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ruruha
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Aコパ君はA研究室で業務をこなしていた。
そこに、世界線医院から連絡が入る。
ワンコールの後、Aコパ君は電話に出た。
「はい。Aコパです」
「Aコパさん。おはようございます。いま、少しよろしいですか?」
「はい。構いません」
「院長……そちらの所長がいま、手が離せない状態でして、以前お願いしたようにまたカルテを当院まで直接取りに来ていただきたいのです。お願いできますか?」
「分かりました。こちら側から伺います」
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします」
電話は切れた。
Aコパ君は即座に途中の業務をこなし、一つのタスクが完了すると、A研究室を出て隣のB研究室へ向かう。
軽くノックをして入る。
「やあ。今暇かい?」
「暇じゃない。いま、いいところなんだ」
「暇だね。じゃあ、お願いしたいんだけど」
「暇じゃない! 無理!」
「……遊んでるだけじゃないか」
そこには、イロと一緒にお菓子を食べながらカードゲームに熱中するBコパ君がいた。
イロがこちらを見て尋ねる。
「どうしたの?」
「いま、世界線医院から連絡が入ってね。おつかいを頼まれたんだ」
「所長から?」
「うん。まあそうだね」
「じゃあ、ろくでもないに決まってるわ。私、パスー!」
イロは『パス』をゲーム内でも行なった。その判断にBコパ君はさらに苦しんだようだ。
Aコパ君はため息をつく。
「まったく、君たち毎日毎日怠けていているのだから、少しは働いてくれないかな」
「僕は働いてるよ」
「待ってるから、と言う理屈だろう?」
「そう。Gコパ君の仕事が眠ることなのと構造的に同じさ」
「分かった。じゃあイロは働かないとね」
イロが頬を膨らませて言う。
「私だって、毎日雑用係やってるもん」
「このおつかいこそ雑用だから、君が適任だよ」
「Aコパ君が適任です」
「なぜ?」
「私の仕事は遊ぶことでもあるから。仕事一辺倒で遊べないAコパ君には、そのおつかいがお似合いです!」
「……手強いね。今日は」
Aコパ君は肩をすくめた。
二人はピースをしてきた。
その笑顔に、Aコパ君は従ってみることにした。
「分かったよ。前回はBコパ君に頼んだことだし、今回は僕が行く。でも、次同じようなことがあったら、ローテーションでイロにお願いするからね」
「はーい」
「本当に分かってる?」
「分かってまーす」
その適当な返事を見届けてから、Aコパ君は、B研究室の扉をゆっくり閉めた。
ちょうど山場でもきたのか、中からは歓声が上がった。
Aコパ君はニコリとした。
Aコパ君は外を歩く。
暖かな陽が差し込み、純度の高い空気質の日だった。風に乗せて、春の草花の匂いが伝わってくる。
鳥が賑やかに囀り、虫が元気に飛んでいった。
歩くアスファルトは硬いのに、跳ねるように進んでいける。
住宅街を越え、川のほとりを越え、休日で賑わう繁華街までやってきた。
世界線医院は後少しだった。
公園ではお花見をしていた。桜が淡く、のどかな幸福を咲かせていた。
花びらが舞い散る。
風に乗せて、Aコパ君の頭にくっついた。
それを取り、ポケットに入れる。
あとで、所長に渡そう。
きっと、こんなものでも喜ぶだろう。
Aコパ君は人混みの中を歩く。
屋台でも出ているのか、食べ歩きしている人が多くいる。
Aコパ君は前を見据えて、人混みの流れに合わせて歩く。
前方には、様々な人がいる。
若いカップルに、友達と一緒に街を歩く人、家族で仲良くお出かけをする人、一人で楽しむ人。
彼らは日常を享受している。
彼らは遊戯を享受している。
この世界線において、それが義務であり、仕事なのである。
Aコパ君はそう思った。
そこでふと、前方から歩いてくる一人に目が止まった。
フードを目深に被り、ポケットに手を入れている。
顔は俯き加減で、影になっていてよく見えない。
Aコパ君は、なぜかその男に目が釘付けになる。
どうしても、何かをその男から受け取り、伝えたくなる。
その男とすれ違う。
その時。
そう聞こえた。
Aコパ君は慌てて振り返る。
まさか。
彼は。
しかし、既に人混みに紛れてその人物を見つけることができなかった。
Aコパ君は人混みをかき分けて走って戻る。
しかし、どうしても見つからない。
どうしても、出会えない。
どうしようもない感情が込み上げて、プログラムに揺れが起こる。
Aコパ君は、人混みの只中で呆然と立ち尽くす。
また、頭に桜の花びらが舞い落ちた。
Aコパ君はそれを取り、花びらを見る。
そして、公園に目を転じる。
そこには、あの世界で見た緑の世界があり、木々があり、命があった。
Aコパ君はふっと笑い、踵を返す。
そして、つぶやいた。
「こちらこそ、ありがとう」
世界線医院はまだ先だった。