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「ちょーいい天気」
カーテンを開けて伸びをするらっだぁさんの声で完全に目が覚めた。
久々にぐっすり寝れた気がする。
頭もスッキリしていて体の怠さもない。
昨日のことも忘れてしまうくらい心身共に軽さを感じている。
「ちょっとは寝れたか?トラゾー」
「あの、…ぐっすりでした。…俺、寝言とかいびきとか大丈夫でした?」
「俺も熟睡してたから全然、気にしなくていいぜ」
目が覚めて、らっだぁさんに抱きつく俺と、そんな俺を抱きしめて寝ていたらっだぁさん。
時が止まったかのように体が強張っていた。
次いで目を覚ましたらっだぁさんの爽やかスマイルに返事をして起き上がる。
「トラゾーあったかいから抱き枕みたいにしちゃった。ごめんな?」
「俺の方こそ、ごめんなさい…なんか、安心して…」
「いや、嬉しい限りだわ」
男に抱きつかれて嬉しいとは稀有な人である。
「さて、準備して出掛けっかぁ」
「はい」
ただ、俺は替えの服も何も持ってきてない。
服屋さんに入った時の服でいいかと思って、着替えようとしていた。
「上の服くらいなら貸すよ」
思案していたら声をかけてくれた。
「え、でも…」
「俺は気にしないよ?」
はい、と渡されたのは青みがかった薄灰色のオーバーサイズの七分袖のパーカーだった。
「これならトラゾーでも着れるかな」
「似合いますかね…」
「トラゾー可愛いから大丈夫だって」
受け取った服を着るとらっだぁさんの匂いがする。
「(すごいいい匂い)」
「似合ってんよ」
らっだぁさんも服を着替えていた。
細身の人だから何着ても似合う。
「らっだぁさんもかっこいいです」
「ありがとな」
「何着ても似合う人って羨ましいです」
純粋にそう思う。
俺の周りにはかっこいい人や可愛らしい人がいる。
しかもみんなオシャレだ。
じっと俺を見るらっだぁさんは苦笑いしている。
「もっと自分に自信持ったらいいのに」
「…それは難しい話ですね」
「ま、俺は無理にはしないからさ」
にこっと笑って俺の手を引いた。
「ほら行くぞー」
「はい」
電車に乗って、少し離れた映画館に行った。
これならぺいんとたちにも会わなくて済む。
「面白かったですね」
「うん、来てよかったな」
パンフレットまで買ってしまった。
ロッカーに置いた本も回収すると帰りの荷物が増えるけど、嬉しいものなので構わない。
「トラゾーが楽しそうで俺も嬉しい」
「?、ありがとうございます」
「お世辞じゃねぇからな」
間髪なく言われて、たじろいだ。
「お、れも嬉しいです。今日、ホントに楽しい、です」
いつものように優しく笑うらっだぁさんに素直にお礼を言う。
「ん。じゃあ、次どこ行こうか?先輩の俺がなんでもしてやるよ」
「!、いや、もう充分してもらってるのに…申し訳ないですよ…っ」
「お前は甘えることと頼ることと素直になることをきちんと覚えた方がいいぞ」
「ゔ…」
相手に迷惑がかかるようなことはしたくない。
「トラゾーが甘えたりすりゃあ、みんな噎び泣いて喜ぶぜ?」
「そんな大袈裟な…」
「いや、マジで。現に俺は嬉しいもん」
空いてる方の手を引かれて繋がれる。
「頑固で堅物なトラゾーが頼ったり甘えてきたりするとめっちゃ優越感感じる」
らっだぁさんはにっと笑う。
「えぇ…?」
「トラゾーの泣いた顔も初めて見たし」
「そりゃ、人前では泣かないようにしてましたし…」
人前で泣くなんて恥ずかしい。
「俺の前では泣いたじゃん」
「あれは……だって、いっぱいいっぱいになってたから…。それに、らっだぁさんは揶揄ったりしないでしょ…」
「絶大な信頼を寄せられてんなぁ、嬉しい限りだけど」
「信頼してなきゃ、一緒に寝ませんし泣きませんよ…」
段々と恥ずかしくなってきた俺は繋がれる手を離してほしくて揺さぶった。
「も、もうこの話は終わりです!」
「照れてんのか?トラゾーは可愛いなー」
「揶揄わないでください…っ」
らっだぁさんが変な笑みを浮かべ始めて、繋ぐ手に更に力を入れてきた。
「次行こ、つぎー」
「もう!ちょっとあんた人の話聞きなさいよ…!」
わはは、楽しそうにしてる先輩を見て徐々に毒気が抜かれていった。
諦めた方が得策だ。
「〜〜!、…分かりました。…素直にらっだぁさんに従います」
「それでよろしい」
そこで漸く力が緩められた。
離しはされないが。
「んで?トラゾー何したい?」
「へ?えー…んー……俺は昨日、自分の用事は終わらせちゃったんで、ホントにらっだぁさんの行きたいとこでいいですよ」
「えぇ…俺も別に行きたいとことかねぇかな」
「映画を男2人で観に行くのもなかなかでしたけど…」
「そうかぁ?別に普通じゃね?」
複数人ならともかく2人は、なんだか変な感じがする。
いつも4人でいるせいなのだろうか。
「ま、いつもは4人だしな。2人っきりってのに慣れてないんだろ」
「おそらく…」
「ま、俺とデートしてるって思ってくれたらいいよ」
「デ…⁈」
「そうそう。あいつらのことは一旦忘れて今は俺だけのこと考えてたらいいじゃん」
かっこいい人がかっこいいことを言うと様になっている。
「……分かりました。今はらっだぁさんだけにします」
「渋々感が否めないな…」
「ほら、早く!もうどこでもいいから行きましょう!」
「うわっ、ちょ、いきなり引っ張んなって!」
騒ぐらっだぁさんを無視しつつ、赤くなった顔を見られないように先輩である人を引っ張っていった。
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