「えっと、もしかして、タマって、猫と勘違いされて、タマって、名前になったのでしょうか?」
「まあ、秋時《あきとき》殿、何を寝とぼけていらっしゃるの?タマは、猫ではなく、犬ですよ?私《わたくし》たまげたから、タマが、良いのではないかしら?と、思って、そうしたら、守近様も、それは、良い名だと、おっしゃって」
「はい、母上、守満《もりみつ》も、そう思いますよ?なあ?守恵子《もりえこ》も、そう思うだろう?」
その場にいる一同は、うんうんと、納得の頷きを繰り返している。
「え?ちょっとばかり、わかりかねるのですけれど、どうして、納得できるのでしょうか?」
秋時が、一人慌てていた。
「でも、タマも、気に入っているようだし、タマが、呼びやすいでしょう?」
再び、守恵子が、口を挟んだ。
「まあまあ、タマも、気に入っているのね、それは、よかったわ!」
徳子《なりこ》は、嬉しげに、房《へや》へ足を踏み入れると、守恵子の側に腰をおろした。
「あー、少し動くと、もう、大変。ややも、ちゃんと、大きくなっているのでしょうね」
言って、徳子は、ふくよかな腹部を撫でる。
「母上、どうぞ、ご無理なさいませんように。ご用がございましたら、私どもが、お伺いいたしますよ」
身重の母を気遣うように、守満が言う。
「でも、秋時殿は、必要ありませんから。余所のお子様ですし。あちらの、北の方に何かを言われるのも困ります」
はあーと、息をつく徳子に、ばれないよう、上野が、事情を知らない晴康《はるやす》に耳打ちする。
「秋時の母君と、うちのお方様は、今一つ、馬があわないのよ」
「なるほど、それで、秋時が、お方様に、媚びているのか」
何気なく発された、晴康の言葉に、あっ、そういうことかと、皆は、唖然とした。
一方、徳子は、タマを撫でながら、あら、秋時殿は、いつまでいらっしゃるの?と、のたまわる。
「な、なんか、わかりました私!守ちゃんの、辛辣さは、親譲りだったと、そうゆうことでしたかっ!」
と、秋時は、わめきながら、廊下を走って消え去った。
「あらあら、秋時殿は、いつまでたっても、子供ですね」
呆れ顔の徳子に、守満は、
「なにやら、心が折れたようで、早急に、我が屋敷から、離れたくなったみたいですよ?」
「まあ、奇妙なお子だこと」
徳子は不思議そうに言った。
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