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21 ◇引っ越し先は億ション
そして忌まわしい出来事のあったあの日から約3か月後、加納家は
およそ8km離れた5駅東寄りの場所に住まいを移した。
匠平が圭子や義母のことなども考えて以前よりもかなり近距離になる場所を
探してくれていて、神戸ザ・ラグジュアリーから神戸リヴェールという
億ションへの引っ越しだった。
あんなに便利な場所にあり……美しい景観に溶け込んだ理想的なフォルムの
マンションを去らなければならないことは、圭子にとって悲しむべきことだった。
そして今回『この辺のこんな間取りのマンションに決めるけどどう』とは、
訊いてもらってはいたものの、匠平を受け入れられない情けなさや将来の不安に
押しつぶされそうになっていた圭子は、その頃心在らずの状態で受け答えをして
いたため、実際引っ越して来てとても驚いた。
前の住まいも素敵だったが、負けず劣らずというより、グレードからすると
今度の住まいの方がはるかにゴージャスに見える。
匠平が会社に出掛けている間、段ボールから物を出していきながら、時折、
自分たちの住まうマンションのグレードや近隣の様子そして肝心の価格帯
などを調べてみた。
『匠平さんって……億万長者だったんかーい』
引っ越して来たマンションは億を超えていた。
もしかすると2億円近くする物件なのかもしれなかった。
彼は普通のサラリーマンだよね? 不動産投資なんか、しているのか?
はたまた株?
想像はするものの、そのような話は今まで聞いたことがない。
圭子はこの先もお金の工面の話は聞かずにおこうと決心した。
だって、一生添い遂げられるとは限らないのだから。
匠平さんなら、私を放り出してもすぐにいい女性が見つかるもの。
予想以上に夫がお金持ちであることに知り、更に落ち込む圭子であった。
22 ◇圭子の見つけた仕事
夫は知らないが、私はOLとして寿退社するまで勤めていたものの、多く
稼げるという魅力に惹かれ、キャストとしてクラブで数年間、結婚前まで
働いていた。
夫には、つい言いそびれて今日に至っている。
勤め始めた頃から数えると8年も過ぎていて、しかも子持ちのおばさんに
なってしまった。今更自分が雇ってもらえるのかどうか……。
だが、昔勤めていたクラブのオーナーに連絡を取ってみると、即日OKが
出た。『圭子は本当に運がいい』って言われた。
ちょうど今の子が 、結婚して他県に行くことになり、
次の子を探していたところなんだと……。
8年前に勤めていた頃は、呼び名をキャストじゃなくてホステスと呼んでいたはず
なんだけど、時代と共に今風にラウンジなんかと同じような呼び方に変わっていて、
へぇ~って思った。
給与の話や契約書のこともあり、私はすぐに面談に行くことにした。
そして諸々手続きを終え、私は週に3日勤務することになった。
子供は引っ越しでかなり距離的に近くなった母親に預かってもらえることになっている。
仕事を決めてきたことはまだ夫には話してなくて、事後承諾にしようと
考えている。
一般的に見ると舐めたことをしているように見えると思うけど、そして自身
逡巡もあるけれど、こうでもしないと飛べない……私は飛べないと思った。
面接があったのがちょうど金曜で明日は匠平さんは休みだから、今夜か明日に
は仕事の話をしようと思うんだけど……。
いつ話すにしても未紗が起きてるとわちゃわちゃして話にならないからっと、
晩御飯を食べさせてお風呂に沈め……じゃなかった、入浴させてからの布団に入れて
ヨシヨシと。いっちょう上がり。
匠平さんは確か今日はフレックスタイムを利用して9時過ぎに出ていったから、
もうそろそろ帰る頃かなと頃合いを測っていたら22時前に帰って来た。
「お帰りなさぁ~い」
「ただいま」
「お疲れ様」
「帰りがけにちょっと缶コーヒー飲んじゃったから風呂先に入るよ」
「うん、食事の支度してるね」
お風呂から出て来て食事をしている匠平さんを見てると、疲れているところへ
喜ばしくもない話を持ち出すのは躊躇われた。
でも、言い出しにくい話ほど早めにしたいというか、しないとというか……
でないと益々言いそびれてしまいそうだから。
23 ◇働こうと思ってるの
「どうした?」
「えっ、何が?」
話す切っ掛けを探していたら、匠平さんから『どうした?』って言われた。
「何か、さっきからずっと俺のこと見てなかった?
視線を感じてて、何か話したいことでもあるのかなって」
「匠ちゃん、すごい。
そうなの、実は話したいというか、話しておかないといけないというか」
「そりゃまた、ややこしそうなことなの?」
「仕事……」
「仕事?」
「うん、私、週3で働こうと思ってるの」
「それって、何の仕事?」
「カラオケ店のスタッフ」
「時間帯は?」
「20時から3時間? ほどかな」
いえ、もう決めてきてるんだけどそれは秘密。
「まだ未紗も小さいし、働こうって思ったのは例の件が原因なのかな?」
「……それだけが原因じゃなくて、ほら、今の時代何があるか分からないじゃない?
もしも、もしも……よ、匠ちゃんが病気になったりする可能性もあるわけじゃない?
その時に、奥さんが仕事持ってたら安心でしょ。
そういう意味もあるの」
「ふ~ん。ところでその間、未紗はどうすんの?」
「お母さんに預けて行くつもり。
匠ちゃんの食事はちゃんと作ってから出掛けるつもりよ。
温めてもらわないといけないから、少し面倒かけちゃうけども」
「分かった。
でも無理になったらきっぱり辞めること、これを約束してほしいな」
「うん、分かった。ありがとう」
このあと、私はトイレへ行くふりをして、洗面所へと向かい鏡を見ながら
ガッツポーズをした。
『ヤッター』
良かったぁ~。
絶対反対されて二人の間が拗れるかもしれないって思っていたから、
ほんとにほっとした。
肩に力が入ってたみたいで少し肩が凝ってしまった。
********
仕事を始めて2か月目に入った頃、夫が週一で実家に一泊してきてもよいと
提案してくれた。
ただし、土・日はなるべく一緒にいたいから水曜日の泊まりでどうだろうか、と。
思わぬうれしい提案に、圭子は一瞬離婚が揺らぐのだった。
まぁ、モヤモヤ感が未だ拭えないとはいえ、決定というわけでもないのであるが。
以前からある目的のためにどうやってその時間を捻出しようかと思案していた圭子にとって
それはとんでもなく朗報だった。
圭子の考えている目的……それは自分もアロママッサージというものを一度
経験してみようということだった。
********
体験する前にインターネットで下調べしたけれど、触れなくていい場所を
触られたり怪しさ満載で、ホテルでの出張マッサージに至っては挿入まで
されたという話もあり、淳子がしているようなことは男女入れ替わっても
この業界では当たり前のようにあるのだと知る。 ********
そういうこと込み込みで行く場所ということなのだろう。
男性の力強いマッサージを受けたければ、アルバイト料を払って
旦那さんにしてもらうのが一番いい方法なのだろうと思えた。
もしくは、旦那さん同伴で見ててもらう中で施術を受けるか。
本当に凝りや疲れを安心して取りたければ、女性スタッフのお店に
行くしかないと結論付けた。
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◉ ********の記述はフィクションです。
事実かどうかは想像の域でしかありません。
私が小説を書くにあたり、参考にさせていただいた
お店は、安全な店舗(本番無)ではないかと思いました。
お互いの合意ありきでは、ありそうに思えましたが。
わたくしの妄想かも。
10
#シングルマザー
水羽凛
174
#異世界転移
花月夜れん
2,595
フィオレ
86