい。
顔が熱い。
「……そういうの信じるタイプ?」
なんとか返す。
でも声が震えてる。
勇斗が笑う。
「今は信じてもいいかなって」
さらに近づく。
目が合う。
外はきらきらの夜景。
頂上。
一番高い場所。
静か。
勇斗の手が、そっと頬に触れる。
優しい。
逃げる隙はある。
でも動けない。
唇が、ゆっくり近づく。
あと少し。
あと、数センチ。
その瞬間——
ガタンッ。
ゴンドラが風で揺れる。
「きゃっ」
思わず体が前に倒れる。
反射で、勇斗の胸に抱きつく。
ぎゅっ。
しがみつくみたいに。
勇斗も咄嗟に抱き止める。
腕が、背中に回る。
強く。
でも守る力。
「大丈夫?」
低い声が真上から落ちる。
顔、めちゃくちゃ近い。
鼻先が触れそう。
「び、びっくりしただけ……」
でも腕は離せない。
揺れはすぐ収まる。
なのに。
そのまま。
密着。
勇斗の鼓動が聞こえる。
速い。
自分と同じくらい。
「……今のは」
少し掠れた声。
「雰囲気ぶち壊し?」
少し笑う。
でも腕は緩めない。
「助かった」
正直に言ってしまう。
キス、怖かった。
嬉しいけど。
まだ、バレてない。
嘘のまま。
勇斗が少しだけ距離をとる。
でも手は背中に残ったまま。
「逃げた?」
図星。
「……揺れたから」
「俺は揺れてないけど」
ずるい。
でも怒ってない。
むしろ優しい。
「今はいいよ」
ぽつり。
「無理させたくないし」
その言葉が胸に刺さる。
こんなに大事にされてるのに。
隠してる自分が、苦しい。
ゴンドラがゆっくり下降し始める。
勇斗が最後に小さく言う。
「でもさ」
目が真剣。
「いつかちゃんと、逃げずにしてほしい」
心臓が跳ねる。
「俺と」
夜景が遠ざかる。
ドアが近づく。
まだバレてない。
でも距離は確実に近い。
コメント
1件
書き方うまなくないですか⁉️すっごい好みな書き方です💗