若かりし頃につけられた通り名、都一のモテ男も、今は、都一の色男へと、変わってしまった守近であったが、齢、四十過ぎとあっても、清々《すがすが》しさは、長身の若者──、常春《つねはる》に負けず劣らず。その笑みを受けた女人は、皆、虜になるのであった。
もちろん、正妻、徳子《なりこ》を頼むと声をかけられた、女房達も例外ではない。
仕える主と分かっていても、絵巻物の貴公子でも見るように、羨望の眼差しを送り、あわよくばと、夢心地に落ちいっている。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
女房達は、謡うように守近に声を掛けると、熱い視線を投げ掛けた。
はあ、と、上野は息をつく。
これが、今や、守近が屋敷の朝の慣わしになっていた。
上野の兄、常春は、守近のたっての願いで出仕時、守近の牛車《くるま》に同乗していた。
一人では退屈だと、それだけの理由で、常春は付き合わされているのだが、大学寮で博士《きょうじゅ》を目指し、学問を極めている身の上で、牛車を利用するというのは、なかなか、厳しいものがある。
同期達に、やっかみを受け、嫌みな攻撃を受けるのだ。
それは、妹の上野も同じくで、こうして、ため息などつくほど、これから起こる事を思うと、頭が痛かった。
「上野様~」
ほら来た。
「はい?なんでしょう」
と、上野は、頬をひきつらせながら、口角を上げた。
どう見ても、微笑んでなどいない面持ちだが、そこは、何もしないよりはましかもしれないと、上野なりに、気を使っていた。
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