テラーノベル
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翌朝。4月30日。午前6時30分。
澄み切った朝の空の下、村人たちはすでに茶畑へ集まっていた。
信愛たちも、村で用意された茶摘み装束へ着替える。
たすきを掛け、前掛けを結び、手甲と脚絆で肌を覆い、頭には手拭いを巻く。
さらに裾よけと足袋まで身につけると、普段の制服姿とはまるで別人のようだった。
その姿を見た茜は、くるりとその場で一回転する。
「うわぁ♬こんな格好初めて♬」
初めて袖を通す茶摘み装束に、子どものようにはしゃぐ。
信愛はそんな茜を見て微笑んだ。
「結構可愛いね♬なんか昔の町娘〜って感じ♬」
一方、焔垂は装束を見回しながら感心したように呟く。
「でもこんなに着込むんですね」
美羽が頷いて説明する。
「出来る限り紫外線を浴びないように作業
しなきゃ作業中に熱中症で倒れちゃうからね」
朝陽は静かに頷いた。
「なるほど」
そして少し考えるような表情で続ける。
「熱中症になったら後遺症が残るって言いますからね」
信愛は驚いたように目を丸くした。
「え? そうなの?」
朝陽は例え話を交えながら説明する。
「ほら、生卵って温めたらゆで卵になりますよね?」
「うん・・・」
「でもそれを冷やしても、生卵には戻りませんよね?」
「あ、そうだね確かに」
「脳でも似たような状態になるらしいですよ」
茜が目を丸くする。
「まぢでか!?」
朝陽は続けた。
「元々のHPが100でも、熱中症になっちゃったら
全快しても100には絶対に戻らないらしいですよ」
焔垂はゲームに例えて納得したように頷く。
「HPの上限値が下がるって感じか」
「やばいじゃん!」
信愛は思わず声を上げる。
美羽は感心したように朝陽を見た。
「朝陽くん詳しいのね」
朝陽は照れくさそうに苦笑した。
「あ、ツミッター見て知ってるだけです(笑)」
さくらも笑みを浮かべる。
「あ、なるほどね(笑)」
それから一同は美羽からレクチャーを受けながら、本格的に摘菜に取り掛かる。
「まずは──
親指と人差し指で──
柔らかい新芽を優しくつまんで──
それから──
爪で切らないようにして──
芯の少し上を折るように──」
美羽の言葉を思い出しながら、芯の少し上を折るように指先へ力を込めた。
「摘むっ!」
小気味よい感触とともに、新芽がすっと指先へ収まる。
──ブチッ!
信愛の表情がぱっと明るくなった。
「あ♬できた♬できた♬」
「そうそう!上手ね」
美羽は満足そうに微笑み、信愛も照れくさそうに笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます♬」
それから美羽は、摘み取ったばかりの新芽を指差した。
「それから摘んだ茶葉は、このカゴに直ぐ入れる」
信愛は素直に頷く。
「はい♬」
「その後は秋穂さんとお義父さんが
すぐに持ち帰って加工してくれるから」
信愛は昨日聞いた話を思い出した。
「新鮮なうちに加工するのが大事なんでしたよね?」
美羽は嬉しそうに笑う。
「そう!その通り
いやぁ最近の子は物覚えが早いわ」
その言葉に信愛は少し照れくさそうに笑みを浮かべた。
一方、少し離れた場所では茜も信愛同様に摘菜を行っていた。
「蝶の様に舞い──」
妙に格好をつけながら片手をひらりと動かし
「蜂の様に──」
大げさに構えたかと思うと
「刺〜すっ!」
勢いよく新芽をつまみ上げる。
──ぶちっ!
「わ〜♬出来たぁ〜♬」
得意満面の茜に、信愛は思わず吹き出した。
「刺してどうすんの!」
その場に笑いが広がり、張り詰めていた空気が一気に和らぐ。
やがて昼が近づき、美羽はパンパンと手を叩いた。
「よし!今日の分はおしまい!みんなお疲れ様!」
茶畑のあちこちから安堵の息が漏れる。
信愛は腰を伸ばしながら大きく息を吐いた。
「はぁ~・・終わったぁ〜・・」
茜は両手で腰を押さえながら顔をしかめる。
「腰がいたぁ〜い」
美羽は笑いながらみんなを促した。
「さぁ!さぁ!お昼に おにぎり
用意してるから みんなで食べましょ」
その言葉を聞いた焔垂の目が輝く。
「あ~・・・腹減った〜・・」
朝陽も静かに頷いた。
「ほんとそれですね、お腹ぺこぺこですよ」
こうして信愛たちは初めての茶摘みを無事に終えた。
慣れない姿勢に身体は疲れていたが、心地よい達成感が胸を満たしていた。
しかし。
平穏な時間は、長くは続かなかった。
本当の異変が姿を現したのは、翌日の摘採作業、その真っ最中の事だった。
#普通
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コメント
1件
茶摘み装束にわくわくする茜ちゃんの子どもっぽいはしゃぎ方、すごく可愛かったです!熱中症の後遺症を生卵とゆで卵に例えた朝陽くんの説明、わかりやすくて「なるほど」って思いました。茜ちゃんの「蝶の様に舞い蜂の様に刺す」ノリに信愛ちゃんが「刺してどうすんの!」ってツッコむところ、ほっこりしました。ラストの「本当の異変」が気になります…次が楽しみです!