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ところで──と、徳子《なりこ》が、なぜ、皆で集まっているのか、問うてきた。
「はい、内大臣樣の姫君が、入内候補から外されてしまわれそうになっていると、そして、それは、誰かしらが、動いていると、その様な噂話などしておりますうち、もしや、守恵子《もりえこ》樣にも、いえ、大納言樣にも、災いが、振りかかるのでは、なかろうかと、そのような、話が、出て参ったのでございます」
平伏した、晴康《はるやす》が、とてつもない事を、徳子に告げた。
「まあ、やはり、何かと足の引っ張りあいが、起こるのですね。しかし、そなた、なぜ、守恵子、いえ、当屋敷に災いが、と、言うのですか?」
「それは、琵琶法師が、いた、からです」
「琵琶法師!まことですか!」
徳子が、声を荒げた。
「はい、守満樣の、琵琶の師匠として、こちらへ、出入りしておりました」
「なんですって!あぁ、そなた、もそっと、近くへ、遠慮は、いりませんよ。すでに、守恵子の房《へや》にいるのですからね?」
言われてみれば、そうでした。さすが、お方樣!などと、晴康は、急にくだけた口調になって、それで、ですねぇ、と、徳子と、旧知の仲のごとく、話に花を咲かせ始める。
すっかり、置いてきぼりになっている、守満《もりみつ》、守恵子《もりえこ》、常春《つねはる》、上野達は、黙りこくるだけだった。
しかし、これでは、埒があかないと、守満が口を開いた。
「あの、ご歓談中、失礼いたしますが、母上?何故に、琵琶法師と聞いて、そのように、慌てられるのですか?」
「まあまあまあ!守満は、何も知らないのね!よりにもよって、琵琶法師が、我が屋敷に、入りこんだのよ!」
徳子は、何かに怯えつつも、どこか、守満に批難の目を向けた。
「そうそう、お方樣、その法師、守満樣が、師匠として、招き入れられたのですよ」
「えええーーーー!」
晴康の告げ口ともいうべきものに、徳子が、絶叫した。
「きゃあ!!母上樣!お気をしっかり!」
半ば、転がりそうになる徳子の姿に、守恵子は動揺する。
「も、守恵子、タマ、タマを、私《わたくし》に」
「タマ、ですか?お渡しすれば、宜しいのですか?」
言われるままに、守恵子は、母へ、タマを手渡した。
徳子は、タマを抱き締めて、桑原、桑原、と、唱えつつ、落ち着こうと試みていた。
「……タマは、そんなに、霊験あらたかなのですかね?」
タマを抱き締めている、徳子の姿に、晴康は、つい、口を滑らせた。
とたんに、守満、常春、上野が、
「これ以上、余計な事をいうなっーー!!」
と、計ったように、晴康を糾弾した。
「いやはや、なんとなく、私、秋時殿の気持ちが、分かったような気がするのですけど」
混乱する、守恵子の房《へや》で、独りごちる、晴康だった。