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立喰 司狼(たちばみ しろう)は珍しく料理をしていた。恋人である夏目 庵(なつめ いおり)の18の誕生日パーティーのためだ。司狼は素行不良から停学になり、2度高校を留年したため20歳でありながら18歳の庵と同学年。一人暮らしの虚しさと凛々しい顔立ちから、入学早々に上級生の女子を家に連れ込んで弄んでいたため停学。そして停学が明けると全く同じ行為で再度停学。2度目の停学が明けた時の同じクラスにいたのが庵だった。
そんな昔話を思い出していると、玄関を叩く音がした。
「こんばんわー。しろー。ぼくだよー。」
「早ぇよ馬鹿っ!」
口では怒りながらも楽しげに鍵を開けると、マフラーで悴む鼻を隠しながら、庵が上目遣いでこちらを覗き込んでいた。
「これケーキ。時期的にクリスマスケーキしかないからって、誕生日の人に作らせるかなあ」
「いーじゃねーかよー!アンのケーキ美味いしー」
「あっまた!アンって呼ぶなよ!僕はイオリだ!」
「どっちも変わんね〜よ」
庵のムスッとした顔が可愛いのでいつもわざと間違えているが、バレると厄介なので教えないようにしている。
2人で食事の準備をして、配膳を終えたところで時計を見ると20時少し前だった。
「今日はお前の誕生日イブだからな!楽しもうぜ!アン!」
「もー……またアンって言う……。でもしろーの料理も初めてだし、楽しみだな!」
司狼の作った料理を物珍しげに見回していた庵がふと司狼に訪ねる。
「ねぇしろー。どうして僕と……付き合ったの?」
司狼は好きだから、と答えたが、納得いかない様子だった。庵の知る限り、司狼の対象は女性で男性とは話す所すらあまり見かけないほどだったのに自分と付き合ってもう2年半も立っていた。
「……しゃーねぇな。少しだけ教えてやるよ。」
司狼はサラダを一口含み、ビールで流し込んでから呟くように昔話を始めた。
司狼は元々両親が親権をなすりつけあう様子を見て小学生で家出してから、ずっと独りで生きてきた。中学に上がる頃、親戚と名乗る女に拾われて毎晩ペットとして扱われるようになったが身寄りのない自分が生きるためには仕方ないと思っていた。学校にも行かせてもらえるし、飯も3食ありつけると思えば、たった1日数時間の“遊び”の付き合いなんてどうも思わなかった。それに3年ほどで女は事故に遭い、その遺産の一部を引き継いだので感謝すらしている。
高校生を卒業したらヒモになって財産と女の稼ぎで生きていこうと思っていたので徐々に人付き合いも制限していった。黙って貢いで体の相性もいい、何より自分に従順な女を探すために高校に通っていた時、偶然庵に出会った。
華奢で女のような見た目と“いおり”という名前から嫌がらせを受けているようだったが、最初は自分には関係ないと見て見ぬふりをしていた。そんなある日、持ち帰った女の彼氏にリンチされた帰り道で偶然庵に会った。横を通り過ぎようとすると腕を捕まれ、傷口の処置をしてくれた。誰からも嫌われるか都合のいいように扱われてきた司狼からすると、その優しさがかえって恐ろしく見えて逃げるように立ち去った。
「勝手に包帯巻かれた時は“偽善野郎”ぐらいにおもってたんだけどよ、あの時貼られた絆創膏に書いてたメッセージみて違ぇなって分かったよ。」
「あぁ、なんかほっとけなくてすぐ捕まえちゃったよ。でも僕の気持ちがわかってもらえてよかったな!」
庵は司狼に貼った絆創膏に励ましの言葉を書いていた。何も知らない癖に分かった気になっている庵に最初こそ腹を立てていたが、借りを作ったままなのも気持ち悪かったのでスナック菓子を持って家を探した。そうして招き入れられた家の中で庵の身体中の痣の凄惨さを見た時、それでも他人を励ませる優しさに驚いた。
次の日から庵に対して誰も手を出してこなくなったが、その原因が司狼なりの“恩返し”によるものだと気づくのは半年後の事だった。
そこから徐々に2人はつるむようになり、司狼は庵に対して今まで女には向けない感情を見せるようになった。庵は男性を対象としていた代わりに遊び人は苦手だったが、司狼と一緒にいるうちにいつしか心を奪われていた。
「いつ聞いても変な馴れ初めだよな」
とっくに食べ終わった皿を流し台に持っていったあとで司狼が呟くと、俯いたままの庵がゆっくりと本音を零した。
「……だから気になるんだよ。僕はカミングアウトしたこともないし、君は……その、ノンケだ。だから、僕をからかってるか、同情で付き合ってるとばかり思ってたけど君はどっちも違うって言うだけで本心を聞かしてくれない……」
一呼吸置いて、涙を貯めながら庵は尋ねた。
「本当は、どうして僕と付き合ってるの?」
時計を見ると今日もあと20分というところまで来ていた。しがみついてきた庵の手は小刻みに震え、目元は潤み輝いていた。
「んな事いちいち言われねーとわかんねーの……
「分かるわけないじゃん!!」
呆れ気味に呟く声に被せるように庵怒鳴った。ここまで悩んでいたという事に気づけなかった悔しさと、誕生日までに誤解を解きたいと言う思いから、司狼も荒げた声で浮かんだ言葉をそのまま吐き出していた。
「うるせえ!お前の好みなんか知らねーし俺もなんでお前はイケるのか分かんねーけどそれが“好き”って事じゃねーのかよ!」
小刻みに震えながら泣いている庵に一瞬躊躇ったが、口はもう閉ざせなかった。
「仮にお前がノンケでも女でも関係ねえ!俺は夏目庵が好きなんだよ!女々しくて傷つきやすくてヘタレで、でも優しくて俺の事を励ましてくれたあのお前が!!この世で一番好きなんだよ!!!」
小刻みに震えながら泣いている庵に一瞬躊躇ったが、司狼の感情(こえ)は自分で抑えられないほどに溢れかえっていた。「仮にお前がノンケでも女でも関係ねえ!俺は夏目庵が好きなんだよ!女々しくて傷つきやすくてヘタレで、でも優しくて俺の事を励ましてくれたあのお前が!!この世で一番好きなんだよ!!!」
言い終わる頃には庵は一通り泣きやみ、謝っていた。
「ごめん……疑って……ほんとごめんね……」
「ったく、お前のせいで前夜祭ももう終わりじゃねーか。」
司狼は強引に庵を机の方からベッドに引きずり倒した。
「前に言ってたよな、『初めては18超えてからがいい』って。」
突然の事で固まっていた庵だが、ふと気づいて時計を見ると丁度午前0時になった。
「〜〜〜!!!」
気づけば両手を頭の上で押さえつけられたまま馬乗りで唇を奪われていた。暴れても司狼の力強さには逆らえず、徐々に深く入り込んでくる初めての感覚に意識が支配されていった。
「誕生日おめでと、庵。 ……もう馬鹿なこと考えねえように俺がどんだけお前のこと好きか証明してやる」
怒りと昂りを必死に抑えるべく、一呼吸置いてから吐息混じりに庵の耳元に囁いた。
「……覚悟しろよ?」