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#大人の恋愛
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週明けから忙しかった。
今週も様々な媒体絡みの締め切りが目白押しだ。おまけに、搬入されてきた番組のポスターや各社から送られてきた情報誌の整理の他、局長の中沢に頼まれた会議資料の作成もあって、いつも以上にバタバタした。
この土日は、矢嶋の告白を思い出しては悶々とする時間を過ごしてしまった。しかし多忙な週明けとなったおかげで、頭の中は速やかに仕事のことで埋め尽くされ、矢嶋のことを思い出す暇がなかったのは良かった。
そして今日は、某情報誌に掲載予定の原稿の締め切り日だ。
原稿を書き上げて、佐竹に確認をお願いする。その結果、指摘された部分があったため、それを修正してから、担当編集者宛にデータ化して送信する。しばらくしてから確認用として、その内容を反映させたファイルが送られてきた。それを佐竹に見せたところ、修正依頼を出してほしいと言う。担当編集者からは、一度程度の修正は可能だと聞いていたため、その内容を先方にメールで依頼する。
時間を置いて、相手方から修正された原稿が戻ってきた。メール本文に、これを最終版として印刷に回すと書かれている。
私はそれを打ち出した紙を手に、佐竹の元へと行く。
「チェックして頂いた原稿を先方に送ったところ、こういう形での掲載になるということで返信がきました。佐竹さんに転送しましたので、確認をお願いします。それが最終版だそうです」
私が見ている前で佐竹は添付ファイルを開いた。一字一句確認するように、その中身をじっくりと見ている。それから、ふうっと長い息を吐いたかと思うと、眉根を寄せて私を見た。
「こことここ、もう一度修正入れてもらってください。内容は今メールに打ち込んで、川口さんに送るから」
私は困惑した。内容的には影響がなさそうな、ちょっとした言葉遣い程度のものに思えたからだ。これまでの佐竹だったら、この程度の言い換えは許容していたと思われる。それに、先方からはこれが最終版だと言われている。さすがに、これ以上の修正依頼はかけにくい。
「ですが、お伝えしている通り、修正は一度ということで……」
佐竹は私の顔を見ないまま淡々とした口調で言う。
「このままではOKは出せないわ」
広報デスクである佐竹が許可を出せないというのなら、そのことを先方に伝えないわけには行かない。私は仕方なしに頷いた。
「分かりました」
席に戻った私は佐竹のメールを待って、先方にさらなる修正を依頼した。担当者には改めて電話を入れて、詫びながら説明する。
三十分もたたないうちに、先方から原稿が戻ってきた。佐竹が直してほしいと言っていた部分の修正はできているようだとほっとする。さすがにもう、これでいいと首を縦に振ってくれるだろうと思いながら、私は再び佐竹の元へ行く。
「届いた修正分を、今、佐竹さんに転送しましたので、確認をお願いします」
一度言葉を切ってから、私は固い口調で続ける。
「それとですね。これ以上の修正対応はできないそうです。編集権は編集部の方にあるからとのことですし、締め切りも迫っているので、この内容で印刷に回すということです」
それなのに佐竹は渋い声を出す。
「ここ、やっぱり直したいわ」
「……佐竹さん」
私は声を励まして彼女に言う。
「もう何度も修正をお願いしています。今言った通り、編集権はあちらにあるということですし、私の立場ではこれ以上お願いするのは無理です。どうしても修正が必要ということであれば、佐竹さんから直接お話して頂けませんか?」
「でも、担当は川口さんでしょ?だから、川口さんから伝えて」
「そうは言われましても、これ以上は……」
「だけど、こちらとしても、このままでいいとは言えないわ」
佐竹が真面目だからと言われればそれまでではあるが、それにしても、どうしてこんなに何度も執拗に修正しようとするのか。締め切りの大変さを知らない訳ではないはずだ。
いったいどうすればいいのかと、私は泣きたい気持ちになっていた。