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「嘘、だろ…?」
渡辺は、呆然と遠くを眺めていた。
佐久間が、宮舘の能力を使っていた?
いや、それは分かる。
佐久間の能力は変身だ。
能力のコピーなど容易いことだろう。
それ以上に…
「なんや、あの力…?」
向井も、渡辺と同じように呆然と、佐久間の向かった方向を見る。
佐久間に、あれほどまでの力があるわけない。
それに、佐久間が男を飛ばした能力…
あれは、誰の能力なのだ?
あんな能力使えるメンバーは、誰もいないはず…
「お前さ、俺に勝てないよ。」
佐久間は、凛とした表情で男に言い放つ。
「……私を吹き飛ばせたくらいで、そこまで調子に乗るなんて…浅ましい……」
男をいらついた様子で、それでも余裕を持っているように見せる。
とっくに、余裕など消え失せているくせに。
「ま、それなら力で見せるしかないよな。」
佐久間は、ふっと笑う。
ここらが本番だ、と。
(深澤視点)
逃げないと…
分かんないけど、逃げないとって思った。
何かがきてる…
「……お願い…俺に近づかないで……!」
それだけを胸に、どこに行っても変わらない景色の中を走る。
なんなの、ほんとに!?
そもそも、どうやってここに入ってきたわけ?
誰にも会いたくない!!
俺が1人になれる場所だよ?
「意味…わかんねぇよ…っ…!」
逃げても逃げても、どんどん近づいてきてる気がする。
それに、景色が変わらないせいで進んでる感じがしない…
そうだ、俺はいつだって進んでる感じかしなかった。
みんなと一緒に任務して、悪いやつを倒して…
みんなと一緒のことしてるはずなのに…
みんなと一緒に走ってたはずなのに…
いつも、置いてかれてる気分だった。
最初は、同じスタートライン…
なんなら、俺のが先を走ってたのに、いつの間にか追い抜かされてて…
俺は、追いつけなくなっちゃったんだ。
「……ほんと、何考えてんだよ…悪いのは、みんなじゃないのに……」
ほんと、最低なんだ。
俺は、この瞬間もみんなのことを責めようとしちゃう。
みんなは、努力して成長しただけ。
みんなの実力は、今までの努力のおかげなのに…
「ばか…だなぁ…ははっ…」
自己嫌悪の乾いた笑いが口からこぼれる。
いつも、俺はこうなんだ。
みんなの事考える度に、こうやって自己嫌悪が波になって胸に溜まる。
その胸に溜まったものが、すっごく気持ち悪い。
「ぅえ……」
はぁ…
やっぱり来たか…
さっきまで、あんなに楽だったのに…
1回吐き出した気持ち悪いが、また胸の中に溜まってく。
さすがに、ここでは吐きたくないな…
だって…床を見れば、俺の情けない顔が反射して映ってる。
「…ほんと、無様だな わら」
俺は、足を止めた。
鏡みたいになってる床に両手をつけて、笑顔を作ってみる。
いつもだったら、これで気持ち悪いが隠せてたから。
でも…
「……ぅ゛…はぁ…ぅぇ……」
ダメだ。余計に悪化してる。
でも、ここで吐きたくなんかない…
「……たす…けて…」
自分の中から、無意識に出てきた言葉。
俺が、1番驚いてるよ。
なんで、まだ救いを求めてるんだろうって…
「……見つけた。」
そしたら、後ろから声が聞こえてきた。
俺には、それが、光に見えてしまった。
「……ありえない……ありえない!!なんだ、その力は!!?」
男は、驚愕していた。
佐久間の力の大きさが尋常ではない。
仮に、阿部の能力強化を使っていたとしても、ここまでの力は出せないはず…
「そうだよ。ありえねぇんだよ、こんなの。」
佐久間は、そんな男を”嘲笑う”。
そして、
「ネタばらしして欲しいんだったらさ…」
静かに、ゆったりとしたペースで男に近づく。
「もう二度と、俺らの前にその顔見せんな。」
フードに隠れて見えない男の目をのぞき込むように、鋭い瞳で、唸るような低い声で言う。
先程までは、ずっと冷たい笑顔を浮かべていた佐久間が、男の前で初めて怒りを露わにする。
「……チッ…」
男は小さく舌打ちをする。
佐久間の圧に、一瞬飲まれそうになった。
それが、どれだけ男の癪に障ることか。
だが、逆に男は冷静になっていく。
そして…
「…ふはは、はははははは…!!!」
笑いだした。
大声で、狂ったように笑い続ける。
佐久間は、不快そうに眉を顰める。
「面白い…面白い…!!!あぁ、いいだろう!!ならば、これからは裏社会のボスという名を捨てよう!!!はははははははははは!!!」
「……」
そんなこと、佐久間はどうでもいい。
早く男を殴り飛ばしたい。
佐久間が1歩前に出ると、男の周りに風邪が巻き起こる。
「…っ…くそっ…待て!!!」
佐久間が一瞬、目を細めた隙に男はいなくなっていた。
逃げられた。
この戦いの結果は、勝敗がつかずに終わってしまった。
危険な存在を、逃がしてしまった。
「見つけた。」
両手をついて俯く深澤の後ろから響いた声。
岩本は、この暗闇の中、”最短ルート”で深澤にたどり着いた。
(岩本視点)
ここにたどり着くまでは、簡単だったよ。
ふっかの考えてること、ほとんどわかってんだよ。
俺から逃げてたんでしょ?
救われたくないって…
分かる…分かっちゃうんだよ。
それくらい、俺らは一緒にいたんだよ。
ふっかだってそうでしょ?
いつも、俺の事なんてお見通しで…
お互いが、何も言わなくても理解し合える関係。
そうだと思ってた。
でも、そう思ってたのは俺だけだったよね。
本当は、全然理解できてなかった。
俺が知った気でいたのは外面のふっかだけ。
内面には、触れようとしなかったね。
でも、もう逃げないから。
ふっかさ、覚えてるかな?
俺とお前が相棒になってすぐの時…
ふっかは俺に言ってくれたよね。
~数十年前~
「へぇ、ひかるってこう書くんだ。」
ふっかは、俺の書類を覗き込んで言う。
“照”
この漢字だから、結構”あきら”とか”てる”って間違われることが多くて、自分では面倒だなって思ってた。
でも、ふっかは瞳を輝かせながら言ったよね。
「いいなぁ~!だってさ、”照らす”ってことでしょ?めっちゃいいじゃん!!」
「……そう、かな…?」
「そうだよ!きっと、照にみんなを照らして欲しいって思いなんだろうね。」
柔らかく笑うふっか。
みんなを照らす…
ふっかのその言葉が、今の俺をつくってるんだよ。
俺は、みんなを照らして導く存在になりたい。
ふっかの眩しい笑顔が消えないように、隣で照らし続けたいって…
だから、俺はふっかを照らしに来た。
ふっかの闇の中を、少しでも照らせるように。
小さくてもいい、仄暗くてもいい。
それでも、ふっかのことを照らしたい。
少しでも、明るさと温もりが感じられるように。
(深澤視点)
あぁ…すごい、眩しいな……
でも、眩しすぎる訳じゃない。
この空間を、小さく照らす光。
暗い中、マッチで火を灯すのと同じくらい、小さくて柔い光。
俺の醜い心が、さらけ出されるような感覚。
でも、気持ち悪いじゃない…
なんだろう…これは…
気持ち悪いが、スーって抜けてくみたい。
照が来ただけでこれとか…どうなってんだよ。
あんなに消えなかった。
ずっと溜まり続けた。
どこにいても止まらなかった。
楽しいって感じるほど気持ち悪くなる。
今まで照と一緒にいる時だってそうだった。
なのに…どうして…?
目の前にいる照は、なんか違ってた…
岩本は、しゃがみこむ深澤の元へ近づく。
そして、深澤の隣に腰を下ろして視線を合わせる。
「……っ…」
深澤は、慌てて目線をそらす。
岩本は深澤の行動に優しく微笑みながら、その状態で話を続けようとする。
「ふっか。俺の話、聞いてくれる?ちょっと長くなっちゃうけど…」
「……」
顔を岩本と別方向に向けて、反応をしない深澤だが、岩本が隣にいても逃げない。
大人しく座っている。
それを肯定として受け取り、岩本はゆっくり話し始める。
(岩本視点)
最初に、ごめんね。
そして、ありがとうって思ってる。
俺は、ずっとふっかの孤独に気づいてたのに、それをスルーし続けた。
本当は、もっと早くふっかのこと救えてたかもしれないのに。
ふっかは、ずっと助けを求め続けてたのに、俺は自分の弱さを認めながらも、気付かないふりし続けた。
それが、ふっかを苦しめてたね。
だから、俺は男について何も言えない立場なんだよ。
男は、あんな性格で、ふっかのことを道具としか見てなかった。
…それでも、ふっかの求めているものを与えていた。
ふっかの抱えてる感情に気づいて、ふっかに一時の安心は与えてたよね。
でも、ふっかはしんどかったよね。
俺らと男との優先順位が崩れていったんだよね。
それで、俺らはふっかの不安を増加させる行動ばっかとってた。
そのうえで、ふっかの欲しいものを与えていた男のことを否定した。
だから、こんなことになっちゃったね…
本当に、ごめん。
それでも、俺はふっかのことを取り戻したいって思ってる。
今更なんだよって思ってるよね。
これは、俺の自己満なの。
もう1回、ふっかの笑顔が見たい。
ふっかは、本物なんてないっ言ってた。
でも、そんなことないんだよ。
ふっかが認めなかっただけで、ずっと存在してた。
たしかに、仮面の笑顔と接してる時間も多かった。
その笑顔の奥で、苦しんでることも知らないで…
それでも、それでもさ…
俺は、ふっかの笑顔がすごい好きなの。
俺は、ふっかの笑顔で救われてる。
俺は、ふっかに救われてんだよ。
仕事で疲れた時に、レジでふっかが笑いながら話しかけてくれる時間が好き。
疲れなんてすぐに吹っ飛んで、もっと頑張ろうって思える。
任務で悩んだ時、相談に真剣に乗ってくれるふっかが好き。
1人で考えてたら、絶対に思いつかない案が出てくる。
プライベートでふっかと2人きりで遊んでる時間が好き。
予定とかもギチギチに詰め込んでる日でも、ふっかがはしゃいでるんだなって思って、こっちまで楽しくなる。
誰の役にも立たないって言ってたっけ…?
俺の役には立ってる。
俺は、ふっかに隣にいて欲しい。
それだけで俺は、救われるから。
消えたいなんて言わないで欲しい…
そう思っちゃう環境をつくって、ほんとにごめん。
でも、俺はふっかに生きてて欲しい。
ふっかがいなかったら、俺はとっくにだめになってる。
ふっかが、俺のことを”肯定”してくれてたんだよ。
その笑顔で、俺を”照らし”てたんだよ。
ふっかが、消えるなら…俺も一緒に行きたい。
でも、そんなの嫌だよ。
俺は、もうちょっと生きてたい。
この世界でふっかと笑ってたい。
だから言うよ。
生きててくれて…生まれてきてくれてありがとう…って。
最後の方は、感情も昂り嗚咽混じりの情けない声になってしまった。
それでも、岩本は深澤への思いを紡いでいく。
「照……あり、がとう……でも……」
深澤は、まだ岩本の顔を見れない。
そんなふうに言ってもらえて嬉しかった。
少しだけ、自分のことを見れた気もした。
それでも…
(気持ち悪い…)
深澤のその感情だけは消えない。
こんなにも、岩本は全力で深澤を救おうとしてくれる。
それなのに、深澤は救われない。
(俺だって…早く終わりにしたい…救われたいよ……っ…!)
深澤だって、こんなに苦しいものを終わらせたい。
救われたいと願っている。
でも、足りないのだ。
深澤の心は、満たされない。
(深澤視点)
「照、ごめん……ほんとに、ごめん……」
照が泣きそうになるのにつられて、俺も苦しくなる。
ごめん、ほんとにごめん。
照、苦しいよな。辛いよな。
こんなに届けようとしてくれてるのに、俺は、救われない……
ほんとに、ごめん…
苦しいよ、辛いよ……
照の言葉、めっちゃ嬉しい。
俺の存在の肯定をしてくれてる。
嬉しい、嬉しすぎるよ。
こんな俺でもいていいって言ってくれる。
嘘がない、純粋な、きれいな言葉。
わかってる、わかってるよ…!
でも、それじゃダメなの…!!
俺の、穴の空いた空っぽの箱は満たされない…!!
欲しいの……
俺だけを見てるっていう、証明が……
本当、めんどくさいやつだよね…
俺は、それを求めてる……
俺だけっていう、”特別”を。
あの人…“あの男”は、俺に特別をくれてた。
それは、全部嘘だった…
けど、それでも、”特別”をくれた。
だから、空っぽの箱に溜まってた…
それが、全部溢れて…また空っぽ…
でも、照にそこまではできないよね…?
知ってるよ。
照には、俺以外に優先するべきものが多すぎる。
俺は……選ばれない……
ほんとに……ごめんなさい……
(岩本視点)
「………ふっか…」
静かにふっかの名前を呼ぶ。
小さく震える細い身体。
こんなに、細くて小さい身体で、大きすぎる闇を抱え続けていた。
耐えられるわけ、なかったよな。
本当は、この荷物を俺も半分持つべきだった。
でも、それが出来なかった。
ごめん。
本当にごめん。
ずっと苦しかったよな、辛かったよな。
救いを求め続けて、救いだと思ったものは全部偽物で……
これも、偽物なんじゃないか思っても仕方ないと思う。
疑って当然だよ。
また裏切られるかもしれないって思うのが普通。
でも、俺はふっかを救いたい。
ふっか”だけ”救えればいいんだよ。
ねぇ、ふっかは何を求めてるの?
どうしたら、俺はふっかを救えるの?
誰か、教えてくれよ……
「……もう、十分…だよ……」
ふっかが俺と目を合わせずに、そんなこと言い出す。
何、言ってるの?
まだ、まだ届いてない…!
俺の気持ちは、届き切ってない!!
ふっかは救われてないじゃん!!
「…十分、伝わったからさ……お願い…」
震える声で、懇願するように俺に言う。
ふっかは、何を伝えたいの…?
何が欲しいの?何をすればふっかが笑顔でいられるの?
それがわかってないよ。
俺には、分からない……
「……ひかる。バイバイ…」
ふっかは、俺の身体を突き飛ばす。
バランスを崩した俺は、やっとふっかの顔が見える。
無理やり笑おうとして、全然笑えてねーじゃん。
泣きそうになりながら、口角だけはなんとか上げてる。
違う。
俺が見たいのは、それじゃない。
「……っ!?」
思いっきり、ふっかの腕を引っ張る。
決めたんだよ。
お前のこと、1人になんかさせないって。
暗闇の中、落下しながら俺はふっかを抱きしめる。
終わりの無い落下。
逆に言えば、ここではふっかは俺の腕の中にいる以外、何も出来ない。
「…なに、すんの…?」
ふっかは、戸惑った瞳で俺を見つめる。
可愛い上目遣い。
こんな状況でも、そんなこと思える。
余裕があるってことなのかな?
よくわかんないから、そういうことにしとこう。
もう、いい。
理性なんか捨てていい。
理性で届かないなら、”本能”で届ける。
それでいい。
今は、きっとこれが正しい。
悪いな、阿部。
“怒りの感情に任せて攻撃しないこと”
これ、守れそうにないわ。
「ふっか…」
今度は、無理やりでもいい。
だって、俺は今…
すごいふっかにムカついてる。
(深澤視点)
照の体温、鼓動の音、抱きしめる力…
全部、あったかい…
ずっと、このままでいたいのになぁ……
でも、それじゃだめだよ。
この世界にずっと照を閉じ込めるわけにはいかない。
そういえば、今みんなはどうしてるんだろう…
そこも、確認しなくちゃでしょ?
でも、照は俺を絶対に離さない。
そもそも、俺が力で照に勝てるわけなんてなくて…
抵抗すらさせてくれない。
だから、俺は照にされるがままにされるしかないんだ…
これから、何をするの…?
俺には、もう…
何もないのに……
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