テラーノベル
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それからしばらく、部室には穏やかな笑い声が響いていた。
新聞記事を囲みながら、それぞれが事件を振り返り、ようやく訪れた平穏を噛み締めている。
そんな時、部室の扉が開いた。
「あ、みんな居るわね」
聞き慣れた声に全員が振り向く。
「あ、美月先生」
信愛が笑顔で迎えると、茜が首を傾げた。
「どうしたの?」
美月はどこか嬉しそうに微笑み、両手に抱えた額縁を少し持ち上げる。
「感謝状よ! 感謝状!」
部員たちは一斉に目を丸くした。
美月は大事そうに額縁を抱えたまま続ける。
「せっかくだから部室に飾りましょう」
そう言って机の上へ静かに額縁を置く。
それは警察から贈られた感謝状だった。
事件解決への功績を称えられた、怪異探求倶楽部五人の名前が記された一枚。
美月はその額縁を見つめながら、どこか誇らしげに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
感謝状。
私立狗頸学園高等学校怪異探求倶楽部。
白縫信愛殿、花牟礼さくら殿
菅生茜殿、八乙女焔垂殿、浦添朝陽殿。
貴倶楽部は、霊感商法詐欺を行う
霊貴冥孤容疑者の不正行為を鋭く見抜き
証拠を収集して当署に通報するなど
市民の安全と秩序維持に多大な貢献をされました。
この功績に対し、心から感謝の意を表し
感謝状を贈呈いたします。
令和七年六月二十三日。
狗頸署署奈井江與一。
◇ ◇ ◇
部室中に歓声が響いた。
「いえ〜い♬飾ろ~♬飾ろ~♬」
真っ先に声を上げた茜が、両手を高く突き上げる。
まるでお祭り騒ぎだ。
その様子を眺めながら、信愛は額縁に収められた感謝状へ視線を向けた。
「こうやって見ると、私たちって
凄い事したんだなって改めて実感しちゃうよね♬」
焔垂が腕を組み、少し照れくさそうに笑う。
「ああ、確かにな」
さくらも感謝状を見つめながら微笑む。
「なんてったって警察からの感謝状だからね♬」
その一言に、朝陽も穏やかに笑みを浮かべた。
「ですね♬」
賑やかな笑い声が部室いっぱいに広がり、壁に飾られた感謝状は、朝日を受けて静かに輝いていた。
しかしそんな明るい雰囲気とは裏腹に、美月の顔はどことなく不安に満ちた様子だった。
「めでたい雰囲気の時に申し訳ないんだけどね」
皆の視線が一斉に顧問へ向く。
「ちょっと皆に相談したい事があるのよね」
信愛が首を傾げる。
「ん?相談?」
茜も不思議そうな顔をした。
「どうかしたの?」
美月は少し言いづらそうに視線を落とし、小さく息をついた。
「実は弟の累の事なんだけど」
「弟?」
さくらが聞き返すと、茜は首を傾げながら口を開いた。
「いや、霊貴は逮捕されたんだからさ悩む事無くない?
騙し取られたお金だって全額返ってきたんでしょ?」
「そうなんだけどね・・・」
その歯切れの悪い返事に、信愛は何かを察したように目を細めた。
「もしかして希望を失ったからとか?」
美月はゆっくりと頷く。
「まぁ・・そんな感じ・・・かな」
朝陽が眉を寄せる。
「希望を失ったから?いや、霊貴冥孤は詐欺師
だったんだからさ最初っから希望も何もなくない?」
茜の問いに信愛は静かに言葉を続けた。
「弟さんは霊貴冥孤の事を本当に信じてたんだと思う
本当に死者の声を代弁してくれるって
だから300万円なんて大金を貢いでた
でも、それが詐欺だったって知って・・・」
「ああ、なるほど」
さくらは納得したように頷く。
「俺は今日から何に縋って
生きて行けば良いんだよ!みたいな感じ?」
「多分ね・・・」
朝陽は腕を組みながら静かに口を開く。
「あんな嘘で塗り固められた詐欺師でも
弟さんにとっては希望を見せてくれる
心の支えだった訳ですね」
焔垂も続ける。
「トラウマボンディングみたいな感じだな」
「トラウマボン?何それ?」
信愛が聞きなれない横文字に首を傾げた。
「トラウマボンディング・・被害者が加害者に対して
強い感情的な結びつきを感じる心理現象の事だよ」
「感情的な結びつきって?」
「自分を虐待する親でも
それを愛してしまう子供みたいな感じだよ」
「あー!なるほど!ピンと来なかったけど
それなら理解できた」
焔垂はさらに説明を続ける。
「多分、希望を見せてくれた、手を差し伸べてくれた
ってイメージが強烈に残ってんだろうな」
「なるほどね・・・」
信愛は改めて美月へ向き直った。
「でもそれだとして、美月先生は
私たちに何を相談したいんです?」
美月は真っ直ぐ信愛を見つめる。
「白縫さんに亡くなった累の
幼馴染の声を代弁してもらいたいの」
「私に?」
「霊貴冥孤は詐欺だった。でも白縫さんなら
出来るんでしょ?死者の声の代弁」
信愛は少し困ったように苦笑した。
「まあ、出来なくはないですけど」
その言葉を聞くなり、美月は深々と頭を下げた。
「お願い!」
慌てた信愛が声を掛ける。
「美月先生・・・」
美月は顔を上げ、どこか遠くを見るような目でぽつりと呟いた。
「あいつ・・・今はあんなだけど」
少しだけ口元を緩める。
「根は優しくて真面目で責任感が強いヤツなの」
そして、言葉を続けようと静かに息を吸い込んだ。
美月は拳をぎゅっと握り締め、震える声で続けた。
「詐欺師に騙された自分が悪いんだって」
一度言葉を切ると、苦しそうに目を伏せる。
「意地張って助けを求めれなくなってるのよ」
部室に重い沈黙が落ちた。
信愛も何も言えず、ただ静かに美月を見つめる。
美月はゆっくりと顔を上げた。
「でもキッカケさえあれば、アイツはまた立ち上がれる」
その瞳には、教師としてではなく姉としての強い願いが宿っていた。
「そう・・・信じてる」
そして、信愛を真っ直ぐ見据える。
「だから白縫さんにそのキッカケを作って欲しいの」
もう一度、深く頭を下げる。
「お願い!」
信愛は返事ができなかった。
信愛の胸の奥が強く締め付けられる。
霊の声を代弁する力はある。
だが、それを誰かの人生を左右するために使っていいのか。
その答えが、まだ見つからなかった。
信愛はただ、美月の必死な願いを受け止めるように、小さく息をついた。
#普通
野々さくら
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ありあ
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コメント
1件
ああ、読了しました…! 感謝状が届いて部室がお祝いムードになる場面、本当にほっとしましたね。でもそこから美月先生の「お願い」で一気に空気が変わって。信愛ちゃんが「誰かの人生を左右するために力を使っていいのか」と悩むところ、すごく心に残りました。累さんの苦しみも、姉としての美月先生の必死さも伝わってきて…。次が気になります!