テラーノベル
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「俺ら、学校バックれ仲間だなw」
鶴にそう言われて、嬉しかった。私は仲間というものが嫌いなのに。
「学校、どうだった?」
「…やっぱり私は、ダメでした」
学校に着いて、教室に入り、荷物を置いた。そしてたくさんの人に話しかけられた。興味の視線ばかりが私に向いて、気持ち悪かった。まるで…。
「まるで、お母さんとお父さんのお葬式の時みたいで」
言ってしまった。言ったあとに後悔した。こんなの絶対に、鶴を困らせてしまう。どうにかして取り繕わなければ。空気を、明るくしなければ。
「それで、始業式には?」
「…出ました」
予想外の質問だったけれど、条件反射で答えた。鶴はその後何も言わず、ただ私の続きの言葉を待っているように思えた。
だから、応えた。
「転入生の紹介をされて、その時も少し、ざわついて、耐えて耐えてでももう限界でッ」
逃げた。教室に戻る途中、トイレに行くと嘘をついて学校から出た。誰にも気づかれてはいない。けどいずれ気づかれる。
「俺は、元々学校がめんどくてさ」
何も言っていないのに、鶴は自分の話をし始めた。
「出席日数も必要最低限。今日は出ないと良祐に色々言われるから行った。んで、隙を見て逃げてきた」
八重歯をちらっと見せながら笑った。その顔はとても、少年の顔そのものだった。
「逃げてきたっていうのは、学校から?それとも…良祐から?」
「…ブハッw」
「えっ、なんで笑って…」
どうやら何かがツボに入ったらしく、説明もせず鶴は笑い続けた。
「あー、笑った笑った。いやー、どっちから逃げてきたんだろうなw」
よくわかんねぇや、と言いながら笑って出た涙を拭っていた。そして上を向いたので、私も何となく上を向いてみた。
「キレイだな」
「きれいですね」
キレイと言うには雲が多いので、少しぎこちなくなってしまった。だけれども、晴れ晴れとした気持ちだった。私の空はきっと、雲がないのだろう。
「この後は、どうする?」
鶴に聞かれた。私も鶴がこの後どうするか気になった。
「絵里に話します。事情を言えばきっと、彼女はわかってくれますから」
「うん。俺もそう思う」
「鶴はどうするの?」
サボったあとはどうするのか。あまり考えたことがないけれど、予想した答えは簡単には出ない。
「バイト行く。金稼ぎたいし」
なんでそんなにお金稼ぐの、と聞こうとしてやめた。きっと、彼は聞き飽きただろうから。
「海良ちゃん!」
学校に戻り、玄関で絵里に迎えに来てもらった。そこには私のクラスの担任もいた。
「絵里…」
「バカ!もし事故に遭ってたらどうするの!?攫われてたかもしれないんだよ!!」
「…うん」
私は言えなかった。「ごめんなさい」を。
事故に遭っても、攫われても、どちらでもきっと私は死ねるから。
担任は私が絵里に話した事を中島さんに連絡して、今日は先に帰らせてもらった。教室に戻るのがつらいと伝えると、荷物を持ってきてくれた。とても親身な先生だと思う。若くて、優しい顔をした先生だった。
「ただいまー」
「おかえり。話は飯野先生から聞いてるわ」
「迷惑かけました…」
「荷物を置いたら、海良さんは職員室に来てくれる?」
そう言った中島さんの声は、怒っているわけでもなく、呆れているわけでもなさそうだった。ただ、連絡を済ませる先生のように淡々としていた。
「失礼します」
「こんにちは。カウンセラーの不破です。覚えてるかな?」
「はい。お久しぶりです…」
何となくわかっていた。こうなること。
「学校に行けたんだね。どうだった?」
どうだった、と言われても本音を言えるわけじゃない。そんなことも分からないのか。
「少し、初日で失敗してしまいました」
「失敗?」
「…逃げ出して、しまって」
自分で自分のした事を改めて話すとどうしようもない羞恥心が襲いかかってきた。この場からも逃げ出したくて、消えたくて、せめてもの思いで身を小さくする。
「失敗じゃないよ。ちゃんと自分のSOSに気づけたんだね」
「え…?」
「良かった、抱え込まなくて。ちゃんと嫌だって表現できて。先生はすっごく嬉しいよ」
その時、ふと思い出した。朝のテレビニュースで生徒が学校のベランダからみを投げ出し、死亡した事を。
そうだ。世の中には逃げることもできず、永遠の楽を手にしようとした者が、手に入れた者がたくさんいるのだ。それでも、私は…。
「あ、鶴…」
「怒られた?w」
カウンセラーと話終わり、部屋に戻ると鶴が帰っていた。寝転んでスマホゲームをしているみたいだった。
「いや、絵里には怒られたけど…中島さんからは特に何も」
「へー。意外」
何か、気持ちが落ち着かない。
ゴロゴロして、気持ち悪くて…すごく嫌だ。
「海良ちゃん…」
「絵里」
「ごめんね、さっきあんなに怒鳴って。私、海良ちゃんに何あったらどうしようって…」
あぁ、そうか。そうだった。
まだ、私は謝ってない。反省してない。反省しないといけないという理性と、みんなの意見に賛成できないという本性が喧嘩しあっているのだ。
「絵里、私はきっと…死にたかったんだと思う。実際、今もお母さんたちを追いかけたくて必死」
「海良ちゃん…?」
「でも、生きる。ちゃんと生きようって思えた時、絵里に謝る。嘘の謝罪だけはしたくないから」
急にこんなことを言い出す私を見て絵里はびっくりしていた。当たり前だ。
でも、絵里は少し考えるようにして、私を見つめた。
「わかった。待ってる」
生きる。私はちゃんと生きようと思おう。
#おっさん
シュメール
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コメント
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読ませていただきました。第3話、とても心に響きました。 特に「まるで、お母さんとお父さんのお葬式の時みたいで」という台詞と、その後に鶴さんが自分の話を始めてくれる優しさにぐっときました。自分を責めずに「SOSに気づけたね」と言ってくれるカウンセラーの言葉にも救われますね。 海良ちゃんが「生きる」と口にした一歩、それがとても尊く感じられました。続きが気になります。