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次の日の朝。 普段なら清一が俺を迎えに来てくれるのだが、今日はいつもの時間になっても来る気配が無い。昨日の一件を気に病んでいるのだろうと思い、俺は自分の方から奴を迎えに行ってみる事にした。
あんな事があったのだ、俺も顔を合わせるのは正直気不味いのだが、だからといって清一を避けるのはもっとイヤだ。アイツの性格からいって、俺から折れないと避けられそうなのは目に見えている。
(今が、まさにそうだからな)
真面目過ぎて色々グダグダと悪い方に考えて、堂々巡りした挙句、何も行動出来なくなるアイツに毎度呆れてしまうのだが、それでも俺は清一を不思議と放ってはおけないんだ。
仕方のない奴だなと思いながら玄関を開け、キッチンに居る親に向かい「行ってきまーす!」と声を掛ける。
「清一くんに迷惑かけんじゃ無いわよー!」
「そこは、『いってらっしゃい』だろ!」
「はいはい、朝からツッコミご苦労様。行ってらっしゃい」
「…… ったく。行ってきます」
ボヤきながらドアを閉め、隣の家に向かう。まだ家に居るといいが、どうだろうなぁ。
チャイムを鳴らすとインターフォンに出る事なくドアが開いた。
「…… おはよ」
俺が声をかけると、学ラン姿の清一がキョトン顔でこちらを見てくる。
「あ…… あぁ、おはよう」
ワンテンポ遅れ、返事がきた。 きっとこの数秒の間、頭ん中では『何で迎えに来たんだ?』『会いたくないとか無いのか?』とかめっちゃ色々考えてたんだろうなと思うと、清一には悪いが、ちょっと笑ってしまいそうになった。
「遅刻するぞ?行こうぜ」
「……鞄、持って来る」
そう言って、室内に戻って行く清一の目の下にはクマが出来ている。俺も人の事は言えないが、明らかに眠れていない感じだった。
ドアを背中で押さえ、閉まらないようにしながら清一の事を待っていると、「お待たせ、行こうか」と言いながら奴が二階から戻って来た。
背中に大きなリュックを背負い、手にはランチバックを二人分持っている。こんな日でも、清一は俺の弁当を作ってくれたみたいだ。
実は、清一は高校に入ってからずっと、俺の母さんの代わりに弁当を作ってくれている。
弁当を作ってくれる程度の余裕は、共働きだろうがウチの親にだってあるのだが、『俺が作りたい』と奴から頼み込んできたので毎日作ってもらう事になった。清一が何を思ってそう言い出したのかは知らないが、美味しいのでありがたく享受させて頂いている。周囲には、俺の食べる昼メシが清一の作っている弁当だとは誰にも言っていない。俺と違ってモッテモテになりやがったアイツの弁当を毎日俺が食べてるなんて知られたら、何を言われるかわかったもんじゃないからだ。
「はいこれ、今日の分」
靴を履き、手に持っていた弁当を清一が渡してくる。
「いつもありがとな」
まだ少しぎこちないながらも笑顔で受け取ると、清一がちょっと嬉しそうにはにかんでくれた。
「んじゃ、行こうか」
「そうだな」
二人で一緒に家を出て、学校へ向かう。さほど時間もかからずに、清一とは元通りに接していけそうだなと、俺は思った。
「充ー。メシ食おうぜー、メシ」
圭吾がパンの入る袋を片手に、声を掛けてきた。
「いや待て、また早弁かよ」
二時間目と三時間目の間にある休憩時間に誘われ、俺は咄嗟にツッコミを入れた。 めっちゃ痩せてるくせに、圭吾はやたらと飯を食う。痩せの大食いを地で行くタイプだ。太らないのは羨ましいが、食べてもすぐに腹が減るらしく、その点はちょっと不憫だなと思う事がある。
「いただきまーす」
隣の席に座り、俺のツッコミはスルーしながら圭吾がパンを食べ始めた。匂いに惹かれるのか、琉成までこっちにやって来て、無言のまま圭吾のパンに食いついた。
コイツら仲良いなぁと思いながら二人を見ていると、『またか』と言いたげな顔でジッと琉成の頭を見ていた圭吾が「あ」と言いながら口を開いた。
「そういや、今日は清一も充も、二人揃って体調悪そうだな」
「そうか?」
「目の下にクマつくってさ、何?一緒に徹夜でゲームでもしてたのか?」
圭吾にクマの事を指摘され、俺はドキッとした。
「いや…… 睡眠不足ではあるけど、一緒にじゃないよ。そう言えば、あっちの理由は聞いてないや」
「あれ?清一教室にいねえのな。どこ行ったんだろ?」
圭吾のパンを食べながら、琉成が教室内を見渡して言った。
「ホントだ、気が付かんかったわ」
授業中に寝てしまわない様にするのに精一杯で、清一が居ない事に気が付いていなかった。一緒に学校に来たのは間違いないから…… 保健室にでも行っているんだろうか?人の事は言えないが、顔色悪かったもんなぁ。
「…… なぁ、充」
「ん?」
「お前も顔色悪いからさ、保健室行って来い。次の授業の先生には言っておくから。んで、ついでに清一の様子見て来てやれよ」
圭吾にそう言われたが、俺は「いや、別にそこまでは——」と答えようとした。なのに、「いいから行ってこい」と言葉を遮ってまで言われてしまい、気迫負けした俺は、仕方無く無言で頷いた。
「ほら、休み時間のまだあるうちに、行った行った」
追い払うみたいな仕草をし、「早く行け」と圭吾に念を押される。
「あ、あぁ」
頷いて、席を立つ。俺が保健室へ向かおうとすると、「しっかり休めよー」とイマイチ空気の読めていない声で琉成が声をかけてきた。
「朝からぎこちなかったもんなーアイツら。仲直りできるといいけど」
「そうなのか?全然気が付かんかったわ」
圭吾の呟きに対し、琉成がきょとんとした顔をした。
「付き合い長いと、長いなりに色々あるんだろうけど…… アイツらの場合は特に、色々と難しいんだろうなぁ」
ため息をつき、ボヤきながら圭吾が二個目のパンの袋を開封する。すると、口に入れようとするや否や、琉成が圭吾のパンに噛り付いた。
「……俺が常に空腹なの、お前のせいじゃね?」
「ほうかもな!」
口にパンを頬張りながら琉成がとてもいい笑顔で笑ったせいで、彼は圭吾から腹に一発、激しい強打を食らう羽目になったのであった。