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80 - 第80話 お葬式あるある

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2025年03月31日

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◻︎結婚式の次はお葬式




親戚の結婚式に参加した日の夜。


『もしもし、田中さん?あのね、二丁目の酒井源太さんが亡くなったんだよ。それで今日が仮通夜でその時にお通夜や告別式のお手伝いをお願いしたいから、来てくれる?』

「そういえば、私、そんな当番にあたってましたね。わかりました、行きます」


町内会の訃報は、こんなふうに突然入ってくる。





「そういうことだから、晩ご飯は、適当にお願いね」

「うん、まだお酒も残ってるし、冷蔵庫から何か探して食べるよ、結婚式のバームクーヘンもあるし」


礼服を脱ぎ散らかして、下着でどっかと座る夫の背中を見た。


___やっぱり、年をとったなぁ


背中が昔より小さくなった気がする。

今日亡くなったという酒井源太という人も、まだそんなに年をとってなかったと思うけど。


年を取るのはお互い様だけど、普段はそんなこと考えもしなかった。

私も年をとったということなのに。




家から酒井家までは少し距離があるけど、きっと車がたくさん来るだろうから歩いていくことにした。

黒っぽい服装と黒いエプロン、スニーカーで行く。


1kmほどの距離にある酒井家。同じ町内だけど、親しくしていたのは子どもが同じ学校に通ってた時だ。

ママ友の付き合いは、子どもがそれぞれ独立してしまうと薄れていってしまう。たまにLINEでお互いの子どもの進路の話をしたくらいだろうか?


だんだんと日が暮れてきた道を歩いていく。夕方に近くなったからか、外を歩いている人も少ない。


坂を登り切って、酒井家へ着いた。

親族らしい車が数台路駐している。ここは道路の突き当たりになるので、路駐でも特に問題はないのだろう。


___こんなとこまで来たのは、いつ以来かな?


ガヤガヤと人の話し声が聞こえて、ここだけが非日常の空間だ。


「こんにちは、田中です、お手伝いにあがりました」


玄関から中に向かって声をかけた。


「あ、美和ちゃん、当番って美和ちゃんだったんだ。よかった。上がってくれる?」


酒井佳子よしこ、亡くなった源太さんの奥さん。


「この度は……」

「もう、そんなこといいから、とにかく上がって」

「じゃあ、ご主人のお顔だけ先に…」

「うん、奥の和室にいるから」


リビングを通って奥の和室に行く。リビングやダイニングにたくさんの人がいた。

源太の訃報を受けて集まったのだろう。


「すみません、通りますね」


会ったこともない人たちが、私を見て隙間を開ける。

通された和室には、真っ白な布団に寝かされた源太さんがいた。

横に座り、そっと顔を見る。

しばらく会わないうちに、髪も髭も真っ白だった。

顔は色がないだけで痩せてもいないし、まるで眠っているようだ。


___お疲れ様でした


心の中で呟き、手を合わせる。

気がついたらすぐ横に、奥さんの佳子がいた。


「眠ってるみたいでしょ?」

「うん、ホントに…、あっ!」


源太の左肩がピクリと動いた。

佳子はそっと布団をかけ直す。


「死後硬直の加減かな?時々、こうやって動いちゃうの。もともと寝相が悪い人だったからね」

「そうなんだ…。ね、もとから悪かったの?」

「んー、年齢なりに高血圧や血糖値が高めだとは言ってたけど、薬を飲むほどのこともなくて元気だったの、昨夜まではね」

「じゃあ…」

「今朝、いつもの時間…といっても7時前なんだけど。その時間に起きてこないから起こしに行ったの、ケイトが。あ、犬ね。散歩の時間だからね。でも起きてこなくて見にきたら様子がおかしくて、救急車を呼んで搬送してもらったけど………動脈瘤破裂だって」


リビングの隅に置かれたケージには、小型の柴犬がいた。床に突っ伏して、目だけがこちらを見ている。

ご主人の突然の死に、誰よりも気落ちして見えた。


「突然だったんだね…」

「うん、あまりにも突然過ぎて、まだ実感が湧かなくて…。でも、やることはやらないといけないし、めちゃくちゃ不安だったけど。美和ちゃんが来てくれてよかった…」

「私にできることならなんでも言ってね」

「うん…お願いね」


そんなことをボソボソと話していたら、玄関からなにやらダミ声が聞こえてきた。

怒っているのか、大きな声で何か言ってる。


「私、ちょっと見てくるから佳子さんはご主人のそばにいてあげて」


立ちあがろうとする佳子を座らせて、ダミ声の主の方へ向かった。




「だから、そういうわけにはいかんだろ!一家のあるじが死んだんだぞ」

「でも…奥さんがそれでって」

「わかっちゃいないな、どうせ遠いとこからここに嫁に来たんだろ?ここにはここのやり方ってもんがあるんだから」


___これは面倒なオヤジだ


ダミ声の主を見て、話す前からため息が出てしまった。

町内のことを古くからよく知ってる堀信三郎。確か今年あたり80歳になるんじゃなかったか?


「これはこれは、堀さん。何かありましたか?大きな声が奥まで聞こえてきましたけど」

「お!田中んとこの。どうもこうもないぞ、ここの葬式は今流行りの家族だけでやるとか言ってるんだ、この町内のやり方ってやつを説明してやろうと思ってな」

「あー、そのことですか?まぁ、とりあえず、中へどうぞ」


たくさん脱ぎ散らかされた履き物を踏みつけながら、玄関に立っているその人を、とりあえず中に入れた。


少し足が悪いようで、ふらつきながらリビングへ入ってくる。

集まっていた近所の人が信三郎に向かって軽く会釈した。

会釈しながらも顔をしかめる人も何人かいたけど。


「ちょっと待っててくださいね、奥さんの佳子さんを呼んでくるので。あ、その前に源太さんにご挨拶なさいますか?」

「それは後でもいいから、とにかく奥さんを連れて来い」


私は佳子のもとに行き、信三郎の話をした。そして家族葬でやるつもりなのかを確認した。


「うん、家族葬でやりたいの。それは子どもたちもそう言ってるから」

「わかった」


佳子と子どもたちの気持ちは確認した。



「堀さん、わざわざお越しいただきありがとうございます」


佳子は丁寧に頭を下げる。


「俺が来たのはな、ここの一家の主が死んだっていうのに、こじんまりと質素な家族葬でやるって聞いたからだ」

「はい、身内だけで送りたいと思ってます」

「そりゃたしかに、身内だけのほうが質素で金もかからないけどな、それじゃああんまりにも源太さんがかわいそうってもんじゃないか?みんなに知らせて、みんなで盛大に送ってやった方が故人も喜ぶだろうて」

「…でも……」

「あんたは、この辺の葬式のやり方を知らんのだから仕方ない。ワシが教えてやるから安心しろ」

「いえ、そんな…本当に身内だけで…」

「あーっ!そんなんじゃ源太さんがかわいそうだろうが!」


声を荒げる信三郎。


「ちょっと待って、堀さん!お葬式ってものを何か勘違いしてませんか?」


お茶を出しながら、思わず口が出る。

私の堪忍袋は、割と破裂しやすいのだ。













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