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ガチャリとドアが開く音がして、大我が顔を見せた。
スパイとしてターゲットの尾行をしてきたところだ。
「どうだった?」
高地が聞くと、何やら薄ら笑いを浮かべる。
「楽勝。マジでゆるゆる。歩きスマホなんかやってて全然周りを警戒してる様子もないし、道の人通りも多くない」
「じゃあもう一瞬で終わりそうだね。俺が一刺ししちゃえば」
「うん。北斗に伝えてくるわ」
と言って部屋の中に消えた。
大我の仕事は北斗がいないとできないし、実行するのも計画あってこそだ。
そのあと、リビングで6人揃って真剣な顔を突き合わせていた。北斗がパソコンで作った計画を話している。
「楽に通り魔的にやるって感じ。奴の弱みを握ってるってわかったら怯むと思うから、怖がったところで慎太郎がグサッ」
仕草もつけて説明する。
「……俺の出番は?」
やはり樹は物足りなさそうな顔だ。
「お前は見守りと脅かし係」
一応安全のため、現場に出るときは2人以上で行くことになっている。北斗の言葉に、渋々うなずいた。
『ターゲットの家の近くに着いたよ』
グループラインにそう送ると、大我から返信がある。
『服装はグレーに薄いストライプのスーツ。鞄は茶色の革で、靴も同じ感じ。髪は黒で短髪』
と事細かに特徴が記載されている。今朝出勤するターゲットを大我が見てきたのだ。
「慎太郎、ナイフの準備いい?」
ポケットからナイフを少し見せる。
「大丈夫」
夜闇の中、街灯が反射して刃がぎらりと光った。
樹もジャケットの懐に入れた銃、それから“袋”を確認した。
そして辺りを見回し、防犯カメラがないことも再確認する。大我が防犯カメラの死角になる場所を見つけて、指定してくれていた。
と、「あ、あれじゃね?」
慎太郎が指で示したほうには、ターゲットと思しき人物が歩いてくるところだった。
うつむいていて顔は見えない。すぐさま樹が暗視スコープをポケットから取り出し、かざす。
「…だな」
顔を見合わせると、ゆっくりと歩き出した。近くまで来ると、その服装は大我に伝えられたものと同じだった。
通り過ぎざま、樹が声を掛ける。「すいません」
驚くように顔を上げる。
「タチバナさんですよね」
普段よりずいぶんと低い、地を這うような声だった。だがそれは、仕事のときの慎太郎の声。
「え、はい、そうですけど…」
おどおどした様子で答える。黒ずくめの2人にすっかり怯えているようだ。
「俺ら、今日コレを持ってるんです。必要なんですよね?」
小さな袋をちらつかせると、男の表情がさっと変わった。一気に血の気が引く。慌てて周りを見回すと、声を潜めて、「今回の担当はいつもの人じゃないんですか」
「まあ、そうですね」
慎太郎がニヤリと笑うと、一瞬にしてポケットからナイフを出し、そのまま男の胸に突き刺した。と同時に、2人は返り血を浴びないよう即座に避ける。
男は後ろ向きに倒れていった。ピクリとも動かない。
息が絶えたことを認識すると、
「さようなら~」なんて飄々と言って2人はその場を去る。
「簡単だったね」
「うん。何より薬物が有効だった」
「まさかやってたとはね。いい口実になったわ。やっぱ、北斗のリサーチ力すげーな」
「っていうかホントの袋の中身って何なの?」
「塩」
先ほどの袋を取り出し、人差し指を突っ込んでぺろりと舐めてみる。
「…しょっぱ!」
「だろうな笑」
一仕事終えた2人は、爽快な笑みで夜の路地を闊歩していた。
続く