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真っさらなキャンバスのような小さな銀の皿。
その中央に、まるで芸術品のように盛り付けられた真っ白なムースが置かれる。
目の前に置かれた瞬間
ふんわりと漂ってきたのは、初夏の風を思わせる柚子の爽やかな香りだ。
その清涼感のある香りに、知らず知らずのうちに鼻腔がくすぐられる。
「アミューズブーシェです」
ウェイターが、こちらの緊張を解きほぐすような穏やかな微笑みを湛えて告げた。
……アミューズ、ブーシェ?
聞いたこともない横文字に、俺の脳内は(あみゅーず…??)と疑問符でいっぱいになる。
窮して固まっていると、正面から尊さんが俺にだけ聞こえるような優しい低音で
「最初のひと口って意味だ」と、さりげなく助け舟を出してくれた。
「なるほど…!なんか、小さくて可愛いですね」
ようやく絞り出した感想を口にしながら、俺は恐る恐る銀のスプーンを手にした。
滑らかな表面にスプーンを入れると、ぷるんとした弾力のある確かな感触が指先に伝わる。
ひと口含んだ途端、ホワイトアスパラの凝縮された上品な甘さと、柚子の繊細な酸味が舌の上で魔法のように溶け合った。
そこに、薄くスライスされた生ハムの芳醇な塩気が絶妙なアクセントとして重なり、鼻へ抜けるオリーブオイルの華やかな香りが追いかけてくる。
たった一口。
けれど、その完成された味わいに、次に運ばれてくる料理への期待が胸の中で大きく膨らんだ。
ふと顔を上げると、そこには見惚れるほど絵になる光景があった。
尊さんは、まるでそれが日常の動作であるかのように自然な手つきでナイフとフォークを使いこなし
一点の曇りもない所作でムースを口に運んでいる。
その一つひとつの動きが洗練されていて、あまりにも様になっているから
俺は自分の食事も忘れて何度も確かめるように、チラチラと彼を盗み見てしまった。
「……恋、見すぎじゃないか」
「わっ、す、すみません…っ、尊さん綺麗に食べるなと思って…」
慌てて視線を落とし、手元の皿に集中するふりをする。
そんな俺の動揺を見守るように、尊さんは「ふっ」と声を漏らして優しく笑った。
その笑顔が、レストランのシャンデリアに照らされて、夜景よりも眩しく見える。
「やっぱり尊さんって、こういうところによく来るから……慣れてるんですか?」
自分との格差を少しだけ痛感しながらそう尋ねると、尊さんは懐かしむように目を細めた。
「昔、父親とな。社会勉強も兼ねて、こういう店にはよく連れてこられたんだ」