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「すっごく、押される……」
「エトワール様、下がってください。ここは、私が」
「アルバッ」
カキンッ。金属がぶつかるような音を立てて、大きな鱗を打ち返すアルバ。
私は、魔法で守れたはずなのに、対応しきれなかった。イメージが途切れ途切れになって、勝てるビジョンが見えなくなっている。
(こういう時、冷静じゃないと何も出来ない……)
冷静であればあるほど、魔法の精度が上がることは教えて貰った。現に、アルベドがそうだ。彼は、状況を把握しきって、それで攻撃を思い通りに出来ている。彼のようになるには、どれほどの経験を積まなければならないか。
(無い物ねだりしても仕方ないじゃん)
「アルバありがとう」
「いえ……しかし、しぶといですね。レヴィアタン」
「そう……だね。あとちょっととか絶対嘘じゃん」
レヴィアタンはもう少しで倒せると言われたが、全く倒せる気配がしなかったのだ。寧ろ、最初よりも強大になっている気がする。暴れ回って、船が沈んでしまいそうだ。
(防御魔法も、持続するのは難しいから……このままじゃ本当に)
長期戦になれば成る程不利だ。
リースもブライトも、アルベドもそこそこに攻撃をしてくれているが、この後の戦いに備えているのか、あまり大きな魔法を撃ち込むことはしなかった。覚醒によって身体能力が上がったことだけを駆使して。それ以外は、先ほどと同じ魔力量で。
(これじゃ、意味が無い……)
覚醒して、三人で攻撃し合えば、どうにかなるだろうという私の予想は外れたというわけだ。と言うことは、次の作戦に出なければならない。
「アルバ、もう少しレヴィアタンに近付こう」
「で、ですが、これ以上近付くと危ないです。エトワール様」
「防御魔法を駆使しつつ、今みたいにアルバや私が攻撃を弾いて、レヴィアタンに近付く。直接攻撃しないと、きっとあの大きな図体沈めること何て出来ないだろうから」
そう言うと、アルバの表情が曇った。
確かに、近付くのはリスクが高すぎる。レヴィアタンの攻撃の的になれば、それこそただの防御魔法じゃ防御しきれないだろう。でもリスクは負うためにある。
私は、アルバの言葉を無視して船先へ向かう。アルバも、覚悟を決めて私の後ろをついてくる。
近付けば近付くほどその大きさと、迫力、そして、荒れ狂う波が私達を襲った。幾ら、防御魔法をかけて、その上にさらに魔道士達の防御魔法をかけているとは言え、障壁にヒビが入っているのが見えた。その障壁が砕けるのは時間の問題だろう。
(あと少しで倒せるって言うなら、大きな攻撃をぶち込むしかない)
しかし、レヴィアタンには何が効くだろうか。基本的に、自分の魔力と自然に散らばっている魔力を融合することで魔法の効果が上がる。水だから、木をぶつければ良い! とはならないのが、此の世界だ。
よくある三すくみで攻撃できれば良いのだが、そう簡単にはいかない。木の魔法を使おうにも、周りが海のせいで発動が困難なのだ。何処から、木を生やすとか、木の葉をまき散らすとか、イメージでは限界がある。
なら、他の魔法を試すしかないのだ。
(火の魔法? それだったら、船にも危害が及びそう……レヴィアタンに水の魔法をかけるのも違う気がする。風魔法……)
苦手な魔法だと、自分の中で出た結論に私は下唇を噛んだ。
風魔法はアルベドが得意としている魔法だ。だが、これは凄くイメージがいる。形の無いものは、やはり想像がつきにくいものだ。
(今進行形で、風魔法を使っているし……同時に同じものを使うのは……)
風魔法で身体を軽くさせながら、何とか立っていられる状態。それを継続させつつ、風魔法の攻撃魔法を……と、やはり難易度が高いように思える。
しかし、やらなきゃやられるのは分かっている。
「……ッ!」
私は、両手に魔力を集めて、風の向きを変えるようにイメージする。向かい風を追い風に、そしてその風は鋭い刃に。
そうイメージし、集めた魔力をレヴィアタンに向けて放った。その瞬間、目に見えるような鋭い風が刃となってレヴィアタンを襲う。レヴィアタンはうめきながら、その図体をくねらせた。まるで蛇のように。
「よし……うわっ」
レヴィアタンがのたうち回るので、船は激しく揺れ、甲板に水が押し寄せた。
継続して使っていた風魔法はイメージが途切れたことによって消え、私は、押し寄せた波に攫われ、海へと放り出される。
「エトワール様!」
「あ、ある……ばッ!」
伸された手を掴もうとしたが、すれすれの所で指がかすっただけで、掴むことは困難だった。
そうして、暗い海の底へと投げ出される。
(冷たく……はない……これって、新しい衣装のおかげ?)
目の前は暗く、酸素が抜けていく感覚を覚えながら、手を伸ばす。海の中。しかし、冷たさを感じないのは、新調して貰った服のおかげだろう。何重にも魔力が込められているおかげか、寒くも痛くも無かった。でも、それが長続きするものではない。
(早く、上に上がらなきゃ)
藻掻きながら、水をかきわけ、海上にと泳いだが、一向に前に進んでいる気配がしなかった。それどころか、自分の周りを何かがゆっくりと回る気配がする。
「レヴィアタン……!?」
先ほどまで、その身体の半分を海上に出していたレヴィアタンが、海の中に潜ってきたのだ。目ではっきり捉えられた。その赤い大きな瞳と目が合い、私はゾッと身体を震わせる。
私を追ってきたのか。それとも、攻撃を受けたから撤退しようとしているのか。
どちらかは分からなかったが、レヴィアタンの標的となった、ただそれだけを私は感じ取った。
(水の中でも、迫力ある……本当に蛇みたい)
北の洞くつで出会った蛇とは比べものにならなかったけれど、その大きな身体をユラリと揺らめかせながら、私の周りをぐるぐるとゆっくりと回っている。こちらの出を伺っているのかも知れない。
知性があるのかないのか。だが、自分がこの海上で強いことは、多分脳がなくても理解しているんじゃ無いかと思った。話し合える相手なら、楽だけれど、きっと話なんて通じない。
(通じたら苦労していないのよ……)
このゲームでは、敵として出てきたわけだし、今更味方です、話が通じますとかそんな都合の良い展開にはならないだろう。
やるしかない。
私は、右手にゆっくりと魔力を集める。バレたらきっと一目散に襲ってくるだろうと思っているから。私は、レヴィアタンから目を離さずに集めた魔力を放てる機会を狙った。ただ、ここで攻撃できても、レヴィアタンの得意な水中で勝ち目がない。光の鎖も一定時間しか拘束できないし、電撃の攻撃も自分も喰らう羽目になるだろうから。
なら、一番良いのは……
(風魔法と、光魔法……それら二つを一気に……)
カッと、レヴィアタンは目を見開き、私に向かって突進のごとく泳いでくる。さすがに、殺気を感じ取ったのだろう。幾ら、自分が得意とする水中でも負ける可能性があるなら……まあ、さっきの攻撃から、人間は危ないって分かってそうだし。
(でも、もう遅いから――――!)
私は集めた魔力を一気に放出する。
閃光弾。
カッ、ピカッ――――!
眩い光が、水中に広がり、私はその一瞬をついて風魔法を駆使し水上へと上がる。ザバンとまとわりついた水が下に落ちていくのを感じながら、一気に魔法を使ったことで、ふらりと身体が傾いた。せっかく上がったのに、これでは、落ちてしまうと、踏ん張ろうとしたとき、クイッと私の服を掴む誰かの気配がした。
「落ちたと思って探しに行こうとしたが、まさか上がってこれるとはな。成長したなあ、エトワール」
「ある、アルベド」
「今のは、よかったぞ」
水で濡れて、その髪がしんなりしている紅蓮が目に入った。いつもの憎たらしい笑顔を振りまきながら、アルベドはよくやったと、私の身体を持ち上げる。所謂お姫様抱っこになったが、抵抗する気にもなれなかった。どっちかが体勢を崩したらそのままどぼんだろうし……
「レヴィアタンは?」
「あれで、倒せるわけねえだろう。ただの閃光弾で」
「む……っ」
「自分でも分かってるくせに、そんなふて腐れるんなよ。可愛い顔が台無しだぜ」
「冗談言ってる場合じゃないのよ」
アルベドを睨み付ければ、また可笑しそうに笑う。本当に緊張感のない奴だと常々思う。しかし、そんな余裕そうなアルベドを見ている間に、レヴィアタンが水中から顔を出した。大きな図体は水しぶきを上げながら私達に向かって伸びてくる。
「このまま、くうきだな」
「そんなこと言ってる場合!?」
「お前と一緒に死ねるなら良いんじゃねえかって一瞬思っちまったけどな」
「冗談笑えない」
「でも、好機だぜ。エトワール」
そう言って、アルベドはニヤリと笑った。
私がやろうとしていることを分かってのことだろう。
(なんで分かるのよ。何も言ってないのに……)
悔しいというか、本当に嫌。勝手に心を読まないで欲しい。私が単純みたいだ。そう思いながら私は先ほどやろうとしていた事を実践に移そうと、右手を大きく振り上げ、その手にありったけの魔力を集める。そうして、大きな光の槍が空中に現われた。曇天の中から現われたレヴィアタンと同じサイズの槍。これでも、魔力を押さえている方だ。ただ、その形を作るだけなら。
「これで、終わり――――ッ!」
私は手を振り下ろす。すろと、その槍はレヴィアタンに向かって落ちていく。レヴィアタンは避けようと水中に戻ろうとしたが、こちらの方が早い。貫ける。
レヴィアタンを貫く瞬間、槍の重量を最大にし、悲鳴を上げながらレヴィアタンはその槍に貫かれ、海の底へと沈んでいった。