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夜。
冷蔵庫の前で、俺は立ち止まっていた。
喉が渇いた。
でも、取っていいか分からない。
「……こさね」
後ろからこさめの声。
「今の迷い、嘘じゃない」
振り向く。
こさめはいつも通り、淡々としている。
「飲みたいって思ってる。
怒られるって思ってる。
両方、本当」
少し間を置いて、
「でもね」
こさめは冷蔵庫を指さす。
「怒られる未来、こさには見えない」
俺はゆっくり扉を開けた。
水を取る。
手が、震えない。
「……ありがとう」
こさめは首を傾げる。
「こさ、本当のこと言っただけ」
嘘が一つもない夜。
俺は安心して水を飲んだ。
夕暮れ。
六人は同じ部屋にいた。
誰も、話していない。
テレビは消えていて、窓は少しだけ開いている。
風がカーテンを揺らす。
いるまはソファの端に座っている。
LANは床に座って、壁にもたれている。
すちは本を閉じたまま、膝の上に置いている。
みことは窓の外を見ている。
こさめは時計を見ていた。
俺はその真ん中にいた。
誰も中心に集めていない。
でも、結果的に。
沈黙は重くなかった。
音がいくつかある。
呼吸。
衣擦れ。
遠くの車。
妖怪が天井を歩く。
誰も気にしない。
思う。
――黙っていても、追い出されない。
――何もしなくても、ここにいていい。
その感覚がじわじわと広がる。
誰かが立ち上がる。
でも、理由を言わない。
誰かが、座り直す。
でも、説明しない。
沈黙は続く。
それは、緊張じゃない。
共有だ。
俺は膝の上に手を置く。
力を入れない。
――この時間、好きかもしれない。
そう思って、怖くならなかった。
それが一番の変化だった。