テラーノベル
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不意に操作ミスをして、画面に「GAME OVER」の文字が虚しく浮かんだ。
僕はコントローラーを置いた。
なんだか、どうしても集中できない。
お腹が空いたわけではないけれど、何かに縋りたくて冷蔵庫を開ける。
そこには言われた通り、ラップのかかった焼き飯が恭しく置いてあった。
いつも通り、きちんと一人分。
その横には、卿の筆跡で書かれたメモがあった。
―― 温めすぎ注意。コーラも補充しといたけど、飲みすぎたらダメだよ。
整った文字を見つめていると、思わず口元が緩んだ。
(ほんと、よく見てるなあ……)
電子レンジに入れ、回転する皿をぼんやりと眺める間、視線は吸い寄せられるように玄関の方へ向く。
ドアは堅く閉ざされている。
鍵がかかっているかどうかは、確認しなくても分かっていた。
前に一度、溜まったゴミを出そうとしてドアを開けようとしたら、内側からチェーンが外れなくて……
「ここまでする?」と聞いたことがある。
でもその時も、卿は困ったような、酷く悲しそうな顔で笑って
「ごめん、癖でさ。危ないから」
そう言って、すぐに直してくれた。
けれど、結局それからも鍵やチェーンが「癖」で固く閉ざされる日々は変わらなかった。
(……危ない、かぁ)
チン、と乾いた音が鳴る。
焼き飯をテーブルに置いて、ひと口食べる。
香ばしい醤油の香りと、僕の好みに合わせた味付け。
美味しい。間違いなく、愛されている味がする。
ふとスマホを見ても、通知は何もない。
連絡するほどの用事もないし、仕事中の彼を邪魔する勇気もなかった。
それに──
(……我慢しないと、卿の邪魔になっちゃう)
胸の奥が、きゅっと音を立てて縮む。
かつて、両親と弟たちが僕を置いて消えてしまったあの日。
あの冷たい静寂が頭をよぎり、僕は慌てて首を振った。
大丈夫。今は違う。
卿は「帰ってくる」と言った。
この2年間、彼は一度だって僕を裏切り、帰ってこなかったことはないのだから。
◆◇◆◇
食べ終わって、丁寧に食器を洗って、再びソファに戻る。
ゲームを再開しようとしたその時、鋭い音が静寂を切り裂いた。
ピンポーン。
心臓が跳ねる。
(……宅配?)
一瞬、反射的に立ち上がりかけて、すぐに卿の言葉を思い出す。
───誰か来ても開けなくていい。
───外には出ちゃダメ。
僕は立ち止まったまま、壁に設置されたインターホンのモニターを見つめる。
もう一度、鳴る。
ピンポーン。
(卿が受け取るって言ってたし……。僕は、いい子にしてなきゃ)
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