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えれめんたる
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「……はは、そうか。そういうことか」
乾いた笑いが漏れた。
俺がシロを投げ捨て、拓也を社会的に殺し、老人のチケットを奪ったとき。
その裏で、誰かが俺と同じように、画面の向こうで快哉を叫んでいたのだ。
この交差点にいる全員が、誰かの不幸を喰らい
自分の幸福を切り売りしている共食いの怪物だった。
背後に立つ男のスマホから、俺の耳にも届くほどの通知音が鳴る。
───キィィィィィィィィッ!
猛スピードで交差点に突っ込んでくる大型トラックの急ブレーキの音。
俺の足元、アスファルトに映る信号機の色が、鮮やかな青に変わった。
『ルート確定。障害物を排除します』
スマホが冷たく、しかしどこか祝福するようなトーンで告げた。
背後の男の手が、俺の背中に触れる。
躊躇いはない。彼はただ、自分の「高額当選」という幸福を手に入れるために
目の前の「障害物」をどかそうとしているだけだ。
ドン、と強い衝撃。
体が宙に浮く。
スローモーションのように、視界が回転した。
アスファルトに叩きつけられる直前
俺の目に飛び込んできたのは、歩道の群衆の中に立つ一人の女だった。
「……ナズナ?」
ボロボロの格好をしたナズナが、うつろな目でスマホを見つめていた。
彼女の画面には、俺が拓也を陥れた証拠映像と
シロを投げ捨てた瞬間のドラレコ映像が流れているのが見えた。
彼女は俺と目が合うと、恐怖でも怒りでもなく
ただ「無」の表情で、画面上のボタンをタップした。
『報酬:保険金の受領ルートを確定しました』
彼女も、このアプリに取り込まれたのか。
俺を「排除」することで、彼女は失った生活を取り戻す。
それが、彼女にとっての最短の救済。
視界が真っ赤に染まっていく。
激痛すらも、遠くの出来事のように感じられた。
耳元で、スマホのスピーカーが最後のアナウンスを流している。
『おめでとうございます!あなたの全財産、社会的信用、そして生命を代償に、周囲の5名のユーザーが「至福」に到達しました』
『これこそが、あなたにとっての「最短の救済」です。お疲れ様でした』
画面には、美しく、穏やかな青空の画像が広がった。
俺がこれまでの人生で一度も見たことがないほど、澄み渡った青。
「……っ」
意識が途切れる瞬間、俺は自分のスマホを握りつぶそうとした。
だが、力が入らない指先が触れた画面には、新しい通知がポップアップしていた。
『新規ユーザー登録完了:ナズナ、目的地───次の幸福へ』
俺の血で汚れたスマホ画面の中で
ルートQのアイコンが、次の獲物を探すように楽しげに光っていた。