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すんごく、ドキドキしちゃいました😍
はじめまして! ドキドキしながら一気読みしてしまいました。細かい情景描写がとても好きです。 続きが楽しみです😊
目黒くんから逃げ脱してきた俺は、先ほどの甘い時間ととろけた頭をリセットするように、シャワーを頭から被り、冷静さを取り戻そうと必死になっていた。
甘い掠れた声、耳にかかる吐息、大事だと全身から気持ちが溢れ出ているような指先、唇の熱…。
「ッはぁぁぁぁ〜、、だめだ。。。」
消えない。忘れられない。全部残っている。
脱衣所に向かった時に背後から聞こえた笑い声は、俺の反応を絶対に楽しんでいるようだった。
侵食されるかと思えば浅いところまででやめてしまう、なぞるだけかと思えば深く沈み込んでくる。
手のひらの上で転がされ、嬲られているような感覚には不思議と不快感がなく、相手が目黒くんだからなのか、そういう性癖を俺が持っていたことに気付いただけなのか、わからなくなってくる。
こんな気持ちになったことがない。ふわふわする。足が宙に浮くようで、心地良いような、落ち着かないような感覚に怖くなる。
誰かのことでこんなにも頭がいっぱいになる感覚を知らない。これが好きということなんだろうか。違うのかな。目黒くんにどうやって返事したら良いんだろう…。
気持ちが固まるまでは答えを出さない方が良い気がした。
自分ともう少し向き合ってみようと考えて、シャワーのつまみを絞った。
「上がったよ、お待たせしました。」
「うん、おかえり。」
「もう遅いし、寝ようか。」
「うん、そうだね。阿部ちゃん、ソファー借りていい?」
「えっ!!だめだよ。目黒くんに少しでも寝てほしくて泊まってもらったんだから。」
「いや。悪いよ。俺ここで寝かせてもらえたら十分だから。」
頑固だな、どうしよう…。絶対に疲れてるよな、目黒くん。
所詮、俺の家のソファーなんて高が知れている。明日に支障をきたすのは間違いない。
1人だとやっぱり不安なのかな、もしかして、テレビあるから気が紛れてソファーの方がいいのかな。
どうやって伝えたらベッドで寝てくれるかな…。
あ。そうだ。
「ねぇ、目黒くん」
「ん?」
「一緒にベッドいく?」
「っ!!!! いいの!??」
「ぇ、うん? いいよ?」
「わかった!!行く!!!」
どうしてか目黒くんすごく嬉しそう…。スキップしてる。誰かと一緒の方が安心するもんね。
今にも小躍りしそうな目黒くんを寝室まで連れて行き、ベッドに大人しく寝かせて、俺はベットの端に腰掛けた。
「…え?」
「ん?」
「…一緒に寝るんじゃないの?」
「えっ、、とりあえず一緒に行って、寝るまでは手を握っててあげようと思って…。」
「っく、、ふ、ふふ…あはははッ!!」
「な、なんで笑うの!!」
「阿部ちゃんほんとに面白い、、っふふ、わざとやってるのってくらい小悪魔だね。」
「こ、こあくま。。。」
「お誘いされちゃったのかと思った。」
「っ!?!?」
悪戯に笑う目黒くんの瞳に射抜かれて、何も言えなくなってしまった。
「それで?阿部ちゃんはそこに座って、俺の手を握ってくれて?俺が寝た後はどうするつもりなの?」目黒くんはとても楽しそうに、意地悪に尋ねてくる。ジリジリと追い詰められているようだ。
「、えっ、、と…、ソファーに行こうかな…と、思ってますが……」
「だめ。こっち来て。」
ぐいっと手を引かれ、バランスを崩す。転びそうになるところを、目黒くんに捕らえられ、そのまま抱き抱えられてしまった。
「め、めぐろくん…っ、、」
「このままがいい。やだ?」
「、、い、やじゃなぃ…けど……、これ、はずかしい…」
「ん…、はぁ、あべちゃんのにおい…落ち着く」
「話聞いてよぉ…」
目黒くんの腕にしっかりと抱えられてしまい、抜け出すことは出来なさそうだし、手もしっかりと握られてしまった。
「阿部ちゃん、俺、あれから頑張ったよ」
唐突に目黒くんが内緒話をするような小さな声で呟く。
「うん」
いつだって頑張っているはずなのに、どうして自分にそんなに厳しいのだろう。
「阿部ちゃんが言ってくれたから。頑張ろうって思えることが格好いいって。だから、失敗することが怖くても頑張れた。」
「そっか。すごいね。すごいよ、目黒くんは。」
「俺、すごいかな」
「うん、すごいよ。きっと、俺なんかじゃ想像もつかないくらい厳しくて、怖い世界に、たった1人で立ち向かってるんだから。」
今、目黒くんはどんな顔をしているんだろう。心細そうな声が寂しくて、繋いだ手を強く握り返した。
こんなことしかできないし、こんなことしか言えないけれど、少しでも目黒くんの不安が拭えるなら、なんだってしてあげたい。
「厳しいし、怖いけど、楽しい瞬間もたくさんあるんだ。俺が楽しいって感じた分、俺を応援してくれる人には、その何倍も楽しいって思って欲しいんだ。」
「何かを返したいと思えることはとても素敵だね。目黒くんは優しいんだね。」
「俺が優しいんじゃなくて、みんなが優しいから、優しくいたいんだ。それにね、俺、仲間がいるから、1人だけど怖くない時もあるんだ。」
「友達?」
「うん、友達で、仲間で、同士で、メンバー。どんな時もみんなで、たたかってきたんだ…」
「そっか。いいな、そんな人たちと頑張り合えるなんて。大切にしたいね。」
「…うん、たいせつなんだ、、あべちゃんとはなしてると、あったか…ぃ……。」
背後から規則正しい寝息が聞こえてきた。
眠りに落ちてからも相変わらず手を握る力は強くて、解けそうになかった。
誰かの体温なんて、子供の頃に感じたきりで、慣れないはずなのに不思議と心地よい。
自然と眠気に襲われる。
空いている手で目黒くんに肩まで毛布をかけ、俺は目黒くんに包まれて夜を手放した。
鳥の囀る音、トラックが走る音で目を覚ます。
いつも起きる時間よりは早い時間だったが、せっかくなら朝ご飯でも作ろうと思い立ち、心苦しいがなんとか目黒くんの腕から抜け出す。
とはいえ、俺の家にあるのはインスタントのお味噌汁と冷凍してあった鮭くらいだ。
一人暮らしなので外食やデリバリーばかりでは、と自炊をするようにはしているが、なかなか毎日作ることは難しい。いつか、ちゃんとお味噌汁を作りたいものだ。
卵があったのは幸いだ。卵焼きも用意しよう。
ご飯は早炊き設定にすれば間に合うかな?
お漬物があったら尚良しなところだが、それはまたの機会にしよう。
朝ごはんを作って食べるということ自体、俺の日常からしたら奇跡に近い。
たまにはこんな朝も悪くないと、魚が焦げ付かないアルミホイルをフライパンに敷いて火をかけた。
焼き鮭とお米の用意をしながら卵を溶く。
鮭に塩味があるから卵は甘くしようかな。砂糖を入れて少しだけ粉末出汁を加える。
四角いフライパンに少しずつ卵を入れてくるくると巻く。砂糖がたくさん入っているので焦げないように気をつけて、最後の卵に火が通れば少し達成感。久しぶりに作ったから不恰好だけど、味はきっと大丈夫だろう。
目黒くんも食べるかな。聞いてみようかな。
まだ眠っているであろう彼に声をかけようと寝室へ向かった。
寝室のドアをそっと開けて、室内の様子を伺うと、そこには無防備に眠る彼がいた。
「目黒くん」
肩をゆすってみるとうっすらと目が開く。
「ん…んん、、? あべちゃ、?」
「うん、阿部だよ。目黒くん、朝ごはん食べる?」
「あさごはん…?」
「うん、ちょっと早起きしたから久々に作ったんだけど、せっかくなら、目黒くんも一緒にどうかなって」
「あさごはん、、あべちゃん…つくった…………。
っ!!!食べるッ!!!!!」
「ぅお!!!? 元気だね、、」
急に飛び起きた目黒くんの勢いに驚く。そんなにお腹空いたのかな。子供みたい、ご飯は逃げないのにな。
「阿部ちゃんが作ったご飯。うれしい。早く食べたい。行こう、行こう、リビング行こう。」
どうやら空腹よりも「俺が作った」ご飯だということの方が目黒くんの中では優勢らしい……。
あぁ、、、うれしいな。
俺の全てを好きだと言って、表現してくれる。
電気ケトルの電源を入れてお湯を沸かす。
お味噌汁の粉末を2つ並べたお椀にあける。コポコポとお湯の沸く音がして、カチッとプラスティックの音が鳴り響く。分量通りにお湯を注げば、朝ごはんの出来上がり。
台所へ身を乗り出して尻尾を大きく振るように、今か今かとごはんを待っている目黒くんにお椀を渡して、少しだけお手伝いしてもらった。
「すご、、美味しそう。ありがとう」
「いえいえ、大したものじゃないけど、良かったらどうぞ」
「ううん、すごくうれしい。」
「そう?そう言ってもらえるとうれしいな、じゃあ…」
「「いただきます」」
「っ!! おいしい!! え、すごいおいしい!!」
「っふふ、そんなに? 普通だよ?」
「ほんとにおいしい!」
「ふふ、ありがとう」
「ん。目黒くん。ここ、ついてるよ?」
俺の頬を指さして伝える。
「ぇ、どこ?」
自分の顔をぺたぺたと触って探すけれど、見つけられなくてわたわた。
そんな彼が可愛くて、思わず手を伸ばした。
「ここ」
彼の右頬に付いたご飯粒を取ってあげる。
「ふふ、わんぱくだね」
思わずクスッと笑うと、目黒くんが俺の腕を掴む。
そのまま俺が取った一粒を口に含んで、指先にキスをする。
「俺の奥さんみたい。かわいい。」
「っ!!?」
赤くなった顔を誤魔化すようにお味噌汁を一気に飲み干した。
朝ごはんを食べ終えて、出勤の準備をする。
目黒くんはどうやら午後から仕事だそうで、こんなに早い時間から出てもらうことに申し訳なくなった。本人はその辺を散歩していくと言っていたが、せっかくゆっくり過ごせる日なのに、と申し訳なさは拭えなかった。
家を出て、目黒くんと別れる時間。
「送ってく」と言って目黒くんは聞かなかった。
朝だし、しがない成人男性のサラリーマンに何か起こるわけもないのに、
「絶対に阿部ちゃんを見送る」の一点張りなので仕方なく駅まで一緒に歩く。
俺の職場の最寄り駅はなかなかに人通りも多いので、流石にここまでじゃないと目黒くんが大変になっちゃうから、と頼み込み、なんとか改札まで見送ってもらう形で落ち着いた。
改札機に定期券をかざし、ゲートを抜ける。
目黒くんの方を振り返ると、腕が飛んでいってしまいそうなほど大きく手を振ってくれていた。
胸の前で小さく手を振りかえし、ホームへと足を進めた。
あたたかかった。目黒くんと過ごした時間は優しくて、甘くて、少し危険で、まだどきどきしていた。
この気持ちはなんなんだろう。向き合うとは言ったものの、自分だけの力では手に負えそうもない。
誰かの意見を聞いてみようと、そもそもこの状況を作り出したあの友人に、端的なメッセージを送った。
「ふっか、明日 14時集合」
………………To Be Continued